第127話 敵意
水、土、風、火。
エドワードには4体の精霊が仕えている。
エドワードに絶対の忠誠を誓う4体だったが、人間に対する評価は二つに分かれていた。
比較的好意的な2体と、敵対視、もしくは嫌悪感を抱く2体とに。
火の精霊ポッポゥは、大本になった火の精霊王に人間の友がいた事からも分かる通り、人に友好的だ。
また土の精霊であるジャガリックも、大本の精霊王が何も考えず生きていたという事もあり、人間に対しては好意的である。
だが、タニヤンとカッパーは違う。
風の精霊王は、情報収集能力が他の属性の者達より優れていた。
そのため人の醜さを良く知っており、彼らを毛嫌いしていたのだ。
そしてその残滓から生まれたタニヤンにもまた、その悪感情が引き継がれているため人間を嫌っている。
そして水の精霊王もまた、人間を嫌っていた。
エルロンドの右腕であり、精霊神の苦悩を側で見て来たから。
主を苦悩させる煩わしい者達に好意など抱く筈もない。
当然、その残滓から生まれたカッパーも人間を嫌っている。
カッパーがカンカンに絡まれた際、もしあれがエドワードの付き添いでなければ、彼女はきっとその場で全員を殺していた事だろう。
「ふむ……どうやら、手を下す必要はなさそうじゃな」
馬車に乗るオルブス夫妻の様子を眺めていたタニヤンの分身が呟く。
タニヤンは基本的にエドワードの前でしか姿を現さず、また、周囲の人間達の事を心の底から信じてはいなかった。
それでもエドワードに選ばれた人間達。
彼の配下と呼んで差しさわりない者達相手に対しては、敵意を見せる事はなかった。
エドワードに嫌われる事を忌避していたからである。
その点はカッパーも同じと言えるだろう。
――だが、オルブス夫妻は自ら進んでその枠から外れてしまった。
彼らはスパム領――エドワードへの助力を打ち切り、カンカンを回収してここから離れようとしていた。
それはタニヤンから見れば、明確な裏切り行動である。
そしてオルブス親子は、エドワードやスパム領について多くの情報を手にした状態だ。
彼らがそれを第三者に売り渡さないという保証は全くない。
もちろん、オルブス親子が持つ程度の情報を流されたらと言って、大した影響はでないだろう。
だが、念には念を込めておいて損はない。
彼らが死んで消えようとも、もはやスパム領にダメージがないなら、タニヤンがそれを実行しない理由はなかった。
――そう、タニヤンはオルブス親子がスパム領から離れた所で彼らを始末するつもりだったのだ。
だが、カンカンが自らの強い意思を両親に見せた事で風向きが変わる。
意図はどうであれ、オルブス親子は再びエドワードの為に働く事を選んだ。
そうなった以上、もはや彼らにタニヤンが手を下す必要はない。
「せいぜい、エドワード様の為に働くんじゃぞ」
もしカンカンが両親に素直に従っていたなら、オルブス親子は巨大な竜巻に飲まれ親子そろって命を落とす事になっていただろう。
だが、その危機が未然に回避された事を知る者はいない。
全てはタニヤンの胸の中に……
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