第107話 ネクロマンサー④
「おお、雰囲気あるな」
上空の巨大な魔法陣。
その中からリッチが姿を現す。
リッチは下半身が無く、上半身だけの姿だ。
右手にドクロ頭の杖。
胸元の中央には赤い球体がはめ込まれており、黒いオーラの様な物をローブっぽく身に着けているその様は、正に大物っぽい風格を醸し出していた。
「卑小な人間風情が再び我を呼び出すとはな……供物は用意しているのであろうな?我を満足させるだけの、死と苦痛と言う名の供物を」
リッチの目が怪しく光、言葉を発する。
……うん?
うん?
なんだ……言ってることは物騒だが、その声は意外と高い……というか、子犬の鳴き声っぽくて可愛らしい。
威厳が一瞬で吹き飛んだんだが?
こいつ本当に強いのか?
そんな疑問が脳裏をよぎる。
見た目だけなら強そうなんだけど……
「くっ、この声……まるで心臓を掴まれている気分だ」
「ええ、とんでもなく不気味で恐ろしい声ね」
え?
心臓を掴まれる?
不気味な声?
何言ってんだコイツら?
そう思ってタゴルとエクスの方を見ると、二人とも顔を顰めていた。
どういう事だ?
俺には子犬の鳴き声っぽい声にしか聞こえないんだが?
まさか演技ではないだろうし、正直理解不能だ。
「言葉に呪を乗せている様です。エドワード様には私達の加護があるため、影響はありませんが」
「ああ、そうなのか」
俺が不思議そうにしてたのに気づいてか、ジャガリックが理由を教えてくれる。
どうやらリッチの声からか呪を抜くと、ああいう可愛らしい声になる訳ようだ。
しかし当たり前の様に呪を跳ね返してくれるとか、流石メガ精霊。
さすメガである。
「今回呼び出したのは……私の主に貴方をお披露目するためです」
呼び出したとうのクロウも若干苦しそうだ。
召喚主にまで当たり前の様に呪いを振りまいているとか、そりゃコントロール不能っていう訳である。
「なんだと?主へのお披露目?」
「ええ。私の使える主……エドワード様に見ていただくため呼び出しました」
「……く……ふ……ふふ………ふははははははははははははははは!」
クロウの説明を聞き、リッチが大笑する。
当然だが、これも全て可愛いキャンキャン声だ。
俺には。
……この声で高笑いされるのは若干イラっとするな。
「愚かな……まさか召喚者がここまで愚かだったとはな。皆殺しだ。貴様を除いたこの場の生命全てな」
唐突にリッチの笑いが途切れ、そしてこの場にいる者達を皆殺しにすると言い出す。
可愛らしい声で。
もうなんか、シュールなギャグを見せられている気分だ。
「戯言ですね。骨如きじゃ、このカッパーに触れる事すらできませんよ」
「ぷぎゃっ!」
カッパーがフェンリルを放り投げ。
作った拳をもう片方の手で包み、指を指を鳴らす仕草をする。
まあ一切音なってないけど。
「む、貴様精霊か。それも水の」
「ふふふ。水は生命の源。つまり、生命の力。なので、貴方なんて一撃で粉々ですよ」
「くくく……戯言を。確かに水の精霊は我ら不死者の天敵だ。だが、それは下等な者達に限っての話。圧倒的強者である我に、貴様如きの攻撃など我に通じるとでも思ったか」
水って生命の力を宿してるのか……精霊の言葉なので、まあ事実なのだろう。
カッパーがクロウに辛辣気味だったのって、ひょっとして生命の対極であるアンデッド系の力を使うからか?
「むむ、骨如きが生意気な。いいでしょう。メガ精霊の力をとくと味わいなさい。まあ、そんな間もなく貴方は昇天するでしょうけど」
「なにっ!?メガ精霊だと!?」
メガ精霊と聞き、あからさまにリッチが動揺する。
「受けなさい!我が水の一撃を!」
カッパーが右拳を天に掲げる、その拳から強烈な青い光が放たれた。
だが不思議と眩しくはない。
寧ろ、目に優しく感じるぐらいだ。
不思議な光である。
「この力……本当にメガ精霊だというのか。本来の力を出せない状態でこれを受けるのは不味い!」
「逃がしません!」
リッチがその場から逃げようとするが、その動きをカッパーの足元から噴き出した水によって遮られる。
そしてその水はそのままリッチに取りつき、絡みつく様に拘束する。
「し、しまった!」
「ふっふっふ。このカッパーは慈悲深いので、苦しむ間もなく送って差し上げましょう」
カッパーが不敵な笑みを浮かべ、宙に浮くリッチの下へと移動する。
「く……ま、まて……」
「乞いなら聞きませんよ。まあ遺言なら聞いてあげますが」
「ぬうぅぅぅ……はっ!そうだ!こういう時は……ぷるぷるぷる。僕、悪いリッチじゃな――」
「カッパーアパカー!」
遺言ではなかったので、カッパーによる情け無用のジャンピングアッパーがリッチの顎に炸裂する。
「ぎゃあああああああ!!」
リッチの全身の骨がバラバラになって吹き飛び、胸の中にあった赤い球だけが地面に転がり落ちた。
「ふ、今のは峰打ちです。感謝しなさい」
なにが峰打ちなのやら。
まあ突っ込まないけど。
「あ、ありがとうございます」
地面に転がる赤い球から、リッチの声が聞こえる。
多分この球が本体かなんかなのだろう。
……カッパーはちゃんと手加減していたみたいだな。
一応、クロウの呼び出した召喚だから気を使ったのだろうと思われる。
たぶん。
にしても……カッパーが強いんだろうけど、声のせいで単にリッチが弱かっただけにしか見えないから困る。
「ん」
このタイミングでクエストの更新が発生する。
ぱっと思いつくのはエクスの時の様に、クロウが使徒になったって所なんだろうが……
「んん?」
確認すると、予想通り使徒関連だった。
但し、増えたのは――
『使徒との信頼を築け!』
スピランス(信頼度100%)
――どこの誰とも分からない奴だった。
「……いや誰だよ、スピランスって」
拙作をお読みいただきありがとうございます。
『面白い。悪くない』と思われましたら、是非ともブックマークと評価の方をよろしくお願いします。
評価は少し下にスクロールした先にある星マークからになります。




