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第112話 精霊王の夢

水の精霊王カパクレシアは、火水風土の四大精霊王のリーダーだった精霊だ。


彼女は真面目で責任感が強く。

常に損な役回りを進んで買って出る様な優等生タイプだった。


「デスゲイザー!」


「水の精霊王風情が!」


精霊神エルロンド対邪霊神ターミナスとの戦いにおいて、彼女は自身に従う白竜と共に、危険な死の力を扱う黒竜デスゲイザーを惹き付ける役割を買って出た。


その戦いは苛烈を極め。

白竜は死に。

そして最後はカパレクシアが自らの命と引き換えに黒竜デスゲイザーを封じ込めた。


「おのれカパレクシア!」


「これで……」


滅びゆくさなか、彼女の中にあったのは神であるエルロンドへの強い思い。

そして最後の時をその側で迎えられない事への寂しさだ。


もっと一緒に居たかったという思い。

それが彼女が最後に抱いた切なる願いだった。


「ジャガルーンの様に、私ももっと我儘をいって甘えていればよかったかな……」


土の精霊王ジャガルーンはいつもエルロンド様に叱られる、怠け者で甘えん坊だった。

忙しく働きまわっていたカパレクシアとは、真逆の存在と言っていい。


そんなジャガルーンの様に生きていれば、自分ももっとエルロンドとの時間を過ごせたのではないか?

そんな馬鹿な考えに、カパレクシアは自嘲する。


いつもエルロンドにぴったりくっつきていたジャガルーンの事を、彼女は心の片隅で羨んでいたのだ。


「ふふ、そんな事できる訳ないわよね……」


エルロンドからの期待を裏切る様な真似を、真面目な彼女が出来るはずもない。


「けど、もし生まれ変わる事が出来たなら……その時は……もっと……」


水の精霊王は消滅する。

ほんの僅かな残滓だけを残して。


そしてその残滓は――


◆◇◆


――深夜、スパム邸・寝室前。


「変な夢を見ました」


寝室の前で警備していたジャガリックとポッポゥの前に、唐突にカッパーが姿を現す。

首から上の、生首の状態だけで。


「夢……ですか?」


夜中に唐突に現れる生首。

普通の人間なら腰を抜かしてしまいそうなシチュエーションではあるが、二人は精霊なので特に動じない。


「やれやれ……マスターの警備に加わろうという殊勝な心掛けで現れたのかと思えば、夢などと」


カッパーの言葉に、ポッポゥが呆れて溜息をつく。


「そんなのは真っ平御免です。で、夢と言うのが――」


ポッポゥの態度は気にせず、カッパーが自分が見た夢を二人に話す。

彼女が見た夢は、水の精霊王カパレクシアの最後の瞬間だった。


「ふむ……そういえば私も、土の精霊王ジャガルーンの夢を少し前に見ましたね」


カッパーの話を聞き、ジャガリックが顎を撫でる。


「どんな夢だったんですか?」


「一言で言うならば……強い後悔です」


「後悔ですか?」


「ええ。夢の中のジャガルーンは自由気まま……まあ、カッパーの様な性格と言えばわかりやすいですかね」


「ろくでもないな」


土の精霊王の性格を聞き、ポッポゥが顔を顰める。


「なんでですか?素敵じゃないですか。自由万歳!」


「カッパー。マイロードが眠られているのですから、お静かに」


「どうせ結界張ってるんだから硬い事は言いっこなしですよ」


エドワードが眠る部屋の前で当たり前の様に精霊達会話しているのは、結界がある為だ。

その事をカッパーが指摘する


「結界も完ぺきではなので、それでも音量には気を付けてください」


「面倒くさいですねー。せっかくなで、この際フォカパッチョを叩き起こして――ぷげっ!?」


宙に浮くカッパーの生首が扉の隙間に入ろうとして、ポッポゥに捕まれ引き戻される。


「馬鹿な真似は許さん」


「ぬぅぅぅ。ポッポゥは気が短くていけませんね」


「黙れ。それで?土の精霊王は一体何を後悔していたと言うのだ?」


夢の話など、普段ならくだらない話と興味を見せないポッポゥだったが、不思議な事にジャガリックの話の続きを促した。

何か思うところがある様である。


「自分が真面目に精霊神様を支えていれば……神がその心のうちに闇を抱え邪霊神が生まれる事はなかったのではないかという後悔です」


邪霊神ターミナスは、エルロンドが人々の醜さに失望し続けた心労から生まれている。

そのため、土の精霊王が神を真面目に支えていたとしても、遅かれ早かれ邪霊神は誕生していた事だろう。


――だが、土の精霊王は自らを責めた。


自分のせいでこうなってしまったのだと。

だから最後、滅びの間際に彼が願ったのは――


もし生まれ変われたなら、今度は真面目に生きよう。

そして全力で自らの神を支える。


という物だった。


「なるほど……実は私も、火の精霊王ポーリァの夢を見た事がある」


ジャガリックの話に興味を持ったのは、どうやら自身も夢を見たためだったようだ。


「ポッポゥさんもですか?」


「ああ……夢の中でポーリァは剣を求めていた」


「剣?火の精霊王は剣コレクターだったって事ですか?」


「そんな訳が無かろう」


カッパーの冗談とも本気ともつかない言葉に、ポッポゥが顔を顰める。


「夢の中の火の精霊王の最後は、邪霊神ターミナスとの戦いだった。その戦いで彼女の放った力は、ターミナスに真面なダメージを与えられていなかった。そして最後には敵の攻撃に倒れなくなっている」


「それと剣になんの繋がりが?その最後で唐突に『あ、剣欲しいな』だったら、ちょっと引きますよ?」


「ポーリァには懇意にしていた……そうだな、友人と言って差し支えない騎士がいた」


カッパーの言葉を無視し、ポッポゥが話を続ける。


「騎士は、精霊王から見れば弱かった。だが騎士は強かった」


「矛盾してませんか?」


「騎士は弱かったにもかかわらず、自分よりも強い魔物を切り捨てていたからだ」


弱者でありながら強者を倒す。

所謂ジャイアントキリングである。


「その事を不思議に思ったポーリァは騎士に尋ねた。なぜ自分より強い者に勝てるのかと。そして騎士から返って来たのが『私は弱いから。だから全ての力を、それこそ魂すらもこの剣に乗せて振るうのだ。そうする事で初めて、強者にも私の刃は届きうるから。まあ偉大な神に仕える、精霊王である貴方には無縁の話だろうが』と言う言葉だ。だから……自身の無力さを無念に思いながら散っていたポーリァは、最後に剣を求めた。強者、ターミナスに届きうるだけの力を求めて」


「なるほど……無力さからくる渇望。私の見た夢に近い物がありますね。しかし、なぜ我々がその様な夢を見たのか……」


「ふぉっふぉっふぉ、簡単な事じゃ」


三人の前に、渦巻き状の甲羅を背負った老人――タニヤンが唐突に姿を現す。


「簡単……ですか?」


「うむ。わしらはそれぞれ火水風土の精霊王の残滓から生まれておる。なのでわしらが見た夢は、全て精霊王達の記憶じゃ」


「はえー、そうだったんですねぇ」


「つまり……ただの夢ではなく現実にあった事だった訳か」


「そうじゃ」


「タニヤンさんも精霊王の夢を?」


「うむ。わしが見たのは風の精霊王タニールの夢じゃ。タニールは最後、強靭な鎧を求めておったな」


「ポッポゥの剣の次は鎧ですかぁ?」


「タニールはターミナスの攻撃から、エルロンド様を守るため身を挺したんじゃが……攻撃を防ぐこと叶わず死んでしまっておる。まあ風は速度こそあれど、防御面は今一じゃからな。そしてそんな彼が最後に抱いた思いが『自身の身が鎧の様に固ければ、主を守れたのに』という物だったのじゃ。じゃからわしには、こんな甲羅があるんじゃろうな」


タニヤンは自信が背負う渦巻き有情の甲羅へと視線を向ける。


「各精霊王の最後の願いが、残滓から生まれた我々に影響を与えているという訳ですか……」


「うむ。わしらは精霊王の願いを受けて生まれて来たんじゃ。それを各々の胸に刻んでおかんといかんぞ」


「ふーん。ま、どうでもいいですけどね」


「カッパー……全く、お主と来たら」


タニヤンの言葉にジャガリックやポッポゥが静かにうなずくが、カッパーだけは知った事ではないと言い放つ。


「カッパーはカッパーですから。自由にいかせてもらいます。では……アデュー!」


カッパーはその場を素早く離れた。

何故なら、タニヤンの説教が始まるのが目に見えていたからだ。

見事な逃げ足である。


「やれやれ、困った奴じゃ……」


「大丈夫ですよ。きっとカッパーも分かっているはずですから」


「ジャガリックは少々、カッパーへの裁定が甘すぎるきらいがありますね」


かつて土の精霊王は、水の精霊王にさんざん世話になっていた。

残滓からの生まれであるジャガリックはそれを明確に認識していた訳ではなかったが、彼がカッパーに甘いのは、そういった部分が根底にある為だろうと思われる。


「あー、早くフォカパッチョ起きてきませんかねぇ」


中庭に逃走したカッパーが、空に浮かぶ月を眺めて呟く。

この後、朝起きて来たエドワードに彼女はウザがらみする事となる。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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最強執事の恩返し~転生先の異世界で魔王を倒し。さらに魔界で大魔王を倒して100年ぶりに異世界に戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。お世話になった家なので復興させたいと思います~
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『現代ファンタジー』ユニークスキル【幸運】を覚醒したダンジョン探索者が、幸運頼りに頂上へと昇りつめる物語
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