9.俺はどうやら喧嘩売りぐせがついた、、らしい
正面からの爆拳による正拳突きを受けきれなかったカイはそのまま消滅した。
「やっと終わった。」
「「「「、、、、なんなのよ今の」」」」
後日談、試合を見ていた先生も自分が教師なんてやっていていいのかと思うほどだったらしい。
西部会場特別推薦合格者のカイ、東部会場特別推薦合格者のノア。
学生の域を大幅に越えたノア、まだまだ大きな伸び代があるであろうカイ。
3年後5年後を2人はいいライバルになるだろう。
その戦闘記録はしっかりと後日、全教員に開示され、ほぼ全ての教員がため息をつき、幾らかは目を輝かせ、幾らかは落胆していた。
間違いなく本日1番の試合だった。
必然的にのちの戦いはかなり一方的で、面白味のないものに感じられてしまう。
ノアの活躍もさることながら、セイやフィーエを中心に圧倒的な力を見せつけ、疑問に感じた本隊が動き出す頃には本陣全滅で決着がついていた。
「お疲れー。」
「「「「お疲れー」」」」
模擬戦を終えた俺たちは外出許可をとって街のレストランに来ていた。
特待生以外の生徒はいちいち外出許可を取らないと街に出ていくこともかなわないというのは不便ではあるが、
まぁ学生という身分上仕方ないと割り切るより他ない。
セイの乾杯の音頭で果実水を一気にグイーッと煽る。
グレープフルーツに近いさっぱりとしたピンク色の果実水を俺とフィーエ、パイナップルのような甘味のある黄色の果実水をセイとユエル、バニラが注文した。
酒の飲めない俺たちの嗜好品と言えばこれくらいしかない。
学生にはメロンソーダとかコーラとかあって然るべきだと思うので、いずれはその普及も進めたい。
あと、絶望的にぬるい。
「今日は色々あったなー。」
「主にあんたのせいでしょ」
「まぁまぁ、結果は最高だったでしょ?見た、あのお坊っちゃまの絶望の表情。」
「あー、傑作だったな。虎の威借りまくってるけどそれは置いといて、いやー、これだから人をいじめるのはやめられない。」
「おい、本性出てるぞー」
いつも通りのバニラは置いておいて、フィーエは完全に悪役の顔でにやけてS丸出しの発言。
果実水で酔っ払ってるのか?
「みんなは何科目とるの?」
「俺魔法学だけ。」
「私は魔法学と槍術師クラス」
「私は特殊魔法コースと斥候クラス。」
「私拳闘師クラス」
「私は特殊魔法コースと拳闘師クラスなんだけどさ、やっぱバラバラだよね。」
白兵戦にすでに師匠を持つノアは魔法学だけ。
セイは得意な魔法を伸ばすために魔法学、接近対策に槍術師クラス。
呪術と隠密を合わせて使うユエルはマナ運用の異なる特殊魔法と斥候のクラス。
バーサークパンサーのバニラは拳闘師クラス。
フィーエは妖狐の力を生かしたビルドのために特殊魔法コースをとっている。
一年生のうちは1人1科目以上3科目以下の取得だけでよく、かなりの頻度で行われる実践学習会が単位に大きな割合を占める。
大体の生徒は2科目。3科目取る人は珍しい。
大体1科目週5回の授業があり、一ヶ月ごとに単位の精算が行われ、足りない分は補講となる。
一年を総じて足りない分が一定を超えると、留年になってしまう。
「別に良くね。というか、バラバラな方が今後チームとしてバランスいいだろうし。」
「はぁ、」
「わたしたちとずっと組んでくれるの?」
「え、嫌?」
「そうじゃないけど、ノアくんほど強かったらもっといろんな強い人と組めるのになぁって。」
「別に強いやつと組みたくてここに来てるわけじゃないし、みんな十分強いし。」
「「「はぁ」」」
自室に戻るとジェイはすでに寝ており、ライラとオクトーは一冊の図書館の蔵書を前に、なにやら騒いでいた。
「なに見てるの?」
「おう、これだよこれ。」
オクトーはその本を自慢するように俺に見せてきた。
古ぼけた表紙には魔道具大全の文字。
内容を推察するに、魔道具図鑑みたいなものだろう。
派手好きな2人のことだ、派手な魔道具でも探しているのだろう。
「あぁ、魔道具ね。」
「興味ないのか?」
「いや、興味ないわけじゃないけど、とても買えるような値段じゃないしね。」
「それでも見てるだけでワクワクするじゃん」
と今度はライラ。やはり年相応といったところだろうか。
「俺はいいや。ちょっと考えなきゃいけないこともあるし。」
「つまんねーの」
というと2人はまた本に齧り付くようにあーだこうだ言い出した。
今日は色々あって夕方までかかったが、明日からの5日間は午前で終わるらしい。
残りの一通りの日程を終えれば2日間の休みもある。
さて、この時間でいくら稼げるだろうか。
止まっていた例の喫茶店とは契約という形でポテチの売上の一部を毎週一括で受け取ることになっているので、喫茶店の人気次第では売り上げも安定するだろう。
次の手順として、大量生産化、店舗化のどちらか。
王都での店舗化は至難の業だろう。
代謝の早いことで有名な商店街も、相当な人気を維持していなければいくら積んでも土地は手に入らない。
大量生産するといってもどこで?
労働者は奴隷を活用しようと思ってる。
幸い?にもこの国では奴隷は合法なのだが、まず見るからに子供の俺が契約できるのだろうか。
相場はいくらぐらいなのか、問題は山積みだ。
とりあえず当面のうちは1人で屋台運営に取り組むしかないらしい。
近いうちに店舗を持とうと思ったらいくらかかるのか、奴隷一人当たりの値段、作業場の見積もりもしておこう。
目標額が設定できなければいつまでもこんな下っ端商人みたいなことをしなくてはならない。
腕がなるな。
2人の少年が魔道具に胸をときめかせているすぐ横で、1人の少年?はこれから始まる商人ライフに胸をときめかせていた。
翌日は能力検査。
「なんでまた検査なのー」
隣ではセイがブーブー文句を言っている。
「まぁ確かに俺も入学試験の時の結果だけでいいと思うけどね。逆に考えればこれがあるお陰で授業が1日分なくなって午前中だけなんだから、恩恵と考えるべきなんじゃない?」
この検査の結果は対して成績に加味されないと特待生になりたがりのオクトーが言っていた。
だからなのか、皆どこかやる気なさげというか、緩んでいる。
「でも一応順位は出るんでしょ?」
「え、そうなの?」
「先輩たちがつけてるバッジの番号って定期検査の成績順位じゃなかったっけ。」
「そんなのあったっけ。」
セイの真後ろに座っているフィーエによれば、二ヶ月おきに行われる能力検査と毎月行われる実践検査という試験の結果で学年の全生徒に席次がつき、順位がついたバッジを腕につけなければならないらしい。
先生が昨日言っていた予定から推測するに、実践検査というのは今月行われないようだ。
よって、順位の全てがこの能力検査で決定する。
まぁ、恥ずかしくもなく、凄くもない順位がいいかなぁ。
一方、俺も気になっている特待生はどのように決まるのか。
専門家のオクトーによると、毎年新入生総決戦の上位8名が特待生に選出されるらしい。
その後は全生徒に与えられる挑戦権を使用した決闘によって順位の変動が起こる。
与えられる挑戦権は三ヶ月に一回。
挑戦は闘技場で行われることになっている。
「ねぇ、あれ見て。」
セイがオーレンを指差して、
「ちょっとやばいよね。」
その指の先には、すごい形相でこちらを睨むオーレン。
昨日のことでまだ怒っているようだ。
なにしてくるかわからないし気をつけとこ。
「みんな、オーレンには少し気をつけてね。俺のせいでカンカンに怒ってるらしい。」
「あ、ほんとだ。すごい顔。」
「キモい。」
「情けないやつだ。」
ひどい言いようである。
これ、聞こえてたら怒りで卒倒しそうだな。
「ほい、おはよう。」
どこから現れたのか、降って湧いたように先生が現れた。
「「「「「「「「「おはようございまーす」」」」」」」」」
「はい、えー昨日も言ったけど、今日はテストです。んで、うちのクラスはまず魔法技能テストからなので、第一実技棟の3階に行ってくださーい。次の試験の指示はそっちであると思うので。はい、どうぞー」
それだけ言い残して先生が消えたので、クラスのみんなは多少戸惑いながらも試験会場である実技棟へ向けて、案内板を頼りに移動し始めた。
「思ったんだけど、先生結構適当だよね。」
「先生ってそういうもんじゃない?」
「そうかね。」
どうやらこの世界では日本の小学校の先生像は通用しないらしい。
「家庭教師の先生とかならともかく、集団だし。」
「ノアの故郷はそうじゃなかったの?」
「いや、そもそも先生とかいなかったし。なんとなく幻想を抱いてたって感じかな。」
「え?先生もいないのにどうやって魔法とか習得したの?」
「教本があったから。」
「え、いや、先生なしで独学で習得したってことでしょ?」
「独学じゃなくて、教本があったんだって。」
「だから、それを独学って言うんでしょうが。」
バニラの半ギレツッコミ。
「うん。」
「はぁ、呆れた。」
え?俺はなんで呆れられているの?
「まぁ、三元素も、それに特殊属性二つで、さらに独学ってきたら相当なもんだよね。」
「へぇ、これからは黙っとこ。」
「あ、言わないタイプなんだ。」
「うん。人と違う必要はないでしょ。」
「はぁ!?人との違いの塊みたいなやつがなに言ってんの?」
またバニラは怒っている。
とまぁ、すっかり仲良しな5人組ができて、俺もホッとしている。
いや、前世と同じようにずっと教室の隅でぼっちとかは嫌じゃん。
最低限友達はいないとね。その友達もめんどくさい友達だったらヤダ。
これくらいが最高だ。
なんて考えたり、バカっ話をしていたら試験会場まではすぐだった。
試験内容は秒間集積マナ量試験、魔力試験、元素試験、秒間攻撃力試験、多重展開試験、マナ錬成試験の六種類がこの順番で行われる。
順に難易度が上がっていき、最初の二つは大抵誰でも1以上の結果は出せるのだが、
人数はどんどん減っていき、マナ錬成試験まで残っている新入生は毎年片手で数える程らしい。と言うのを試験が終わってから聞いた。
全ての試験結果は、色で判定される。
色が黒に近ければ最高に近く、白に近ければ最低だ。
大雑把に、黒、紫、青、緑、赤、オレンジ、黄色、白。
クラスの後方にいた俺たち5人組は、クラスの中では一番最後に試験を受けることになり、会場になっている部屋の前の廊下で、並んで駄弁っていた。
「見ろよあの集団、獣人ばっかだぜ、きっと魔法技能テストはひどいもんだろうなー。」
「おいおい、聞こえるって、獣人は耳がいいんだってよ。」
「まぁ、いいだろ、ってかさ、あの一緒にいる男も男だよな、人なのに獣人なんかとつるんじゃって」
「そりゃ、きっとヘタレか、そーゆー趣味なんだろ。」
ふと、変なのがこちらを見て嘲ってくる。
この学校は獣人差別に貴族気取りに、他人に喧嘩を売るのが流行っているのだろうか。
「ちょっとあんたたち、」
あ、バニラがキレた。
「今、なんて言ったかもう一回言って」
こちらを嘲ってきた五人組が、なんか不吉な表情をしていたので咄嗟にバニラを取り押さえた。
「なに、今のはあいつらが悪いでしょ!勝手にさせて。」
「やだね。面倒ごとはごめんだ。」
「じゃあ、私たちなんかに、、」
「ちょっとバニラ、」
バニラが売り言葉に買い言葉しようとしてたのでフィーエが止めてくれたみたいだ。
言葉ってのは一回出したら取り消せないからな。
バニラが顔を真っ赤にしてフィーエに持って帰られる。
「まぁまぁ、悔しいのはわかるが、あーゆー低レベルなモブはほっとくに限るんだぜ。」
あ、耳の悪い人間にも聴こえちゃったかもなー。とまで言うと流石に不味かったので言わなかったが。
「あ?」
モブたちはもっと惨めになるべく引っ掛かってきた。
「あ、セイ、順番来てるよ。」
ちょうどいいタイミングで順番が回ってきたので、並んでる4人を先に行かせた。
「ちょっと、あんたはどうすんのよ。」
「大丈夫、、な訳ないですよ、、ね?」
「心配だ。」
「私は残るよ。」
それぞれこの空気の変化を感じて残ろうとしてくれる。
「え、いいから、ゆっくり試験に集中。あと、タイミングが来たら耳塞ぐといいかも。」
「「「え?」」」
「はーい」
セイだけはふーんと口を尖らせて、いじけたように、ユエル、フィーエ、バニラは心配そうに会場に入っていく。
頃にはもう5人が俺の前に立ちはだかっていた。
「おい、今、俺たちを侮辱したような声が聞こえた気がしたんだが?」
「あ、僕ですか。」
わざとらしく、意外な風に応答してみた。
「あたりめぇだろ。お前の頭には敷き藁でも詰まってんのか?あぁ?」
五人組のうち、一番体格のいい男が俺に詰め寄ってきた。
ガキ大将風情が一丁前にメンチ切りやがって。
身長は俺よりも少し高い。
同世代で初めて俺より身長が高い人を見たかもしれない。
「んー。知りません。あ、ちなみに君の頭の中にはなにが詰まっているんですか?」
「お前、人をバカにしたような態度しやがって。」
「あっ、あちゃー、バレちゃいました?」
「テメェ。」
「おっと、暴力ですか?」
ボスザルが拳を引いたので煽ってみてしまったのだが、やっぱり俺には人を怒らせて楽しむ癖があるらしい。
シンプルにやなやつだなー。と自己嫌悪。
「暴力暴力言ってる奴はな、大抵腕っ節に自信のないヘタレ共だよ。」
ついに、待望の一発目が俺に向かって放たれた。
レバーを狙ったつもりだろう。
ボディに向かってパンチが向かってくる。
〈金剛体装〉
バキッ
俺の右脇腹に綺麗なボディーブローが直撃し、固いものが割れる音がした。
「くっ」
あれ?思ってたんと違う。
俺の理想では「い、イッてぇぇぇぇぇよォォ」ってな感じで泣き喚いて欲しかったんだが。
我慢しちゃってるらしい。
「もう、力の差はわかったかな?早めに医務室行ったほうがいいよ。素人にしてはいいパンチだった。多分骨が折れてる。」
俺はあえて背中を見せて余裕に立ち去る。
「おい、一発耐えたぐらいで調子に乗んなよ!獣人みたいな連中を侍らせている変態野郎に、ジョーさんが負けるわけねぇだろ。」
取り巻きが騒ぎ出す。
〈獅子吼〉『ハハッははははははははは!』
高位の〈獅子吼〉には、恐怖効果だけでなく、脱力、振動、吐き気など、さまざまな作用がある。
突如棟に響いたノアの〈獅子吼〉により、十数名の生徒が体調不良を訴えるのだが、ノアはそんなこと知らず、完璧に力を抑え切れたと思っている。
5人組だけでなく、近くの数名も〈獅子吼〉の効果で跪かされてしまう。
「おい、そこの五人組。亜人差別は法律では禁止されていない。だから俺がなにもしないとでも思ったのか。」
「い、いえ」
「聞いてねぇよ。」
〈獅子吼〉『次やったら殺す』
その後廊下がどうなったのかは知らないが、とりあえず俺も試験に合流することにした。
「派手にやってきたね。まさか〈獅子吼〉を使えるほどの達人がいるとは。」
教室の中にもできた列に俺が並ぶと、ひとつ前に並んでいたユエルがこちらに話しかけてきた。
ユエルにしては珍しくニヤついたような表情をしている。
「あれ?そんな聴こえた?」
〈獅子吼〉は強力なスキルだが、範囲はコントロールできるのでここではよほど気を遣っていないと感じられないはずだ。
「うちの一族では一人前と認められる基準の一つに〈獅子吼〉があるんだ。だから、まぁ、聞き慣れていると言うか?」
「へぇ、すごいなそりゃ。」
「いや、そっちがすごいって話を、、」
「次の生徒ー。」
と、ユエルの話をぶった斬って声がかかる。
「いってらっしゃい。」
「まぁ、いいか」