第116話 敵
――スパム邸中庭。
俺はカンカンと対練を行っていた。
エドワード様が屋敷にいる際、護衛は基本的に訓練に勤しむことになる。
ここには精霊4人による強力な結界があるので、護衛に付く必要がないからだ。
まあポッポゥなんかは、四六時中張り付いている様だが。
「でやぁ!」
「ふんっ!」
カンカンの突き。
その槍の切先を、俺は手にしたナタンで叩き落とす。
「せいっ!」
「ちっ」
強めに叩き落としたにもかかわらず、カンカンは素早く槍を引いてノータイムで再び突き込んできた。
その事にイラつき舌打ちしつつ、俺はその攻撃を捌く。
腹立たしい事だが、こいつの才能は本物だ。
冬の間に劇的に伸びたその強さは目を見張るばかりで、そろそろ容易くあしらうのも厳しくなってきた。
言っておくが、俺だって順調に腕は上がっている。
お互いスキルなしの戦いで、カリバルとそこそこ戦えるまでになってきてる訳だからな。
自分でいうのもなんだが、急成長していると言っていいレベルだ。
だがそれでもなお、カンカンの成長速度には届かない。
その事から、いずれスキル込みですら追いつかれるのではと、そんな焦りが俺の中に生まれていた。
本当に腹立たしい話である。
「そこだ!」
俺はカンカンの隙を突いて槍を弾いて一気に間合いを詰め、その首すじにナタンを押し付ける。
勝負ありだ。
まあまだ勝って当たり前の差がある訳だし、多少手古摺ってる時点で全然嬉しくはないが。
「くぅ……参りました」
「お二人ともお疲れ様ー」
アリンが駆け寄って来て、俺にタオルを渡してくれる。
我が妹ながら、本当に良く出来た妹だ。
これでカンカンにも渡してさえなければ最高なんだがな。
アリンは優しすぎる。
そんなんだから悪い虫が寄って来るのだ。
兄としては心配でならない。
「カンカン頑張ったね」
「う、うん」
「ふん、まだまだだ」
さりげなく二人の間に割り込んでおく。
そう、さりげなく。
「ははは、精進します」
「ふん」
「もー、お兄ちゃんたら。いつもカンカンに厳しいんだから」
「そんな事はない、普通だ」
そう、普通だ。
可愛い妹を持つ兄として、これは普通の態度以外何物でもない。
『アリンよ、戦士とはぶつかり合って成長していく物だ。むしろ厳しい態度こそお互いのためになる』
『そっすね。自分もそう思うっす。これぐらいがライバルとしてお互いいい刺激になるっす』
『男同士の真の友情と言う奴ですね』
ナタン達エゴウェポン共が勝手な事を口にする。
俺はカンカンをライバルとも友達とも思って等いない。
奴は妹にたかる害虫だ。
なので仲良くする気など皆無どころか、もはや敵と言っていい。
そう、排除すべき敵なのだ。
カンカン死すべし。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。




