第133話 制圧
「おらぁ!」
スキルを完全に封殺され、驚くゴーム。
その瞬間に一気に間合いを詰めたタゴルが、手にしたナタンで切りつける。
「ぬあっ!?」
その一撃をゴームは何とか手にした剣で受け止めるが、既にセルフバーニングで【シスターガーディアン】を発動させているタゴルの圧倒的なパワーを受け止めきれずに吹き飛ばされる。
「くっ!下郎共が!我が魔法を喰らえ!!」
「おっと、させないわよぉ」
バルゴンは魔法タイプだ。
タゴルに向かって素早く魔法を放つが、それを間に素早く割って入ったエクスが蹴り飛ばして弾いてしまう。
「ま、魔法を蹴り飛ばしただと!?」
「うふふ、貴方の相手は……わ・た・し、よ」
エクスが体をくねらせ、ウィンクを飛ばす。
「くっ、この化け物が!お前達!ぼうっとしてないで奴らを始末しろ!!」
その不気味な姿に恐怖を怯え、本能的にバルゴンは距離を開け。
そして急な事態に未だ動きださない周囲の騎士達を叱咤する。
「は……はっ!」
「奴らを始末しろ」
その命令に応じ、騎士達が動き出す。
いや、動き出そうとしたところでその動きが止まる。
「な、なんだ……」
「か、体が動かない……」
「なにが……」
全身を圧し潰すように伸し掛かる、恐怖という名のプレッシャーに。
「やれやれ。またつまらん事に呼び出してくれたな」
「エドワード様の命令です。不服なら、後でカッパーさんに伝えておきますよ」
「だ、誰もそんな事は言ってなかろう!」
周囲の護衛騎士達の動きを止めたのは、クロウの召喚したリッチ――スピランスである。
彼の放つ強烈な死のオーラは、一定レベル以下の力しかない者達を行動不能にする効果があった。
「なっ!?まさかリッチか!?」
バルゴンがスピランスの姿に驚愕し、声を上げる。
領主館に突如凶悪なSランクモンスターが現れたのだから、その反応は当然と言えるだろう。
「くくく……人間どもよ。我を恐れるがいい!」
「調子に乗って、無駄に殺すのは無しですよ」
「ふん、分かっている」
「これほどの魔物すら従える術を持つのか、スパム男爵は……どうやら伊達や酔狂で、独立を行おうとしたわけではない様だな」
ジャガリックに拘束されているアイバス子爵が、現状――
護衛騎士達はリッチのせいで真面に動けず。
それに加えて筆頭騎士のゴームはタゴルにパワーで押され。
更に、次男のバルゴンまで魔法を容易く蹴り飛ばす化け物に睨まれ身動きが取れない。
「なるほど、貴様らの勝ちだ」
そんな誰の目から見ても逆転は不可能な状態を、子爵は素直に認める。
その言葉に嘘はない。
だが、だからと言って、アイバス子爵家がスパム男爵家に膝を折る訳ではなかった。
「この場はな。子爵家にはまだカルゴンと、倅が率いる騎士団がおる!」
精鋭騎士団を失ったとは言え、まだアイバス子爵家には300名からなる騎士と、それを指揮する三男のカルゴンがいた。
彼らは今現在、領の境にある砦に待機している状態だ。
「この報は直ぐに息子の耳に入る!この領が容易く手に入ると思わぬ事だな!」
スパム領にとんでもない精鋭達が潜んでいた事は、確かに子爵にとって驚愕べき自体ではあった。
だが、男爵家には騎士団と呼べる様な物はなく。
更に、子爵家は周囲の貴族と約定を結んでいるため、その支援も計算に入れれば十分過ぎる程の勝機があった。
だからアイバス子爵は強気なのだ。
だが――
「酷な話ですが……三男のカルゴン殿は先ほど死亡したと、同僚より連絡がありました」
交渉が上手く行く可能性は初めから低く。
失敗と同時に攻撃を仕掛ける事は、初めから決まっていた事だ。
当然、その攻撃対象には領境の砦に控える騎士団も含まれている。
そのためカルゴン達の元には、タニヤンとランクアップで強化されエレメンタルゴーレムが向かっていた――姿を消す能力を獲得したので、直ぐそばまに近づくまで察知されない。
タニヤンは人間に対して一切の情けをかけない精霊である。
そのため、ジャガリックの様に人質にとる様な真似は一切せず、開始の合図と同時に騎士団のトップであるカルゴンの首を跳ね飛ばしていたのだ。
「な、なにを馬鹿げた事を!」
「直ぐに分かる事です。ですが……スパム男爵様に忠誠を誓うのであらば、御子息は……いえ、この話は後に致しましょうか。まずは――」
「な、なんだこれは!?」
地面の石材が急に盛り上がり、アイバス子爵の全身を包み込むように拘束する。
ジャガリックの能力によるものだ。
そしてこの能力で変化させられた石は鋼よりも頑丈であるため、子爵の力で破る事はまず不可能と言っていい。
「ここの制圧を先に済ますとしましょう」
手の空いたジャガリックが、動けない騎士達を次々と拘束していく。
その間、エクスはバルゴンをハグで締め落とし。
タゴルは起き上がってきたゴームを力でねじ伏せた。
こうしてアイバス子爵領は、スパム男爵家によって制圧されたのであった。
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