第138話 欲望丸出し
「貴国ではどうされるおつもりですか?」
ポロロン王国の東に位置するレツカ公国の公王、ゲスタール。
そして、その隣国であるカール王国の国王オブール。
今現在、その二者による、魔法通信を用いたトップ同士の会談が開かれていた。
因みに、魔法通信にかかるコストはとんでもなく高い。
1分で双方10億近くかかるものであるため、使われるのは緊急時のみだ。
「死者蘇生は魅力的ですからな」
「全くです」
「可能なら男爵……いや、独立するから国王か。まあ貸しを作っておくのは悪くないでしょう。幸いな事に、この戦争に介入する名分もありますからな」
普通、たとえ使者がエリクサーを持参してきたからというって、死者蘇生の話など素直に受け入れはしないだろう。
だが公王ゲスタールも、国王オブールはそれを真実として受け止めていた。
何故か?
そこには光と闇を司りし精霊・デストラクションが関わっていた。
彼の仕事は、主である邪霊神ターミナスを楽しませる事。
それは即ち、エドワードやその周囲をひっかきまわす事である。
だが今回、思わぬ横やりが入ってしまう。
長らく連絡を取っていなかった邪神配下の黒竜デスゲイザー――邪神は存在すら忘れていた――が強く関与してしまった事で、エドワードが絶体絶命の危機に陥ってしまったのだ。
自身の主人であるターミナスは、エドワードと長く遊ぶ事を望んでいる。
なのに、こんなに早く彼が死んでしまってはまずい。
そう考えたデストラクションは、そのフォローのため、洗脳と言う程ではないが、支援の要請を受けた首脳部の思考をコントロールした。
そのため、公王ゲスタールも国王オブールも、死者蘇生ありきで話をしているのだ。
「帝国は各国……いや、世界の敵として、邪悪な国家とエルロンド教に指定されましたからな。ですが……」
「問題は、我らが支援した所で何とかなるか……という点ですな」
仮に支援を要請したすべての国が支援を送ったとして、今の帝国を追い払う事は難しい。
ポロロン王国の惨状から、両王はそう危惧していた。
「エルロンド教が、聖戦を宣言するのも時間の問題とは聞いておりますが……」
聖戦とは、用は邪悪な力を滅するためという大義名分の下の戦争である。
エルロンド教からの再三の警告を無視し、邪悪な力でポロロン王国の侵略を進め。
あろう事か、周囲を威嚇するかのように国境周りにデスナイトを配置し出した帝国に対し、エルロンド教は各国に呼びかけ聖戦を仕掛けようとしたいた。
己達の掲げる正義に準じて。
そしてこの世界におけるエルロンド教の影響力は大きく。
一旦聖戦を呼びかければ、相当な数の国がそれに応える事になるだろう。
「それに乗じれば、被害を最低限に抑えながら要請に応えられるのでしょうが……いかんせん、教会は動きが遅すぎますからな」
エルロンド教が奉じているのは、その名からも分かる通り、精霊神エルロンドである。
精霊神は寛容で慈悲深く、とても穏やかな神だったと言われている。
そのせいか、精霊神を奉じるエルロンド教では、相手が邪悪だからと言って問答無用で攻撃を仕掛ける様な事はなかった。
まずは勧告を何度か行い、それでもダメな場合にのみ強硬手段へと移るスタンスだ。
つまり、動きが鈍い。
「ポロロン王国の情報を見る限り、聖戦を布告するタイミングで動いたのでは手遅れになってしまう可能性が高い」
「ふむ……困ったものですな」
「そこで、周辺国と同盟を組んで戦力を送るのはどうかと思いましてな。その提案のため、こうして通信を送らせていただいた訳です。如何でしょう?」
「ふむ……確かに、単独で帝国を跳ねのけるのは難しいですが、足並みを合わせれば聖戦までの時間稼ぎ位は可能でしょうな。まあその場合、多くの兵を失う事になりましょうが」
「致し方ありません。死者蘇生のため、下の者には尊き犠牲になって貰いましょう」
下を犠牲にしてでも、死者蘇生の権利は手に入れたい。
その気持ちを隠す気すらない様だった。
公王ゲスタールは。
「そうですな。では、その方向で」
「分かりました。他国へは私が話を通しておきます」
「おお、そうですか。ではよろしくお願いします」
欲望丸出しの、最低な理由の援軍。
だがこの決定が、エドワード達を首の皮一枚で救う事となるのだから皮肉な物である。
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