第119話 心配
――ポロロン王国王宮・玉座の間。
「なんじゃと!?」
北部国境が襲撃され、落とされたとの急報に国王が玉座から立ち上がった。
終戦したとばかり思っていた所に、正に寝耳に水といった所だろう。
「帝国がまだ戦争を続けるとは……」
「それで?帝国の兵力は?」
「と、砦を襲撃したのは一名との事で……」
「は?一人だと?」
帝国の再侵攻。
その先方の規模を尋ねたケイレスは、伝令の言葉に眉を顰めた。
「それはなんの冗談だ?精鋭部隊でないとは言え、あの砦には2,000もの兵が詰めていたのだぞ?」
「生存した者達の話は全て、一人の騎士によるものと一致しております」
「信じられん……相手はまさか、私と同じ超越魔法を使ったのか?」
ケイレスの扱うメテオレインは、広範囲殲滅魔法だ。
その威力なら、砦を一撃で粉砕する事も可能。
その事から、彼は自分と同じ魔法の使い手ではと推測を立てた。
「い、いえ。相手は巨漢の騎士だった様で……その騎士が、化け物じみた強さで瞬く間に兵達を蹂躙したと」
「騎士が身一つで砦を落としたというのか!?信じられん。帝国最強と謳われる豪雷だろうと、そんな真似は出来なかろうに……」
帝国最強の騎士は、轟雷の二つ名を持つ大男だ。
その強さにランクを付けるのならば、間違いなく人類の壁を越えた存在であるSランクであるが、それでも単独で砦に乗り込み、2,000もの兵を蹴散らすというのは現実的ではなかった。
「いったいどうやってそんな隠し玉を……いえ、そんな事は後で考えましょう。父上、直ぐにでも緊急招集をかけるべきです。砦を落としてそこで終わりなどありえませんから」
当然のことだが、単独で国境の砦を落としただけで止まる訳がない。
更に言うなら、その謎の騎士に続いて兵力が送られてくる事は目に見えていた。
だがそれに対し王国側は、戦争用に集った兵力を既に解散させている状態だ。
行ってしまえば後手を踏んだ状態。
急いで体制を整えなければ、取り返しのつかない事になりかねなかった。
「う、うむ。そうだな。直ぐに諸侯に緊急招集をかけよ!」
「ははっ!」
王の命を受け、その場にいた文官達が慌ただしく動き出す。
「ケイレスよ。またお前に頼る事になる。頼んだぞ」
「はい、父上」
ケイレスは、現在のポロロン王国における最強の特機戦力だ。
彼の有無で戦火は激変すると言っていい。
そのため、国王は帝国の再侵攻に対して彼の活躍を期待していた。
だが当のケイレスの表情はあまり優れない。
メテオレインは面の制圧に置いて無類の破壊力を誇るが、点に置いての破壊力はそこまでではない。
現に黒竜騎士団は手傷を負いながらも、ケイレスの喉元にまで迫っている。
そして砦を落とした騎士の強さは、間違いなく黒竜騎士団以上だ。
自身の魔法だけで落とす事は到底望めない。
そのため状況次第では、最悪、黒竜騎士団の時の様に自身の命が脅かされる可能性があった。
だから表情が優れないのだ。
そしてその心配は……
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