第113話 報告書
「んん?なんだぁ?」
朝目が覚めると、クエストが進行していた。
『使徒との信頼を築け!』
ソウガ(信頼度99%)
うん、意味が分からん。
ソウガって誰だよ。
「スピランスの時も意味不明だったが、今回はそれ以上だな」
スピランスの時は、何だかんだで目の前でリッチが屈伏した後だったから――相手はカッパーだけど――まあ、理解できなくもない。
が、今回は寝て起きたら、である。
本気で何がどうなってどなたさんが使徒になったというのか?
状態だ。
「ま、深く考えてもしょうがない。どうせ直ぐに誰か分かるだろう」
流石に領地外って事はないだろうし、信頼度が99%(誰に対する物かはともかく)もあるんだから、そのうち向うから会いに来る筈だ。
敵じゃないんだから、焦る必要はない。
そう思い、ベッドから立ち上がると――
「「失礼します」」
そのタイミングで扉がノックされる。
返事を返すとカートを運ぶジャガリックと、ポッポゥの二人が室内に入って来た。
俺が動いた気配を察知したのだろうと思われる。
「お顔をどうぞ」
「ありがとう」
ジャガリックからおしぼりを受け取り、顏を拭く。
そして服を着替え――服は基本、ジャガリックが選んでくれた物を着る感じ――テーブルに用意されたお茶を飲む。
「うん、美味しい」
「ありがとうございます、マイロード。こちらが報告書になります」
「どれどれ……」
差し出された定期報告書へと、俺は目を通す。
作成者はタニヤンだ。
重要な物はイラスト入りで分かりやく描かれているので、凄く読みやすい。
報告書の一面にはデカデカと――
「戦争はもう決着がついたのか。思ったよりずっと早かったな」
右に黒い鎧を着た帝国軍。
左に白い鎧を着た王国軍。
その間にvsの文字があり、王国軍の上にデカデカと『勝利!』と描かれていた。
その一面だけで、戦争がもう終わる事が伝わって来る。
「なになに……ケイレス率いる王国軍が黒竜軍を破った事が決定打となり、帝国軍は自国まで完全に後退した、か」
報告書には、このまま両国間の協議に入って戦争が終結する可能性が高いと書かれている。
まあそれが妥当だろうな。
そもそも、帝国側はある程度短期決戦が前提の戦争だった。
一年とか、長くても二年ぐらいの。
皇帝の長くない寿命が戦争の引き金だからな。
それ以上長引いたら、先に皇帝が天寿を全うする事になる。
なので長期戦になってしまうと、帝国側が戦争を続ける意味自体がなくなってしまうのだ。
「帝国が勝つために総力を挙げて落としにかかって来るなら話は変わって来るんだろうけど、流石にそんな馬鹿な真似はしないよな」
「それは考えづらいかと」
帝国の保有戦力は、王国の三倍ほどと言われている。
いくらケイレスがとんでも魔法を使えるとは言っても、圧倒的物量で押されればどうしようもないだろう。
だがそんな真似したら、帝国は他国に付け入る大きな隙を与える事になる。
それでなくとも大義名分のない戦争だからな。
弱ったり疲弊した姿を少しでも見せ様ものなら、周囲の各国から袋叩きにあいかねない。
いくら皇帝が長生きしたいと考えていても、流石に国の命運を賭けてまで戦争を続行する事はないだろう。
「フォカパッチョ」
俺の飲んでいたお茶の残りがカップから浮き上がり、ピンポン玉サイズのカッパーの頭部に代わる。
「お茶で遊ぶな」
「別に遊んでませんよ?フォカパッチョが花瓶を撤去したから仕方なくお茶を使っただけです」
花瓶の水からカッパーがちょくちょく飛び出てくるので、花瓶は室内から撤去してあった。
どう考えても行儀悪いし、出不精のカッパーを自発的に動く様に仕向ける為に――カッパーはフェンリルと遊ぶとき以外は、基本池ポチャしてる。
けどまさか、それを飲んでるお茶と言う力技で破って来るとはな。
怠ける為に無駄に頭働かせやがって。
「そんな事より、カンカンがフォカパッチョに会いたいって言ってますよ」
「カンカンが?」
何の用だ?
あいつは村で上手い事やってるって聞いたが……ひょっとしてタゴル関連の苦情かな?
タゴルは比較的真面な奴なんだが、妹の事になると頭がおかしくなる傾向にあるからな。
きっとそうに違いない。
「わかった。応接室で待たせといてくれ」
そうカッパーに告げ、俺はサクッと報告書に目を通してから応接室へと向かう。
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。