第125話 巻いてきやがった
カッパーが覚醒に入って三週間。
王都が陥落したという報告が俺の下に届いた。
「ふむ……」
帝国の侵攻は此方の予想を超えて来た。
追加のデスナイトが加わった事で、進軍速度が大幅に上がったためだ。
「国王は死んで、生き残ったのは三男と二女だけか……」
父王が死んだと聞かされても、特に悲しみなどは感じなかった。
あの人もあの人で、能力のなかった俺をゴミの様に扱ってたからな。
血が繋がってるなんて理由だけで慕情をつのらせる程、前世の記憶を戻した俺はお人よしではない。
因みに、王都の攻防戦に置いて国王は死亡したそうだ。
直前に太陽石を差し出し、降伏しようとしたがそれを受け入れられずに。
せめてケイレスが殺されたときに降伏してりゃあな……
降伏するのが遅すぎたのだろう。
まあ俺なら受け入れてただろうけど、帝国はそうじゃなかった。
そして国王は死んだ。
更に付け加えるなら、死因は戦死ではなかったる。
王都から逃げ出そうとしたところを、裏切った配下の貴族達に捕らえられて帝国に差し出され……その場で斬首されたとの事。
まあそれも仕方ない事だろう。
貴族達からすれば王国はもう終わりで、今後の事を考えての行動だと思われる。
戦後の立ち位置を少しでも有利にしたかっただろうからな。
しょせん、この国の貴族王族の上下関係なんてそんなものである。
王族は強いからトップに立っていただけ。
負けて弱くなれば、下の奴らから切り捨てられるのは当然といえば当然の流れだ。
「王都を落として、国王も斬首した。このまま進軍が止まるって可能性は……まあないよな」
「可能性は薄いかと思われます」
王家の血筋は直系だと第三王子と、第二王女。
それに、第四王子である俺が生き残っている。
傍系も含めるならその数はもっと多い。
ここまでの事をしておいて『太陽石が手に入ったからこの国から撤退するね』なんてのはないだろうし――もしそうなら、国王の降伏を受け入れてたはず。
この国を手中にする気満々の帝国は間違いなく、余計な禍根の芽を摘むために生き延びた王族を処分するはずである。
つまり侵攻は止まらない。
「はぁ……グローガンに期待するのも無駄だろうし、三か月はどう考えても厳しそうだよな」
グローガンは三男の名である。
裏切った貴族には捕まらず、母方の生家である侯爵家に逃げ込んだようだが、当然だがあいつに反撃の手立てなどはない。
侯爵家自体は確かに強い力をもっているが、それでも国を一方的に蹂躙するような相手と戦える訳が無いからな。
「救いなのは、侯爵家が敬虔なエルロンド教を信仰してる所だな」
デスロード達の存在を、エルロンド教は非難している。
そのため、侯爵家は降伏せず最後まで戦う可能性が高かった。
ちょっと酷い考えではあるが、この領地の為に頑張って侯爵家には踏ん張って欲しいというのが俺の本音だ。
だってこのままじゃ、三か月以内に確実にスパム領が攻め落とされてしまう。
なので本気で頑張って時間稼ぎして欲しい。
「にしても……皇帝って延命を諦めたのか?」
ふと、そんな事を思う。
太陽石を手に入れても、エルロンド教を敵に回してしまったのでは意味がない。
施術できるのは、聖女であるペカリーヌだけだからな。
そこを敵に回してしまったのでは、当然延命治療を施して貰える訳もない。
「恐らくですが……デスロード達の力を使って、脅迫するなりして押し通すつもりなのではないかと」
「脅し……要は圧力をかけて手伝わせる訳か……」
仮にも神を信奉しているエルロンド教を完全に屈伏させるのは、まあ無理だろう。
だがそうだな、例えば、他国への侵略にこれ以上デスロード達を使わない的な条約をエサにすれば、教会側が折れる可能性はぐっと上がるはず。
「エルロンド教側も、突如現れた脅威に対抗するための時間が欲しい筈ですので、短期的な落とし所として同意する可能性は高いかと」
まあなんにせよ……今、俺は大ピンチだ。
本格的に逃げ出す準備を整えた方がよさそうではある。
あ、侯爵家と協力して徹底抗戦ってのはないぞ。
それで勝てるのなら、そもそも王都が攻略される前に国に協力してるからな。
……けどまあ、時間稼ぎ様にポーションやエレメントゴーレムを供与するぐらいはしてもいいかな。
その方が時間稼ぎも捗るだろうし。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。