第122話 いい物を拾った
ポロロン王国北部・戦場。
「が……馬鹿な……私は……」
デスナイトの振るう巨大な剣が、男の体を上下に分断した。
男の名は、ポロロン王国第一王子。
「私は……この国の王に……」
上半身が地面に転がり、その血まみれの指から【聖魔力の円環】が抜け落ちた。
まるで死にゆく主に見切りをつけたかの様に。
「なん……で……」
そしてケイレスはそのまま息絶てしまう。
そのすぐそばに転がる死屍累々の遺体の中には、アイバス子爵家長男、アルゴンの姿もあった。
1万5千。
それは嫌な予感を感じたケイレスが、万一に備えて多目に率いた軍の数だ。
それに対して、帝国軍側はデスナイト4体の追加が加わった計5体。
数で言うなら、ポロロン王国側が負けようのない差である。
だがケイレスは油断することなく超越魔法を放ち、そして数の暴力で抑え込むべく全軍を動かした。
これがもし普通の騎士達だったなら、ケイレスの魔法だけで死んでいただろう。
仮にその攻撃で生き延びても、圧倒的物量差で瞬く間に押しつぶされていたはずだ。
だが――
デスナイトの強さは圧倒的だった。
圧倒的すぎた。
デスナイト達は群がる兵士達を虫でも踏みつぶすかのように、容易く蹂躙していく。
彼らにただの物量など通用しないのだ。
「ケイレス王子!ここは危険です!」
「あ、ああ……撤退だ!撤退の指示を出せ!」
陣形を食い破られ、最後尾にいるケイレスたちの元までデスナイトの一体が突っ込んでくる。
本来なら、もっと早い段階で本陣の撤退を始めるべきだった。
だがいくら強かろうが、相手はたったの5人。
その侮りから判断が遅れ、そしてそれは致命的なミスへと繋がってしまう。
「おおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
デスナイトには知能があり、的確に大将であるケイレスを捕らえていた。
もう少し撤退が早ければ逃げ切る事も出来ただろう。
だが判断の遅れから、ケイレスはデスナイトの接近を許しすぎた。
――その結果ケイレスと、その取り巻きの親衛隊は皆殺しにされてしまう。
「ぐるるるるる……」
ケイレス達を皆殺しにしたデスナイトが、手を伸ばす。
彼の指から抜け落ちた指輪へと。
そしてデスナイトがその指輪に触れた瞬間――
◆◇◆
――スパム男爵家本邸。
「これは!?」
「まさか!?」
執務に勤しんでいると、急にポッポゥとジャガリックが変な声を上げる。
「おいおい、急に叫んだりしてどうかしたのか?」
叫んだ二人の表情は硬い。
一体何が起きたというのか?
そこにガッシャーンと音が響き――
「なんだ!?」
「フォカパッチョ!やばいのを感じました!」
――窓ガラスを吹き飛ばして、外からカッパーが室内に飛び込んできた。
いや何してんだコイツは?
ていうかやばいのを感じたって、いったい何の事だ?
「これは宜しくありませんな」
タニヤンも姿を現す。
「いったい何があったってんだ?あとカッパー、壊した窓はちゃんと修理しろよ」
「窓とかそんな事を呑気に気にしている場合ですか!これだからフォカパッチョは!フォカパッチョはこれだから!」
カッパーが真剣な表情でまくし立てて来る。
彼女がこれだけ焦ってる姿を見せるのも珍しい事だ。
本当に、一体何が起こったというのだろうか?
「マイロード。北からとてつもない力を感じました」
「とんでもない力?」
「死の力じゃ」
「死の力って……スピランスみたいな?」
「あんなのとは次元が違いますよ!その程度でこの私が慌てる訳ないじゃないですか!」
スピランスよりとんでもない力って……
単に強いだけなら、まあそういうのもいるのだろうって感じだが、死の力ってのがいただけない。
そして精霊達の反応。
何がどうなってるのかは分からないが、凄くやばそうだというのだけは伝わって来る。
「この力はおそらくデスロードでしょう。力の感じる位置的に……戦場に降臨した様ですな」
名前にデスとかついてるし、絶対碌なもんじゃないんだろうな。
「そんなにやばい奴なのか?」
「我ら全員でかかってもまず勝ち目はないかと……」
「ええ……」
メガ精霊は一人一人でも相当強い。
相性が良かったとはいえ、最強クラスの魔物であるリッチをカッパーが一撃で倒した事からもそれが分かるだろう。
そんな4人が力を合わせても勝てないとなれば、デスロードの強さは桁違いと考えていい。
とんでもな化け物が現れた物である。
けどまあ、大丈夫だろう。
戦場からならこの領地は相当離れてるし、国が何とか処理するだろう。
だぶん。
◆◇◆
「!?」
デスロードの力を感じたのは精霊達だけではなかった。
神に仕える聖女であるペカリーヌもその力を感じ取っていた。
いや、彼女だけではない。
「せ、聖女様!?この波動は!?」
ペカリーヌに仕える元聖女候補達は元より、ある程度力のある神官達などもだ。
それ程までにデスロードの放つ死のオーラは凄まじかった。
世界にあだなす忌むべき存在の発生。
その存在はエルロンド教や各国と、それを保有する帝国とに大きな確執を生み。
やがて大陸全土を巻き込んだ戦乱へと発展していく事となる。
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