第132話 成果
「アイバス子爵様。それはスパム男爵様の申し出を断り、敵対すると受け取らせていただいて宜しいでしょうか?」
好き勝手なやり取りをしている子爵達に、ジャガリックが問いかける。
それが子爵家の判断のなのかと。
「男爵の行動はとても容認できるものではない。私はポロロン王国に仕える子爵として、スパム男爵の離反を処断する。その旨を帰って主に伝えるがいい」
「残念ですが、私がすべき報告は一つだけ……そう、アイバス子爵領の制圧の報のみです」
言葉と同時に、ジャガリックがアイバス子爵へと突っ込んだ。
相手がノーを突き付けてきた場合は、即座に制圧に移る。
それがスパム男爵家側の算段だった。
「——っ!?」
とんでもない速さ。
ジャガリックのそのスピードは、周囲にいた護衛の騎士達も反応できな程だった。
だが――
「させん!」
その動きに反応した者が一人だけ居た。
長年子爵家に仕えてきた、筆頭騎士ゴームだ。
実力的には、Aランク。
それも上位に分類される騎士である。
その子爵の懐刀というべき男は、ジャガリックの超高速の動きに対応してみせた。
突進してきたジャガリックのその首筋に向かって、腰にはいていた剣を抜くと同時に切りかかる。
しかし――彼が子爵を襲う暴漢を斬る為に振るった剣は『きぃん!』という音共に、無情にもジャガリックの体に弾かれてしまう。
そう、弾かれたのだ。
防御すらしていないジャガリックの体に。
Aランクレベルの騎士の一撃が。
土系統の精霊は、精霊中もっとも高い防御力を誇る。
しかもそれがメガ精霊ともなれば、その防御能力はけた違いだ。
今のジャガリックには、本気を出したエクスレベルでなければ真面にダメージを与える事も出来ない。
「あまり手荒な真似はしたくありませんので、動かないで頂けますか」
強烈な斬撃を物ともしなかったジャガリックは、そのままアイバス子爵の背後を取って締め上げ、更に、首元に土の力で生み出した刃を突き付ける。
アイバス子爵はこれで完全に人質になった形になった。
だが――
「戯言を……構わんゴーム!わしごとスキルで斬れ!」
脅しを無視し、アイバス子爵は迷わず自分ごと切れとゴームに命じる。
アイバス子爵にとって、自らの家門は人生の全てだった。
エドワードを確保しようと企んだのも、決して保身のためなどではなく、全ては子爵家を守るために他ならない。
だから迷わず選んだのだ。
自身の命より大事な子爵家を守るために、命を捨てる選択を。
「承知いたしました!」
そしてそんな主人の選択に、ゴームは迷いなく答える。
忠誠心がない訳ではない。
忠誠を誓っているからこそ、主の覚悟に迷いなく答えるのだ。
「爆裂剣!」
ゴームが剣を振り上げると、その刀身が真っ赤に変わる。
彼の固有スキル【爆裂剣】だ。
斬撃と共に爆発のエネルギーを叩きつける、高火力スキル。
『参りましたね』
振り上げられた剣を目にし、ジャガリックが心の中で呟く。
直撃すれば流石に土のメガ精霊でも、ダメージが通るレベルだ。
とは言え、致命打を喰らう程ではない。
ジャガリックが参ったと言ったのは、それを喰らえば確実にアイバス子爵が死んでしまうからだ。
彼は人間に好意的だった。
しかも相手は自らの大事な物のため、自らの命を投げ出す覚悟のある人物だ――嘘を見抜けるので、自分ごと斬れという言葉が真実である事は確認できている。
そんな人物を死なせたくないというのが、彼の本音だった。
『自分ごとは想定していなかったので、防御は間に合いそうにない……仕方ありませんね』
死なせるのが惜しいのなら、エドワードに蘇生させて貰えばいいだけではないか?
ジャガリックにそんな選択肢はない。
主であるエドワードのポイントを消費してまで、役に立つかどうかも分からない人間を蘇生させる事を進言するなど、ありえないからだ。
「お許しを!」
「バルゴンよ!後は頼んだぞ!」
ゴームが間合いを詰めると同時に剣を振り下ろす。
いや、振り下ろそうとして――
「やらせっかよ!ブラッドブレード!」
飛来した、血を思わせる深紅の刃がゴームの振り上げた剣にぶつかる。
「なんだと!?」
放ったのはタゴルだ。
自身の血の力をナタンに混め、放った一撃。
それはぶつかった衝撃で爆発した【爆裂剣】のエネルギーを喰らいつくし、周囲へ発生するはずだった被害を飲み込んで消滅した。
「お見事です。タゴルさん」
少し驚きつつも、ジャガリックはタゴルに称賛の言葉を贈る。
咄嗟の判断で、敵のスキル攻撃を無力化して見せたタゴル。
実戦経験を積んできた賜物であるその成長した姿に、ジャガリックは『やはり主に選ばれただけはある』と、満足げに微笑むのだった。
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