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銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
六章:銀に燃えるために
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静かな焔

 眼前に迫る弾丸。外套を広げ受け止める。


 銀雲急便の制服は弾を通すことはなかったが、重い衝撃が突き抜けると同時、停止した時間の中に置き去りにされた。


 ――敵も時を止められる。


 おそらく、【時計機関】に所属する全員が。


「…………ーーー!!」


 しくじったと理解した時には口も動かせなくなっていた。【秒針】の効力が切れても肉体の停止は解けない。


 なす術はなかった。


 容赦なく放たれた銀炎を帯びた銃撃が胴を貫いて骨を裂き――。


「逆巻け。《分針》」


 レーニャが唱え、時間が僅かに巻き戻る。


 周囲の景色がねじれ歪み、心身を再び、《秒針》によって停滞した時間に引きずり戻された。


「嗚呼、その弾丸も異界道具かよ!」


 ダンと。重々しい銃声が轟いたが、怒号は掻き消えることなどなかった。


 眼前に迫る弾丸を、双眸に炎を灯し見て避ける。


 続け様に薙ぎ振るわれた大鎌を、急ブレーキと急旋回で退けて、振るう遠心力に身を任せ軍刀で薙いだ。


 刀身は射程外だが。帯びた銀の炎による加速が、刀風を研ぎ澄まして放つ。


 白銀の斬撃が軌跡を描いて飛び、【時計機関】の一人を斬り飛ばした。


 《秒針》の効力が切れると白い砂を鮮血が染めていく。


「ディスト……!! 避けれる攻撃を喰らうな! 当たれば終わりなものなんていくらでもあるんだぞ!?」


 巻き戻る前を知るレーニャだけが上擦る声で叫んだ。


 だが返事をする時間はない。


「悔いろ……!! 《秒針》」


 背後から迫る弾丸の風切り音を感じ、連続して《秒針》を唱えた。停滞する時間のなかで銀の炎を滾らせて加速していく。


 爆炎が砂を巻き上げた。膝が触れるほど車体を傾けると後輪が砂を蹴って滑ったが炎の噴出で強引に態勢を取り直し、後方から攻撃を仕掛けてきていた銀雲急便の連中を睥睨した。


「ッーーーー……! こちとら運転はまともに教わってねえんだよ……!!」


 時が動き始めると同時、白銀の炎で空気の壁を突き抜けた。【正義】に一矢報いたときと同じように、ルーディオを模倣して焔の翼で車体を制御する。


 そして双眸から火花を散らしながら、一瞬にして距離を詰めた。


「裏切り者が銀の炎を使うなッ……!!」


「悪いが、俺は裏切ったことはない……! 俺は俺を信じてくれた人に応えたいだけだ。それと、あの野郎をぶちのめしたいだけだ!!」


 ――アメリアは信じてくれたから命を賭けてくれた。そして俺は瞳を継いだ。リーダーは俺を信じてくれたから消えぬほどの業火を託してくれた。


 チームは信じてくれているから背を預けている。


 レーニャは、誰よりも信じてくれているから弱さを見せた。


 ――応えたい。ただそう想うだけで際限なく銀の輝きが双眸を満たす。空気を歪めるほどに燃え滾るから、突き動かす激情の業火に身を投じるように肉薄した。


  目の前の元同胞が反応するように瞳に銀火を灯し、憎悪に満ちた視線を向けてくる。同時、引き金が絞られると銃口が銀光を炸裂させた。


 だが、ディストの炎は彼らの火を呑み込むほど眩く、疾く、鋭く研ぎ澄まされていた。


 放たれた弾丸を軍刀で斬り伏せる。劈くような金属音すらエンジンの爆音に掻き消えるなか、そのまま銃身を、腕を、胴体を切り裂いてすれ違った。


 銀の残火が散っていく。続けざまに引き金の言葉すらも省略して【秒針】を連続して行使した。


 感情を燃やして時を止める。脳が焼き切れそうな熱を帯びて、苦痛を噛み締めた。瞳と鼻から濁った血が垂れていく。薄赤い視界の奥で光が歪んでいた。


「止めてんだから……! 動くんじゃねえ!」


 停止した時のなかで向けられ、放たれる弾丸。――被弾すればこちらの時が停滞するものだ。


 ディストは限界まで車体を傾け急旋回して迫る弾丸を回避した。軍刀を地面に突き立て態勢を取り直し、砂塵と火花を舞い上げていく。


「《秒針》を――それどころか君のおかげで《分針》まで起動した。ありがとう」


 声と共に青い光が眼前に広がった。短距離の空間跳躍時に生じる歪んだ光の色だ。時計機関の連中が眼前にまで距離を詰めてくる。


「だろうな! お前らじゃ一生起動できねえ」


 喉首に向けて突き放たれる歯車仕掛けの細剣。金に煌めく切っ先が掠めようとする刹那、ディストは《秒針》による停滞を解除した。


 直後、――ダン! と重々しい衝突音が響き、横切っていく銀焔の翼と雷鳴。


 ルーディオとミルシャが時計機関を轢き裂いた音だった。


「これで……追ってきたやつは全員処理したか」


 ぼやきながらレーニャは納刀した。


 闘争の音は途絶え、砂を撫でる風の音とエンジン音だけが残り続けていた。


「正直、迷いはありました。けどもうミルシャは吹っ切れました。……怖いのはずっとですが、こうやって生き残ってレーニャやルーディオ、ディストさん達とこの風を浴びていたいから、頑張れそうです」


 砂混じりの熱風が髪を撫で靡かせる。加速を帯びていると、熱風も僅かに涼しくさえ思えてくる。


 緊張の糸を緩めるように、ミルシャはゆっくりと肩を下ろした。


 空元気を振り絞るように微笑んで、どこか誇らしげに瞳を銀に光輝させていた。


「嗚呼、そうだな。逃げたりしなくて正解だった。オレの居場所もここだ。心地いい気分で風に当たるにはここしかねえな……」


 ルーディオにしてはやけにナイーブなぼやきだった。


 じっと地平線の遠くを見つめていたが、ふと我に帰るようにアクセルを強く握って、ルサールカと合流していく。

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