第118話 奇襲
ポロロン王国が国境線までグラント帝国を押し返して既に1月ほど経つ。
帝国側に大きな動きはなく、もはやこれ以上の継戦はないと判断した王国側は国境の砦に2千の兵を残し――万一攻めてきても、援軍が来るまで耐えられるであろう人数——全軍撤退。
そして帝国に向けて使者を送り出し、その戻りを待っている状態だった。
内容はもちろん、実質帝国側の敗戦と言っていい内容の停戦申し込みである。
「やれやれ。いつまで待たされるんだか」
辺境砦の物見やぐら。
監視兵が空を眺めてぼやく。
戦争は終わったも同然。
だが、使者が戻ってきて本格的な停戦が結ばれるまでは、警戒が解かれることはない。
そのため、いつまでも家に戻れない不満を兵士はボヤいたのだ。
「まあ帝国は今、ごたごたしてるんだろうな」
「そうなのか?」
「考えても見ろよ。皇帝の命惜しさに始めた戦争で、しかも王国に負けちまってるんだぜ?そりゃ責任問題で揉めに揉めてるに決まってるさ」
「やれやれ、皇帝も責任取ってすっぱりやめりゃいいのにな。いい迷惑だぜ」
「違いない」
監視兵達は他愛ない話を続ける。
それは油断からくるものだ。
そしてその油断から、闇夜に避け込み、砦に近付く影に彼らは気づけなかった。
まあもっとも……仮に集中していても気づけたとしても結果は変わらなかったろうが。
「なんだ!?」
「敵襲だ!!」
突然砦に轟音が響き。
閉ざされていた大門が吹き飛ぶ。
そしてそこから入ってきたのは、漆黒の全員鎧を身にまとった大男だった。
――その胸元には、帝国を示す紋章が刻まれている。
「帝国か!」
「数は!?」
「ひ、ひとりだ!」
「一人だと!」
「なんだあの巨体は!?本当に人間か!?」
轟音に飛び起きた兵士たちが、幕舎から次々飛び出してくる。
油断しているとはいえ、砦を守る兵だ。
緊急時への対応は抜かりなく、全員武器をその手にしていた。
だが――
「うわぁ!?」
「ぎゃあ!!」
そのほとんどは、信じられないぐらい素早い巨体の騎士に対応できず、成す術もなく切り裂かれていく。
辛うじて対応できたものも、その騎士が振るう大剣に構えた武器ごと叩き切られることに。
砦内の蹂躙は、そう長く続く事はなかった。
2,000からいる兵士は、その大半が30分と持たずたった一人の騎士によって蹂躙され尽くされてしまう。
油断は間違いなくあっただろう。
だがそれでも、その騎士の強さは余りにも圧倒的だった。
「なんだと!?」
その報が、僅かに生き延びた生存者によって齎されたポロロン王国に激震が走る。
終戦を確信していたはずが、帝国が用意したとんでもない化け物による襲撃によって砦が落とされたのだから当然だ。
こうして幕は切って落とされた。
王国にとって最悪となるであろう、帝国との第二ラウンドの幕だ。
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