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第110話 黒竜 ①

「く……はははははは!勝った!勝ったぞ!我々の勝ちだ!!」


躯がそこかしこに転がる戦場で、ボロボロの姿をしたケイレスが吠える。


――バロクス平野での一戦。


ポロロン王国一万五千。

対するグラント帝国軍は八千。

王国側の戦力は約倍。

更に、王国側にはケイレス王子の超越魔法オーバーロードマジックという切り札まである状態である。


そのため、この戦いは王国側の圧勝に終わると考えられていた。

唯一の不安要素があるとするならば、初戦以降姿を見せなかった、第二王子であるガイオスとその旗下にあった第二王宮軍団を壊滅させた黒竜軍の参戦である。


それでも王国側の圧勝に揺るぎはない。

そうケイレス王子は高を括っていた。


だが蓋を開けてみれば――


竜をもした黒の鎧を身に着けた黒竜軍の圧倒的な強さを想像を超える物だった。

王子の超越魔法であるメテオレインを死を憩う事無く突っ切り、ボロボロになってなおその驚異的強さで王国軍を追い詰めたのだ。


その結果、勝利こそした物の、王国側は一万以上の被害を出す結果となっていた。


「アルゴン。お前の働き、見事だったぞ」


ケイレスが側に立つアルゴンに声をかける。

彼はアイバス子爵家の長男だ。

以前ケイレス王子の婚約者だったペカリーヌへ、内密の貢物を送った事で高く評価され、帝国との戦争では、子爵家の出という低めの身分でありながら、彼は側近として王子に重用されていた。


それは言ってしまえば賄賂による出世だ。

働きを期待されたものではない。

だが、彼は此度の戦争で思いがけないほど大きな働きをして見せた。


黒竜軍の将と思しき巨体の将校。

その強さはデタラメであり、ケイレス王子率いる精鋭群ですらその突撃を阻むことは出来なかった。

そしてその槍は、陣最奥にいたケイレス王子の喉元にまで迫る事となる。


「お前がいなければ、私の命はなかっただろう」


将校の槍は、文字通りケイレスを串刺しする直前だった。

魔法使いタイプであるケイレスに、しかも魔法の反動で疲弊していた状態では成す術もない。

そのままだったなら、彼は間違いなくその命をこの戦場で散らしていた事だろう。


だがそれを救ったのが、彼の側近としてその脇に控えていたアイバスであった。

彼は文字通り自身の身を盾とし、ケイレス王子の命を救って見せたのだ。

そしてその隙に一斉攻撃を仕掛け、何とか黒竜軍将校を仕留め現在へと至っている。


「もったいないお言葉です」


「怪我の方は大丈夫か?」


「例のポーションのお陰でなんとか……」


例のポーションとは、スパムポーションの事である。


彼が身を挺して攻撃を防いだ際、槍によってアイバスの胸には大きな穴があけらてしまっていた。

辛うじて即死ではなかったものの、戦場においてそのダメージは実質死を意味している物だ。


だが彼は生き延びた。

スパムポーションという、奇跡の回復薬によって。


「軍の被害も、それのお陰で相当抑えられたようだ。しかし……害悪でしかなかった出来損ないのクズが、まさかこんな役に立つとはな……」


エドワードが何かの役に立つなどと、ケイレスは夢にも思わなかった事である。


「まあいい。なんにせよ、この戦争はもはや決着がついたも同然だろう」


相手は精鋭の黒竜軍を失い。

そして王国側の切り札である自身は生き延びた。

その明暗はハッキリしており、帝国側が手を引くのは時間の問題だとケイレスは判断する。


だが、それは甘い見積もりだった。

何故なら……


◆◇◆


「黒竜軍が全滅だと?」


情報官からの報告に、私は顔を顰めた。

黒竜軍は、ポロロン王国攻略の要である。


その圧倒的な強さは、初戦で第二王子ガイオス率いる王国最精鋭、第二王宮軍団を圧倒し壊滅させる程だった。

それが全滅させられたのだ。

苦い気持ちになるのも当然である。


「ケイレス王子の魔法がそれ程だったという訳か」


初戦の大勝に反し、帝国軍はそれ以降敗戦続きだった。

ケイレス王子の扱う、強大無比な範囲魔法のせいで。

それでも、化け物揃いの黒竜軍なら何とでもなると我々は高をくくっていた。

だが結果はこのざまである。

完全に彼我の力量を読み違えてしまった様だ。


「魔法による被害もそうですが……生存者の報告によりますと、ケイレス王子直属の部隊はまるで不死の軍団だったと」


「不死の軍団?」


情報官の言葉に、私は再び顔を顰めた。


「密偵からの情報にあった、スパムポーションなる物のせいかと」


「エリクサーに近い効果を発揮すると報告されていたあれか」


スパムポーション。

それは大怪我さえも一瞬で治癒させてしまう、準エリクサーともいうべき回復薬だ。

意図的に情報を漏らす事で、そういう物があると警戒させる為だけのフェイクだとばかり私は思っていた。

常識的に考えて、伝え聞いた効果などありえない事だったから。


だが此度の戦場においてそれが猛威を発揮した事で、それが事実だったと確定した。


「この戦争は負けだな」


グラント帝国は、大陸最強の国力と軍事力を持つ。

いくらケイレス王子の魔法が強力であろうと、全軍を持って侵攻すれば王国を落とすことは難しくない。

だがそれには大きな代償がついて来る。


国力の疲弊。

更に侵攻で留守になっている本国への、他国からの攻撃など。

それらの要素は、最悪、帝国の瓦解すらも引き起こしかねない物である。

だから、帝国が全力を挙げて一国に攻め入る事は出来ないのだ。


そして総力戦以外の小出しの戦闘では、ケイレス王子の魔法が猛威を振るう。

つまり帝国側は八方ふさがりという訳である。


「まあだが……これでよかったのだろう」


死者が大量に出た事は悲しむべき事だ。

それに敗戦となれば、何の大義名分もなく侵攻した帝国側は相当な賠償金を支払う事となるだろう。

それはかなりの痛手と言っていい。


だが、それでも、戦争が泥沼化するより遥かにマシである。

そうなればどれだけの損害が出る事か。


「父上も、黒竜軍が敗れたとなれば太陽石による延命は諦めてくれるだろう」


事の発端は、父であるグラント帝国皇帝グライムの寿命問題だ。


高精度の魔法の鑑定によって、父はもう数年も生きられない事が最近判明する。

死の宣告を受けた父は何とか延命できないかと聖女の元へ向かい……そして戦争にまで発展する事になった訳だが……いくら今の父でも、国を傾けてまで戦争を続け様とは知んないだろう。


「問題は奴だな。父上が奴とこれ以上接触するのだけは、何としても禁じなければ……」


最初、聖女に太陽石が必要と言われた父は、その入手を素直に諦めていた。

ポロロン王国が手放す訳が無い事を知っていたから。


あの時点の父上には、戦争を起こす気などはなかった。

父は優しく、慈愛の心を持った賢帝だったから。

自らの寿命の為に、戦争など起こすはずもない。


そんな父の考えが変わってしまったのは奴と……


そう、死の力を司りし黒竜――デスゲイザーと接触してからである。

拙作をお読みいただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
いつも楽しく拝読させていただいています。 一つ気になる点が、以前国力が同党との記載があったように思うのですが、帝国のほうが圧倒的に上なのでしょうか
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