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290 旅立ちの日

いよいよ、書籍版十巻とコミックス版四巻の発売日が近づいてまいりました。


11月30日が発売日となっております!

店舗様によっては、28日くらいには並んでいたりする事もあったりします!


どちらも3Dイラストカード付きの特装版があるとか。

是非とも、よろしくおねがいします!

二百九十



「おかえりなさいませ、ミラ様」


「うむ、ただいま」


 丁度日が沈む頃、ミラが塔に帰ると直ぐにマリアナが迎えに出てきた。夕飯の支度をしていたようだ。部屋からは腹の虫を魅了する香りが漂ってくる。

 ミラが駆け寄ってくるルナを抱き上げると、マリアナはそっと入浴の準備を始めた。食事の前に風呂に入る事を好むミラの行動は、既に把握済みのようだ。そのため夕飯の準備も、その時間を考慮して進めているという徹底ぶりだった。

 塔に帰ってきてから今日まで、一人で風呂に入った事はない。そのためかミラは、もう慣れた様子で服を脱ぐ。だが、未だに裸のマリアナを直視する事は出来ていなかった。下心以外の感情が挟まると、どうにもそれを悟られまいとする意識が働いてしまうのである。

 他では幾らでも見放題だったのにと、ミラはこれまで様々な風呂場で邂逅した女性達の事を思い返しながら、不思議なものだと苦笑した。




 部屋風呂とは思えぬくらいに大きな風呂。そこで少し温めの湯に、ゆっくりと浸かるミラとマリアナ。そんな二人の前では、その広さを活かして、ルナが泳ぎの練習をしていた。


「という事でじゃな。明日には出発じゃ。また暫く空けてしまうが、折を見て連絡するのでな」


 毎日、少しずつ上達していくルナの泳ぎ。その成長を眺めながら、ミラはその事を告げた。明日、メイリンを捜すためニルヴァーナに向かうと。


「かしこまりました。それでは、お弁当をご用意しないとですね」


 ミラの傍で、寄り添うようにしていたマリアナは、少しだけ寂しそうな目をしながらも、それを払拭するほどに気力を漲らせる。ミラが担う任務の意味を、よく理解しているからだ。

 きっと、明日仕上がる弁当は一際豪華な逸品になるだろう。


「それは、楽しみじゃのぅ」


 既にミラの好物を熟知しているマリアナが、気合を入れて作る弁当。きっと、どこで食べるご馳走よりも美味しいはずだ。そう、ミラが期待に胸を躍らせていたところ、二人の前から「きゅい!」と、何かを主張する声が響いてきた。

 ルナである。先日買ってきた船型の風呂桶に乗り込み、見事な操舵技術を見せつけるルナは、二人の前までやってきて、期待に満ちた瞳でマリアナを見つめていた。どうやら、その勢いで明日のご飯が特別仕様になるようにと願っているようだ。


「わかりました。ルナには特製ミックスを作りましょう」


 つぶらな瞳を潤ませるルナのお願いテクニックは、マリアナをも陥落させる可愛さがあった。


「ルナもご馳走じゃな。良かったのぅ」


 もう一人陥落していたミラは、堪らずルナを抱き上げて頬を擦り寄せる。マリアナは、そんなミラとルナをそっと見つめながら、ただ優しく微笑んだ。




 風呂から上がると、部屋着用のゆったりとしたローブに着替える。そしてリビングのソファーに腰掛けて、ルナと戯れる事十分弱。テーブルには、今まで以上に豪華な料理が並べられていた。


「おお! 今日はいつにも増して贅沢じゃな!」


 この日のメインである、たっぷりチーズのハンバーグを始め、肉と野菜のバランスと彩が見事な皿の数々。中には早めに仕込んでおかないと、この時間に間に合わないような手の込んだ料理も、そこには並んでいた。


「はい、いつも以上に食材を厳選してみました」


 どことなく自信ありげに言ってみせるマリアナ。今日のご馳走は、余程の自信作らしい。

 この夕飯を境に、ミラはまた旅立つ事になる。朝方にソロモンから来た連絡で、マリアナはそれを察していたのだろう。だからこそ、とっておきな晩餐を用意出来たようだ。

 そこには、ミラの無事を祈る気持ちがふんだんに盛り込まれていた。栄養バランスだけではない。金属の音は邪気を祓うという風水に基づいて、食器は全て金属製だ。そして他にも、そういった要素が幾つもちりばめられているではないか。

 また、改めて部屋を見回すと、小物の配置も朝とは違っていた。この部屋の全てに、マリアナの想いが込められていたのである。

 風水については、ソロモンに少し聞いた程度のミラ。だが、わからなくとも、不思議と気持ちというのは伝わってくるものだ。出入り口に、ちょこんと置かれているカエルの置物と目が合ったミラは、出来るだけ早めに帰ってこようと心に誓いつつ、そっとマリアナを見つめるのだった。




 夕食後は、ただただゆったりとした時間が過ぎていった。砂場で遊ぶルナを見守りながら、ミラとマリアナは食後のティータイムを楽しみ、今日の事を語り合う。

 その話は、他愛のない内容ばかりであった。

 王城にいったところ、侍女達が新作を完成させていた事をミラが話せば、「とてもお似合いでしたよ」と、マリアナが小さく笑う。

 大通りでルナと一緒に買い物をしていた際、ルナがおやつの果物を選ぶのに十分かかったとマリアナが話せば、「ルナは食いしん坊じゃからのぅ」と、ミラが笑う。

 そうやって語らうのが、塔に帰ってきてからの日課だった。ほんの些細な出来事や、少し気になった事など、話の内容に決まりはなく、オチというのも特にはない。

 だが、そんな何気ない時間が楽しくあり、また愛おしくもあった。


「あ、その少し後に、ミラ様の事を捜しているという方をお見掛けしました」


 ブドウを一房買った帰り道の途中の事を、マリアナは思い出したように口にした。いったいそれは、何者だろうか。ミラがそう訊くと、マリアナも気になったらしく、その人物の様子を探ったと答える。


「その方は、グリモワールカンパニーという商会の営業担当だと話しておりました。ミラ様をカードにするため、許可を頂きにきたというような事を仰っておりましたが……」


 その者の目的はわかった。だが、カードにするとはどういう意味なのかがわからないといった様子のマリアナ。けれど、はてと首を傾げながら話す彼女とは違い、ミラにはその説明に思い当たる節があった。


「それは、もしや……!」


 アイテムボックスを開き、入れたままになっていたカードを取り出す。そう、怪盗ファジーダイスの事を知るきっかけとなった、『レジェンドオブアステリア』のカードだ。


「やはり、そうじゃったか!」


 手にしたファジーダイスのカードの隅には、確かに『グリモワールカンパニー』と書かれていた。それに気付いたミラは、ダンブルフに続き、いよいよ自分もカードデビューかと不敵に微笑む。そして、そのカードが強ければ、召喚術への関心も高まるだろうと考えた。

 だが、明日にはもう出発であり、その営業を捜したり対応したりする暇はない。


「その営業担当という者はじゃな──」


 そのため、ミラは手にしたカードを見せながらマリアナに説明した。『レジェンドオブアステリア』に使われている人物についてと、カードゲームとは、どういうものなのかという事と、営業担当の目的を。


「そうだったのですね。それでミラ様の事を」


 数多くの著名な冒険者や歴史的な人物、英雄など、この世界に実在した者達をカードとして再現し、机上で戦う戦略シミュレーション。そして、実在の人物をモデルにするからこそ、その許可が必要になる。

 そう理解したマリアナは、納得すると共に、カードゲームというものが気になったようだ。ミラが手にするカードを見ながら、「これで、戦うのですか」と感心したように呟いた。


「子供だけでなく、大人にも人気のようじゃからのぅ。カードになったわしが更に活躍すれば、召喚術の注目度もぐんぐん上昇する事間違いなしじゃ」


 これもまた、召喚術復興の手助けになるかもしれない。そのように続けたミラは、またその営業を見かける事があったら、許可する旨を伝えておいてくれとマリアナに頼んだ。


「かしこまりました。そのように伝えておきます」


 何でも調査したところ、営業の男は、ここのところ毎日昼の中頃に術士組合の方に顔を出しているそうだ。その時に会ってくると言ったマリアナは、「ミラ様も、このようなカードになるのですね」と、どこか興味深げだった。


「ところで、怪盗さん──ラストラーダ様には、どのようにして許可を取ったのでしょうね」


「……確かに、そうじゃな」


 ミラが手にしていた怪盗ファジーダイスのカード。それがあるという事は、つまり営業が許可を取ったわけだ。ふと気になったのか、そんな事をマリアナが呟いたところ、ミラもまた、そういえばそうだと首を傾げた。

 怪盗ファジーダイスが登場する時は、予告日当日。カード化交渉が出来る時間などなさそうである。それでもカードになっているのだから、何かしらの方法で許可とりに成功しているのだろう。

 いったい、どんな方法を使ったのか。ただ、緩やかに過ぎていく夜の時間。ミラとマリアナは色々と予想し合うが、どれも今一つであり、すっきりしない。

 結果、ラストラーダが帰ってきた時に答え合わせをしようと決めると、今度はミラのカードの効果について話し合った。許可をして、カードが出たところで、それが使えないものだったら、召喚術の印象に悪影響を与えかねないからだ。

 果たして、カード効果のリクエストが出来るものなのか。それは不明だがミラとマリアナは、『レジェンドオブアステリア』のルールの説明書きを一緒に見ながら、こういうのはどうか、ああいうのはどうかと想像を膨らませていく。

 ちなみに本人に許可を取る事の出来ない、ルミナリアを除く九賢者のカードについては、ソロモンが許可を出していたりする。これに気付き、マージンはどうなっているのかと、ミラがソロモンに迫るのは、また先の話だ。



 すっかりと夜も更けて、そろそろ床に就く時間。ニルヴァーナに発つ前日、最後の夜。クレオス不在により特訓がなかった事もあって、夫婦水入らずとばかりに過ごしたミラとマリアナ、そしてルナ。存分に語り、存分に笑い、存分に遊び、存分に優しい時を共にした二人と一匹は、ベッドに入ってからも、尽きぬ話題を語り合いながら、どちらともなく夢に落ちていった。

 そうして迎えた、出発の朝。ミラが目を覚ます頃には、いつもの通りマリアナの姿は隣になく、代わりにキッチンの方から心地良い朝の支度の音が微かに聞こえていた。


「おお、ルナももう起きておったのか。早起きじゃのぅ」


 目を開きながらも、未だ残る眠気にぼんやりしていたところ、ルナが甘えるようにして胸元に潜り込んできた。ミラは、そんなルナを抱いて撫でつけながら、ただ朝の心地良い気配にぼんやりとまどろむ。

 ルナも、また暫く会えなくなるのがわかっているのか、いつも以上に甘えてくるため、気付けばミラはメロメロになってベッドの上でルナと戯れていた。


「良い子じゃ、良い子じゃ」


「きゅいー」


 抱きしめて、これでもかと頬ずりすれば、ルナは嬉しそうに声を上げる。そうしているうちに眠気の残滓もすっかり消し飛んで、ようやくミラは、むくりと上体を起こす。

 すると丁度そのタイミングで、寝室の扉が開きマリアナが顔を覗かせた。


「おはようございます、ミラ様」


「うむ、おはよう」


「きゅい!」


 それは、何気ないようでいて、不思議と特別に感じる朝のひと時だった。マリアナの手伝いによって、手早く着替えを終えたミラは、ルナと共に用を足してから食卓に着く。そして愛情がたっぷり込められた朝食を堪能する。

 この日は出発の日という事もあってか、いつもより特徴的なメニューが多かった。どれも絶品でありながら、旅の安全の願いもそこには込められているようだ。

 二人と一匹で過ごす朝食も終わり、いよいよニルヴァーナへ旅立つ準備が始まる。とはいえ、基本的なところは前日から用意済みであるため、やる事は最終確認くらいのものだ。


「着替えよーし、冒険者証よーし、軍資金……は、もう少し奮発してくれてもよいものじゃがのぅ」


 今回、ソロモンから受け取ったのは二百万リフ。余程の散財をしなければ、闘技大会が終わるまでの間、十分な余裕を持って滞在出来る金額だ。しかし、既に散財するつもりであるミラは、これでは足りないと愚痴を零しつつ、確認の終わったものからアイテムボックスに収めていく。


「そして、弁当もよーし」


 朝早くに起きたマリアナが支度をしていたのは、朝食だけではなかった。一週間分はあるのではないかというほどの、沢山の弁当がそこには並んでいたのだ。しかも、メニューは同じものがなく、デザートまでも用意されているという徹底ぶりだ。


「これは、今から食事の時間が楽しみじゃな!」


 夕食といい、弁当といい、飽きさせないようにメニューを決めるというのは、これが意外と重労働だったりする。しかしマリアナにしてみると、それを考えている時間もまた幸せなひと時だったようだ。ミラが幸せをかみしめるように一つ一つ弁当を収めていく様子を前にして、マリアナもまた嬉しそうに微笑んでいた。


「さて、最後はこれじゃな。ルナのお守り、よーし」


 ルナのふわふわな青い抜け毛でマリアナが作った、小さなルナのぬいぐるみ。幸運の象徴とされるピュアラビットの毛で出来ているそれは、マリアナとルナの愛情がいっぱいに込められた、究極のお守りといえるだろう。

 それをルナから受け取ったミラは、「しかしまあ、そっくりじゃな」と、その出来栄えに感心しつつ、大切にポーチにしまった。

 これにて、出発の準備は完了だ。確認を終えたミラは、改めるようにして室内を見回す。風水に基づいてマリアナが配置した小物や、新設した砂場といったルナの遊び場など、戻ってくるたびに変化する見慣れた部屋。

 闘技大会の開催期間から考えて、きっと次に帰ってくるのは、早くても二ヶ月後になるだろう。その頃には、どのように変わっているだろうか。ミラは、それを少し楽しみにしながら今を目に焼き付けて部屋を出た。


「では、行ってくる」


 召喚術の塔の前。ガルーダを召喚したミラは、ワゴンに乗り込むその前に振り返り、見送りに出てきたマリアナとルナをぎゅっと抱きしめる。その時に感じる温もりは優しく、それでいて莫大な活力を与えてくれた。


「はい、行ってらっしゃいませ」


「きゅいきゅいっ」


 ミラの腕の中で、そっと目を伏せるマリアナ。しかし、そこにはもう寂しさの感情はなかった。ミラは、必ず帰ると信じているからだ。次に開かれたマリアナの目は、ミラを後押しするような愛情に溢れていた。

 だからだろうか。抱き合うミラとマリアナの姿は、妹の旅立ちを見守る姉のようであり、また夫を見送る妻のようでもあった。







厚揚げと一言でいっても、メーカーとかで大きく違うものなんですね……。

いつもの厚揚げが売り切れていたため、仕方なく普段は買っていなかったメーカーに手を出したのですが……

ここまで違うのかと、驚いたものです。


普段は、オーブントースターで表面をカリカリに焼くという食べ方をしているのですが、

今回の厚揚げには、合いそうにないです……。まさか、食べるのが苦痛に感じる厚揚げがあるなんて……。


なので今日は煮込んでみます!

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