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第111話 黒竜 ②

15年前。

グラント帝国に異変が察知される。

ありえない程莫大な魔力が北部で感知されたのだ。


帝国は直ぐに探査隊を編成し、異変の場所へと送り出す。


「こんな物が我が帝国に……」


人の寄り付かない険しい北方の山々。

その中央に隠れた場所には古めかしい神殿が立っており、その地下深くには巨大な水球が安置されていた。


それを見つけた探査隊は驚愕する。

何故なら、その中には巨大な黒い竜が閉じ込められていたからだ。


「くくく。我が力に誘われ、煩わしい虫共が入り込んで来たか」


黒竜は自らをデスゲイザーと名乗った。

それはかつて、邪悪な神に仕え数多の人間を殺した死の力を持つ黒竜の名である。


結界の隙間から漏れ出る異常なまでの魔力と邪悪な瘴気から、帝国は黒竜を本物と判断し、その場を禁足地と定め封印した。

接触するにはあまりにも危険すぎたからだ。


それ以来、長きに渡ってそこを訪れる者はなかったのだが……15年の月日を経て、黒竜の元にある人物が訪れた。

グライム・カール・グラント。

グラント帝国の現皇帝である。


彼は賢王と呼ばれる程優れた人物だったが、迫りくる死の恐怖には打ち勝つことが出来なかった。

延命を聖女から実質不可能と言われた皇帝は、何とかならないかと頭を悩ませた結果、一つの答えに辿り着く。


死を扱う者ならば、死を遠ざける事が出来るのではないか?

という、荒唐無稽な答えに。


普通に考えればありえない事だが、老いによる思考力の低下と、死の恐怖が彼の思考を狂わせてしまったのだ。

そしてその結果、封印が緩みつつあったデスゲイザーの力で死への恐怖を増幅されてしまったい、皇帝は王国との戦争に踏み出す事となる。

人類の混乱と破滅を望む、黒竜の力すらも借りる形で。


◆◇◆


――黒竜軍壊滅直後。


「陛下……どうかお考え直しを」


皇帝は黒竜の魔法による呼びかけに応じ、帝国髄一の魔法使いバリウムに転移魔法を命じた。

黒竜との接触が碌な結果を呼び起こさない事を確信していたバリウムは、皇帝に進言する。

考え直しを。


だが――


「さっさとせぬか!それともこの私に逆らうつもりか!」


皇帝にヒステリックに叫ばれ、バリウムはしぶしぶと転移魔法を発動させる。


――封印の間。


「なぜ私を呼んだのだ」


巨大な水球の中にいる巨大な黒竜に怯える事なく、皇帝が問いかけた。


「貴様らにくれてやった我が欠片が全て砕けた」


「なんだと!?黒竜軍が全滅したというのか!?」


黒竜から告げられた言葉に、グライム皇帝が言葉を荒げた。


国を挙げれば、帝国がポロロン王国に勝つこと自体は容易かっただろう。

だが、それは自国を窮地に追い込む事になりかねない愚行だ。

いくら死の恐怖を煽られたとはいえ、流石に皇帝にその選択はなかった。


それでも皇帝が戦争を慣行したのは、黒竜デスゲイザーの力で強化された黒竜軍を使えば、短期間での勝利が約束されたからこそである。


だがその黒竜軍が敗れたとなれば、短期決戦は絶望的になってしまう。

その事に皇帝ははげしく動揺する。


「く……何故だ!貴様は絶対に勝てると私に言ったではないか!!」


「人間相手だったならばな。だが、精霊――それもメガ精霊相手ならば話は変わって来る」


「なにっ!?精霊だと!?」


「そうだ。黒竜軍団は精霊の使う魔法を受けていた。それに我も確かに感じた。水の精霊の強力な力の波動を。あれは間違いなくメガ精霊の物だ」


水のメガ精霊であるカッパーは、戦争には一切関与していない。

だがリッチーを相手にする際に巨大な力の波動を放ったため、黒竜は戦場で振るわれた超越魔法オーバーロードマジックを、メガ精霊が放ったものだと誤認してしまっていた。

通常、人間程度では扱えない魔法だからだ。


「精霊は遥か昔に滅んだのではないのか!?なぜそれが私の邪魔をするというのか!!」


「生き延びた者がいた様だ。そして精霊が戦争に参加したのは、我の死の力を感知したからだろう。煩わしい奴らだ」


デスゲイザーは、勘違いに勘違いを重ねていく。

根本が間違っていたために。


「黒竜軍さえ倒してしまう精霊が王国に居るだなどと……くそ……私はどうすれば……」


「安心するがいい。さらなる力を我が授けてやる。メガ精霊の一匹程度、消し飛ばせるだけの力をな」


「なんと……それは本当か?」


「本当はこれ以上無駄に力を使う気はなかったのだがな……」


デスゲイザーは自らの神――邪霊神ターミナスの復活に、15年前の時点で気づいていた。

封印の中で意識を取り戻せたのは、他でもないターミナス復活の波動によるものなのだから当然だ。


何故自らの主が未だ動き出さないのか?

そして何故、封じられている自分を解放しに来てくれないのか?


その事に疑問を持ってはいたが、特に不満を抱く事なく、黒竜は神が動き出すその日を静かに待ちわびつつも、自らの力を蓄え続けた。

結界内では常に消耗を強いられ続けるため、そのままだと神の開放の際に弱った姿を見せる事になってしまうからだ。


デスゲイザーにとって、それだけは避けたい事だった。


それから15年。

待てど暮らせど、ターミナスは動かなかった。

その間にデスゲイザーの力は万全に近い形まで回復し、外に干渉するだけの余裕すら出来ていた。


――だから今回、その余力を使って帝国に力を与えたのだ。


だがそれは所詮お遊びの域を出ない。

いつ神によって解放されるかもわからない以上、成功しようが失敗しようが、黒竜はそれ以上無駄に力を垂れ流すつもりはなかった。


だが――


「精霊が、それもにっくき水の精霊王の力を受け継ぐ者が現れたのならば話は変わって来る」


――その考えを変えたのが、水のメガ精霊であるカッパーの力の波動だ。


デスゲイザーはかつて、水の精霊王よってこの水牢に封じ込められている。

その時の屈辱は彼の中で深く淀み。

そしてその深い恨みからくる怒りにより、たとえこの場で大量の力を消費する事になろうとも、水の精霊に一刻も早く報復したいという思いに駆られてしまっていた。

自らの神への忠誠を忘れてしまう程に。


「さあ、受け取るがいい。そしてこの力を使い、お前の願いを叶えろ」


黒竜が自らの牙を引き抜く。

それは黒い液体へと変わり、水牢にある僅かな亀裂から外に漏れだしす。


「ぬ……ぐ……」


それを皇帝が慌てて手で受け止めると、黒い液体はそのまま皇帝の体の中へと潜り込んだ。


「これは……この力は……」


自らの内に入り込んだ強大な死のエネルギー。

本来人の身では持ちえない力に、皇帝がその身を震わせる。


「その力を配下の人間に与えれば、死の力を操るデスナイトへと生まれ変わるだろう。できうる限り強い人間に与えるがいい」


「デスナイトに……なるだと?それでは力を与えられた人間は……」


「何を躊躇う。王を生かすために忠義を尽くすのだ。その者達にとってそれ以上の幸福などあるまい」


デスゲイザーの目が怪しく光る。

それは生者が持つ、死への恐怖を増幅する力だ。


「ああ。ああ、そうだな。全ては帝国のため。そう、私が生きる事は帝国にとって必要な事。帝国の為に命を捧げるのだから、きっと本望のはずだ」


死への恐怖を極限まで引き上げられた皇帝は、自分の生への執着を国のためへとすげ替える。

それが正しい事であると、自分に言い聞かさる様に。


人は弱い生き物である。

ましてや死を操る黒竜にその恐怖を増大させられたとなれば、賢王と呼ばれる様な人物でも、恐れから身勝手に走ってしまっても仕方が無い事だ。

なので、その事で彼を責めるのは酷だろう。


「さあ、行くがいい。自らの命と、帝国の未来とを得る為に」


黒竜に促され、皇帝が封印の間を出ていく。


「人とは本当に愚かな物だ。既に死んでいるというのに」


黒竜の力をその身に宿した時点で、皇帝の命は消滅していた。

そして自らも気づかぬうちに、彼はリッチへと変異していたのだ。


にもかかわらず、延命のために醜い行動を起こそうとする皇帝の様を、黒竜デスゲイザーは嘲笑う。


「カパレクシアよ」


黒竜は、かつて自身を封じた憎々しい水の大精霊の姿を思い浮かべた。


「貴様の力を継ぐ者を、我が力で八つ裂きにしてやるぞ。くくくくくく……」


封印の間に、黒竜の不気味な笑い声が響く。

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