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000. ひゃわぁ!?

 地下深くに眠る、巨大な迷宮。俺は襲い来る魔物たちをバッタバッタと薙ぎ倒して進み、ボス部屋の手前までたどり着いた。そこにいたのは、俺が受けた救出任務の対象である冒険者パーティの面々。みんな傷だらけで、満身創痍といった様子だった。


「こ、子供……!? どうやってこんなところまで……!?」


 ボロボロのローブを着た魔法使いらしき女性が、驚いた顔で俺のことを見ている。


「お、お嬢ちゃん……!? そっちに行っちゃダメだ……!」


 倒れたままの仲間を介抱していた男が、俺に向かって声をかけた。


「この先に、このダンジョンの(ヌシ)がいる……! とんでもなく強い化け物で、俺たちもみんなやられちまった……! 危ないから、助けが来るまでここで待ってたほうがいいぞ……!」


 俺を気遣ってか、男は足を引きずりながらこちらに歩み寄ってきた。


 そんな彼に向かって、俺はドレスのスカートをひらりと(ひるがえ)しながら振り返り、にっこりと微笑みかけた。


「大丈夫ですわ。皆さまはわたくしが、責任を持って救出いたします。ですので、安心してお待ちくださいませ?」




 ――俺はいま、訳あって可憐なお嬢様の姿になっている。


 可愛らしい音色で響く声に、青く大きな瞳。小柄なシルエットをかたどるように、腰まで伸びた金色の髪と、フリフリで煌びやかなピンクのドレス。女の子なら誰もが憧れるような、そんな『プリンセス』の姿に、俺はなってしまっていた。


 元はれっきとした男だったのだが、ある事件をきっかけに、とある王女様の体を借りることになった。王族である彼女のイメージを崩すわけにはいかないので、こうして無理やり礼儀正しく振る舞っているのだ――。




「また来たのか、懲りない奴らだ……」


 広々とした大部屋の中心部。あぐらをかいていたその化け物は、おもむろに頭を上げながら呟いた。


「……ん? なんだ……? ヒューマンの……ガキ?」


 俺の姿を見るなり、化け物は怪訝(けげん)そうに呟いた。


 ゆっくりと立ち上がったその化け物の頭は、雄牛の頭部そのものの形をしていた。立派に伸びた角の先端は血に塗れ、真っ黒の瞳がギョロリと俺を睨み付けている。


 その首から下は、ボディビルダーも顔負けの、筋肉モリモリの肉体をしていた。特に腹筋は八つくらいに割れていて、黒い表皮と合わさって、まるで……板チョコみたいだ。


「お前がこのダンジョンのボs……(ヌシ)である、『ミノタウロス』だな!」


 周りに誰もいないことを確認し、俺はそう言った。こんなはしたない言葉遣い、さっきの人たちに聞かれたら大変だからな。


「それがどうした……? 貴様のようなガキが、何の用だ」


 その点、こいつはおそらく二、三分後にはもうこの世にはいないだろう。礼儀作法を気にしないでいいのって、楽だなぁ。


「なんの恨みもないけど、討伐させてもらうぞ!」


「討伐……? フハハハハ! 笑わせてくれる!」


 笑い声をあげながら、ミノタウロスは持っていた斧を床にガツンと叩き付けた。それを合図に、どこからか現れた魔物の大群が俺の周りをぐるりと取り囲んだ。


「たかがガキ一匹に、何ができる!」


 奴の大声を皮切りに、周囲の魔物たちが一斉に襲い掛かってきた。


 こういうときにピッタリな魔法を、この前覚えたばっかりなんだ。試し打ちにちょうどいい……。


「『煉極・焔儘界(ブラスト・バーン)』!」


 詠唱と同時に、俺の足元に半径五メートルほどの巨大な魔法陣が展開された。魔物たちは一瞬たじろぐも、思い直したようにまた走り出す。


 ――瞬間、範囲内にいた全ての魔物の足元から、凄まじい熱量を持つ炎の柱が噴き上がった。爆発音にも似た轟音が辺りに響く。


 そして全ての火柱が消えたとき、あれだけ大勢いたはずの魔物の姿もまた、消え去っていた。


「な、なんだ……!? この威力は……!?」


 一人残されたミノタウロスが、慌てた様子で斧を構えなおす。


「だ、だが! この斧は炎を裂く! 同じ手は通用せんぞ!!」


「ほへー、そんな魔道具もあるんだ。じゃあ、次はこっちの魔法で……」


 そう言って俺は片足を軽く上げ、そのまま勢いよく地面を踏みつけた。


「『狂極・荊鞭刑(ハード・プラント)』!」


 詠唱とともに踏みしめた足を通して、魔力が地中へと流れていく。


 そして地中を(はし)った魔力は形を変え、巨大なイバラのムチとなって、ミノタウロスの四方を囲うように飛び出した。


「なにっ!? グオアァッ!?」


 突然現れた巨大なイバラにミノタウロスは驚き、そのまま乱れ打ちを食らって、痛みに叫びを上げている。


「んで、トドメはこの魔法で……!」


 そう言って俺は、右手を天井に向かって高く掲げた。するとその先、空中に魔法陣が展開されていく。


 頭上で垂直に展開された、半径二メートルほどの魔法陣。俺が右手をミノタウロスのほうへ向けると、魔法陣もそれに合わせ、ほんの少しだけ傾きを変えた。


「『涛極・瀑圧砲(ハイドロ・カノン)』!」


 詠唱とともに、魔法陣から凄まじい勢いで、大量の水が発射されはじめた。それは一直線にミノタウロスへと向かっていき、その体を(またた)く間に飲み込んでいった。


 後方の壁へ到達してなお放たれ続ける、極大高圧(きょくだいこうあつ)の水鉄砲。耳をつんざくような轟音は五秒ほど続き、ようやく収まったときには、岩盤でできていたはずの壁は大きく凹んでしまっていた。


「……うえっ、やり過ぎた……」


 その凹みの中にミノタウロスの姿は無く、代わりにその辺の地面の上に、ミノタウロスだったものが飛び散っている。魔法の威力が高すぎたせいで、ぶちゅっと()し潰してしまったようだ。


「まあいいや、討伐完了! ……んっ、ぐぐぐっ……!」


 とはいえ倒したことに変わりはない。あとはさっきの人たちを連れて帰れば、クエストクリアだ。俺は一息つきながら、大きく伸びを……。


「お嬢ちゃん……! 大丈夫か……!?」


「ひゃわぁ!?」


 背後から急に声をかけられたせいで、変な鳴き声が出てしまった。慌てて姿勢を正しつつ振り返る。


「すごい音だったが……ミノタウロスはどこに……?」


「だ、大丈夫ですわ! わたくしが倒しましたので!」


 なんとかプリンセスらしい態度を取り戻しながら、軽く返事をする。民の前では王族らしいお(しと)やかさを保たなければ……!


「倒した……? あの化け物を……君が……!?」


 信じられないといった表情で見つめる男に対し、俺は引きつる口元で無理やり微笑みを作った。




 ――いったいどうして、こんな厄介な状況になってしまったのか。そのはじまりは、半年ほど前のことだった――。

はじめまして、tMGと申します。

読んでいただき、ありがとうございます!


投稿作品としては4作目となります。

こちらの作品は第二章の終章までは毎日投稿するので、ブックマークのほうお願いします……!


少しでも「おもしろい」と思っていただけたなら幸いです……。

応援、リアクション、感想、ブックマーク、なんでもお待ちしております!


今後とも、よろしくお願い申し上げます。

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