291 アーク大陸
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二百九十一
アルカイト王国だけでなく、元プレイヤーが国主を務める国は多々ある。その中において、堂々の国力トップがアトランティス王国。現実となった今でも、多くの元プレイヤーを抱える大国だ。
そして闘技大会が開催されるのは、それに次ぐ国力を持つニルヴァーナ皇国である。
これまでミラが飛び回っていたのは、アルカイト王国の他、三神国も有するアース大陸。対してニルヴァーナ皇国は、その西側にあるアーク大陸の南端に存在した。
アーク大陸は大きく、その地形はアース大陸を喰らおうと口を開けているような形をしている。
アース大陸よりもダンジョンの数が多い事もあり、中級者になる頃には、だいたいのプレイヤーがアーク大陸に渡ったものだ。そして半数ほどが逃げ帰ってくるほど手強い魔物が多く、ダンジョンの難易度も平均して高かった。
今回ミラが訪れるニルヴァーナ皇国は、アーク大陸がくの字型をしている事もあり、位置的にはアース大陸最西端のセントポリーから、海を越えて南下していったところにある。
闘技大会開催発表の日から、セントポリーより多くの臨時便が出ていた。そしてミラは今、海路を進み三日ほどでニルヴァーナ北の港街に到着する定期便に乗船中だ。
ソロモンよりついでにと頼まれた書状やら何やらをローズライン公国に届けた後、セントポリーの現状を視察していたところで船旅に惹かれた、といった流れである。
なお、届け物の内容は国交に関するものだ。それを渡してきた時のソロモンと、待ってましたとばかりな顔をしていたウラシス──イーバテス商会の会長兼、現ローズライン公王の様子からして、双方にとって利のあるものだったようだ。
「おお、見えてきおったぞ。もう少しでニルヴァーナじゃ」
客船の船首近くにまで駆け寄っていたミラは、その進行方向の先に薄らと見え始めた大陸の影を指し示し声を上げる。すると、そんなミラのもとに集まった子供達が、楽しげに騒ぎ出した。
ニルヴァーナへと向かう船の旅。ミラは、同じくニルヴァーナの大会へと向かう者達と知り合った。そして気付けば子供を任されていた。
「きゅっ、きゅっ!」
そんなミラと子供達の中には、もう一匹いた。子供達の遊び相手としてだけでなく自身も大いに楽しんでいるのは、召喚術によってやってきたセルキーのフィーだ。
見た目はあざらしなフィーは、船旅という事と万が一の事態を考慮しての登場だ。その可愛らしさと水場の適応力は、子供達の親からの信頼も抜群であったりする。
そんなフィーだが、最近は人の事を真似るのがマイブームらしい。今は、どこからか入手した雨合羽を羽織り大はしゃぎだった。
「しかしまあ、賑わっておるのぅ」
港が近くなってきたからか、他にも何隻か客船らしき姿が見えた。
ニルヴァーナは、この闘技大会に相当力を入れて取り組んでいるようで臨時便が幾つもあった。しかも三神国に至っては、大型の飛空船を定期便として運行させているとの話だ。これをきっかけにして、初めて飛空船に乗った者も多く、その注目度が鰻登りらしい。
今はまだ、主に大国などの一部のみが所有する飛空船だが、いずれは大きく広がっていく事だろう。
そういった話からして、有史以来の大イベントになるだろうという事が、伝え聞こえてくる噂から、ひしひしと伝わってくる。
「まったく、楽しみじゃのぅ」
メイリンを見つけるという任務で赴くのだが、それ以前に祭りは良いと、ミラは胸を躍らせる。そして、フィーと共にはしゃぐ子供達の姿を見て満足そうに笑った。
ニルヴァーナ皇国内では、どこもかしこも闘技大会の話題で持ち切りだった。
「闘技大会など物語ではよく見るイベントじゃが、ここまでの規模での開催となると、流石にとんでもないのぅ」
時刻は夕暮れ。港に到着後、惜しむようにして子供達と別れたミラは、その光景を前にして若干及び腰になった。
ニルヴァーナ皇国の北。大きな港を有するスートラの街は、ニルヴァーナの玄関口として、また観光地としても有名であり、普段から多くの旅行者で賑わう街だった。しかしこの度、大会の影響を受けてか街の賑わいは更に膨れ上がっており、これでもかというほどに人でごった返していたのだ。
いざという時は、屋敷精霊を召喚すれば幾らでも夜を越せる。だが旅の醍醐味といえば、その地域ごとの一期一会な宿と食事だ。九賢者捜しも大切だが、それ以上に今を楽しむ事を優先的に考えているミラは、今の状況もまた醍醐味だと楽しんでいた。
そのため、ミラは空きのある宿を探して、スートラの街を歩き回る。ただ、今の街は闘技大会を目当てにやって来た者が多い。よって、冒険者事情に詳しい人物も相当な数がいるようだ。「お、おい。あれって、精霊女王じゃないか!?」などと、ミラに気付いた様子の者がちらほらといた。
「え? どれだ?」
「あ、あっちだ!」
精霊女王などと呼ばれるようになってから、それなりの時間が経った現在。もう随分と正確な情報が伝わっているようだ。絶世の美女、などという男達の幻想は霧散し、知る人はほとんど、精霊女王が美少女であると正確に把握している様子だった。
(わしも、いよいよ有名になったものじゃな)
この世界が現実になり、プレイヤー以外の視線も加わったため、ダンブルフ時代よりずっと注目される事が多くなった。だが、そのような状況にありながらも、ミラは堂々としたまま逃げも隠れもしなかった。むしろ闘技大会出場を止められた今、他の方向から召喚術の有用さを広めなければいけない。くるなら来いといった構えだ。
だが、精霊女王の話は聞いているが直接目にした者が多くないためか、誰もが本当に本人かどうか確信が持てないといった状態だった。
魔法少女風衣装を着た銀髪ロングで碧眼の美少女。それが噂と共に伝わっている精霊女王の見た目だが、確かにこれだけでは他に該当する人物もいそうである。そのため、声をかけてくる者はおらず、皆遠巻きに、もしかして、と見ているだけだった。
かといって、自分から行くのもどうだろうか。そう考えるミラは、そんな状況のまま宿を探し続けていた。
そんなミラの背後に近づいていく影が一人。それは、きょろきょろと周囲を確認しながら、人の間を潜るようにして、頑張って駆けていく。
そして、いよいよミラの傍にまでやってきたところで、「あ、あの……精霊女王さんですか?」と、恐る恐るな様子で声をかけてきた。
振り向くと、その声の主は、ミラよりも小さな少女であった。しかし、ただの少女ではなかった。
「うむ、その通り。最近は、そう呼ばれる事が多いのぅ」
ミラは、その少女の姿を見るなり、歓喜の笑みを浮かべて答えた。その喜びは、ようやく声をかけられたからではない。少女が賢者のローブレプリカ(召喚術)を着ていたからだ。
そして少女もまた、精霊女王に会えたと、それはもう嬉しそうな笑顔を咲かせた。
「あのね、あのね。精霊女王さん──」
余程嬉しかったのだろう、そして伝えたい事がいっぱいあったのだろう。少女は、とりとめなくも一生懸命に話す。そしてミラもまた、少女が伝えたがっている事を、真剣に聞き取った。
話によると、どうやら少女は絵本でダンブルフを知り、それ以来ダンブルフ好きになったそうだ。また同時に、召喚術に対して強い憧れを抱いているようだった。
その要因は、絵本に登場する聖獣。何よりも少女の関心を集めていたのは、ペガサスであった。
絵本のところどころに出てくるペガサスの優雅な姿を見て、少女は夢見たという。その背に乗って、大空を飛び回る事を。
「そうかそうか。ペガサスが好きか」
好きという気持ちを出来る限り言葉にした少女。そんな健気な姿に感動したミラは、優しく微笑みながらその隣にペガサスを召喚してみせた。
「ペガサスさんだー!」
少女は無邪気にはしゃぎ、喜びを身体いっぱいで表す。ペガサスもまた多少の空気は読めるようで、少女が差し出す手に、そっと頬を当てている。
突如浮かび上がった魔法陣から出てきた純白の天馬。その様子を見守っていた周囲の者達は、「おお!」と感嘆の声を上げた。ミラが精霊女王であると肯定した事に加え、素人目に見ても見事な召喚術を披露したからだろう。目の前にいるミラこそが、本物の精霊女王だと確信が持てたのだ。
だが、握手やサインを求めるには少し遅かった。
少女の夢を叶えるため、ミラは少女をペガサスの背に乗せた。そして自らもその後ろに跨ると、颯爽と空に舞い上がっていったからだ。
召喚術の復興のための活動も大切だが、ミラにとってはダンブルフを好きだという少女の夢を叶える方が大事だった。そして、そんな想いは見事に功を奏して、それはもう少女の喜びようはひとしおであった。
ペガサスで少女と共にスートラの街の空を遊覧してから、三十分ほどの後。いよいよ日が沈む手前の時間。ミラは、少女に自宅の場所を訊き、そのままペガサスで送り届けた。
これまでいた港近くの商店街から幾らか離れた住宅地。出迎えた少女の母は、ミラとペガサスの姿を見て、それはもう驚いた様子だった。だが、母だけあって、少女の憧れと夢については熟知しているようだ。ペガサスに乗って帰ってきたと少女が嬉しそうに言うと、それはもう我が事のように喜んでいた。
感謝の声に見送られながら少女の家を後にしたミラは、スートラの街の中心から少し外れた場所にある大通りに来ていた。
ペガサスに乗って空から街を見回していた際に気付いたのだ。観光客で賑わう港周辺や、中央通りに比べ、そこは幾分余裕がありそうだと。
実際、その大通りに踏み入ると、港前の窮屈さより、多少密度は薄く感じられた。ただ、その分、観光地とは違った雰囲気が漂っている。
どういった違いがあるのだろうか。ミラは確認するように大通りを回ってみた。すると、様々な視線がミラに向けられる。ただ、それは港前で感じたものとは、どうにも違う感じであった。
(ふむ……。この辺りは、荒くれ者の溜まり場といったところじゃろうか)
ところどころから聞こえてくる喧騒や、そこにいる者達の人相など。それらを確認した結果、ミラはその答えに辿り着いた。
少し外れにあるこの大通りは、血の気の多い冒険者や船乗りなどが多く集まる場所だったのだ。だからだろう。ミラに向けられる視線が、どことなく心配そうな色をしたものばかりであったのは。
今や精霊女王などと呼ばれる一流の冒険者として名が知られ始めているが、それはそれ。見た目は、小さな女の子である。そんな女の子が、荒くれ者の集まる場所に来たとなれば、心配になるのも仕方がないというものだ。
だが彼らの中に、ミラへ声をかける者はいなかった。きっと怖がらせてしまうと、そう考えているからだ。
対してミラはといえば、そんな彼らの心配をよそに、宿探しを再開していた。
(ここならば、まだ希望が持てそうじゃな)
見れば、宿はそこそこありそうだ。それでいて観光客と思しき姿は、さほど見られない。きっと空き部屋の一つくらいなら見つけられるだろう。そう考えたミラは、早速一軒目に突入していった。
そこは、もはや冒険者といえばここだというほどスタンダードな宿だった。一階が酒場兼食堂で、二階が宿泊施設という構造である。
「やはり、こうでなくてはのぅ」
丁度夕飯時だからだろう、一階酒場は大いに賑わっていた。この中のどれだけが宿泊客だろうか、空き部屋はあるだろうか。少し心配になりつつも、確認のためカウンターに向かうミラ。
するとその途中の事だ。
「召喚術士? あんなん役に立たねぇって!」
上機嫌に酔っ払った者達による、喧噪と騒音。そんな店内にありながら、ミラの耳は、その言葉をしかと聞き分けていた。
「なん……じゃと?」
瞬間、足を止めて、声が聞こえてきた方向にぐりんと振り向く。そして鋭い眼光で辺りを見回し、声の主を捜す。
そうしている間にも、更に同じ男の笑い声が聞こえてきた。
「無形術を優先して覚えろってぇの」「剣持った黒くてひょろいやつとかよ、魔物と間違えてぶった切っちまったぜ。手応えなくて驚いたのなんのって」「せめて囮程度の役には立ってくれねぇと」
などなど。随分と言いたい放題であった。ただ、それだけ騒いでいる事もあり、ミラはそうかからず、その人物の特定を完了する。
召喚術士を笑う男は、一階端のテーブルにいた。赤ら顔で酒を呷る剣士風の男であり、見たところ、そこそこ小奇麗な顔をした青年だ。わかったような事を言って粋がりたい盛りなのだろう。いわゆる、若気の至りというものである。
そんな様子に見えたミラは、「まったく、若いのぅ」などと呟きながら、少々女受けが良さそうなその顔を整形してあげようかと、寛大な心で歩み寄ってく。
酔っ払い達の合間を縫って進むミラ。少し近づいてきたところで、そのテーブル全体の様子も見えてきた。
小奇麗な青年の他、テーブルにはもう三人、青年の仲間らしき男達がいた。その三人は、「まあまあ」と小奇麗な青年を宥めているようだ。
彼らは、精霊女王の登場により召喚術も最近は盛り上がってきている、というような言葉をかけていた。だが小奇麗な男の暴走は止まらない。
「ハッ、あれだろ。たまたまあの大決戦にいて有名になっただけだろ? まあ、なかなか可愛いって話だからな。夜の相手くらいには使ってやってもいいか。ああ、そうだな。召喚術士でも、女なら役に立ちそうか!」
余程興が乗っているようだ。「もういいだろ」「酔い過ぎだ」「そのくらいにしておけ」と、他の三人が呆れたように注意するも、小奇麗な青年は上機嫌に笑い続ける。
(ほぅ……整形でなく、去勢がお望みのようじゃな)
ハクストハウゼンで出会い、召喚術の指導をしたレイラにリナの他、アルカイト学園のエミリアと生徒一同。召喚術の未来を担う彼女達への侮辱と判断したミラは、いよいよその目に怒気を孕ませて青年に近づいていく。
と、その時だった。
「おい、そこのお前。悪い事は言わん。今直ぐその口を閉じておけ」
青年達のテーブルより、それほど離れていない場所から、そんなドスの利いた声が響いてきたのだ。見るとそこには、如何にも熟練な戦士とばかりの風体をした男の姿があった。
どうやら先週買った厚揚げは、調理法が間違っていたようでした。
煮込んでみたり豚バラと一緒に炒めてみたりしたところ、問題なく食べられました。
特に、中でもアイデアを頂いたカレー作戦は抜群でした。
丁度、肉の日にハナマサへ行き、そこでハナマサオリジナルっぽいカレールーを買ってきたのですが……
これがまた、凄く美味しかったのです!
困った時は、カレー。やはり最強ですね。
もしかしたら、これまで使ってきたルーの中で一番美味しかったなんて感じるくらいでした。(個人の感想です
なので今度の贅沢ご飯は、豚バラたっぷりカレーで決めました!
という事でして、とにかくオーブントースターとの相性が致命的だったのですね……。調理法でここまで変わるとは……。




