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レストレーション

すみません、だいぶ遅れました

 世界樹からその分身ともいえる小精霊が離れてしまったことで、幻影の森を覆う浄化の力が弱まっているのではないか。そう懸念したレーナは、その危険性について幸生に訴えた。


「もし浄化の力が正常に働いていないのなら、エルフたちは皆殺しにされてしまうわ。長年結界に護られてきた彼らは戦闘経験が無いはずだし、団結できるかも疑わしいわね」


 彼女が危惧しているのは、弱い魔物としか戦ったことのない戦士たちの練度は低く、また連携などの訓練も滞っていることだ。危険があっても敵が人族であれば幻術を見せることで追い払えるし、ダメでも得意な弓で包囲すればアッサリ制圧できてしまう。

 勿論それは世界樹あってのものだが、その結果、彼らの危機意識は薄いのだろう。

 自分たちを世界樹の守り人などと言いながら、実際には護られる側であることに気づいていなかった。


「長い年月を経て、彼らは変わってしまったわ。大長老であるラクト、それにこのビクトは昔と変わらぬ信念を持っていたけれど、他は皆……」


 そう言って少し寂しそうにするレーナであったが、それでも彼らは仲間である。見捨てるなんてことができるはずもない。


 そんな彼女の機微を感じ取った幸生は、こう断言する。


「そうか……。なら、尚更彼を助けないといけないな」


 ビクトを助けることで小精霊が自由になるというのなら、やるべきことは一つだけだ。


「ララエル様、どうしたら彼を助けられますか?」


 勿論、知っていますよね。そう尋ねた幸生に、ララエルは「ええ、それが私の役目ですから」とあっさり真実を暴露する。

 たとえ天使であっても、その正体は元下級神であり、地上で起きる事柄に直接干渉することは許されていない存在である。だが、事態は急を有す。この程度であれば問題ない。そう判断しているようだ


「この男が今ある状態は仮死です。といっても、ミライの持つ力で繋ぎ止めているだけですので、彼女無しでは一秒と待たず死に至るでしょう」


 その説明に対し、幸生は余り驚いていないようだ。むしろ、想像通りといった様子で頷いている。


「……仮死、ですか。だから回復魔法が効かなかったんですね。でも、蘇生魔法が使えない現状では、助ける方法がないように思えるのですが……」


「そうですね。確かに蘇生魔法は女神ラルム様の権限で認められておりませんが、その代用となる魔法が存在しております。

 この世界の創造主である貴方だけに許された究極の魔法【レストレーション】 

 リナーテ様は貴方であれば使えるはず、そうおっしゃっておりました」


「レストレーション? 復元魔法かな。じゃあ、この世界の創造主というのも『Sラン』においてという意味ですか……。それなら……」


 ララエルが幸生に伝えたのは復元魔法。

 復元とは、ある一定の状態まで元に戻すことであり、『Sラン』の世界を作り出すにあたってプログラミングまでこなしていた幸生だからこそ使えるはず、というのだ。


「わかりました。やってみましょう」


 当然、使ったことなど無い魔法だ。しかし、その仕組みさえ理解できていればできるはず。そう判断した幸生は、早速イメージを固める作業に取り掛かった。

 感覚的には時間を捲き戻す感じだろうが、時空魔法は存在していない。ならば、元あった姿に戻すことを考えた方が正解だろう。再生と構築、これを繰り返すことで、身体は元に戻るはずだ。

 そう考えたが……。


「魔力が足りないかな」


 仮死とはいえ、状態は最悪である。細胞活動も完全に停止しているため、元に戻すなど容易な作業ではない。

 

 とはいえ、それもすべて見越していたのだろう。

 すぐにララエルが解決策を提示した。


「レーナ、それに唯さん、お二人の力が必要です。お貸しいただけますね」


「「はい!!」」


 勿論、二人に嫌は無い。何か手伝えることはないかと考えていた彼女たちは、任せて欲しいとばかりに勢いよく返事した。


「では、唯さん。あなたは幸生と手を繋いでください。それからレーナ、あなたが最も重要です」


 そう言って、何かこっそり耳打ちをする。

 話を聞いたレーナは少し複雑そうな表情を浮かべるが、迷いは吹っ切ったようだ。コクリと返事をすると、準備に取り掛かる。


「幸生、あなたと唯の魔力を繋げます。準備はよろしいですか?」


「繋ぐ? ……はい、大丈夫です」


「レーナ、お願いね」


「はい……。

 我が聖なる光よ。この者たちの持つ、魂の力を繋ぎたまえ【接続(コネクト)】」


 レーナが唱えたのは接続の魔法。青みがかった聖なる光が二人を包む。


「凄い、唯の魔力が僕の中に流れ込んでくる」


「はい、私も幸生様の優しい魔力が流れてくるのを感じます」


 幸生と唯、適性の違う二人の魔力ではあるが、レーナの持つ聖属性を介して問題なく繋がった。それぞれの魔力が混ざり合い、聖なる属性へと変換される


「これなら行けそうです! 

 我は願う。この失われしものの雄姿を、今一度、蘇らせたまえ【完全回復(レストレーション)】』


 ビクトを蘇らせたい。その思いが形となる。

 幸生の杖から発した5色の淡い光。それがビクトの身体を包み込み、胸に穿たれた深い穴を塞いでいく。潰された心臓や肺など、臓器の復元も無事に終わり、血色も赤みがかった正常なものに変わっていった。

 奇跡、そう言ってもいい光景ではあるが、それだけに術者への負荷も大きい。ビクトの身体が元に戻りきると同時に、二人の魔力は底を尽きた。そのまま意識を失い倒れ行く二人。


「幸生さん、唯!」


 驚いてレーナがそう叫ぶが……。


「あなたも少しお休みなさい。お疲れさま、レーナ」


 その言葉が聞こえるかいなや、彼女もまた深い眠りに落ちていった。




 数分後


 無事に役目を終えたミライが顔をあげる。だが、いまいち状況が呑み込めていないのか、不思議そうな表情だ。


「ララエル、様?」


「ええ、お役目ご苦労様。後のことは私に任せて、あなたは森へお帰りなさい」


 そう言ったララエルの言葉に、ミライは何度かビクトと彼女を交互に見比べて、「うん!」と頷いた。

 そしてミライは「ありがとう~」という言葉を残し姿を消した。


 最後に残ったララエルは「この子たちも頑張ったから、ご褒美をあげなくちゃね」と、幸生たちに視線を移しニッコリと笑みをこぼす。

 

「う~ん、何がいいかしら。……やっぱりあれかな」


 そんな意味ありげな言葉を残し、彼女の姿も消えていった。




 ☆☆☆



 時は少し遡る。


 カナから援軍要請を受けたイヌヤマ子爵邸では、使用人たちが忙しなく働いていた。

 時計の針は夜の9時をまわり、本来であれば就寝する時刻である。しかし、これから夢愛たち先発組が出るため、早急に準備が進められているのだ


 エルフ族の里へ向かうメンバーは4名。

最強と呼び声の高いハヤトと幻獣ペガサスであるカナ、そして能力は未知数ではあるがスキル怪力を使い巨大な戦斧(バトルアックス)を自在に使いこなすマリナと規格外の広範囲魔法や精霊召喚を武器とする夢愛である。


 空を飛べるカナとマリナがハヤトと夢愛を運んでいく。そう決めたわけだが、それには少し問題があった。

 

「お嬢様は私が抱っこして行きます」


 願望丸出しにそう主張するマリナであったが、ベルローズから「空は寒いので却下」とあっさり破棄されていた。

 妖精族である彼女は温度差による影響をほとんど受けない。しかし、夢愛は違う。

 今はまだ4月始めであり、日中はそれほどでもないにしろ夜はまだ冷える。ましてや上空は更に温度が下がり、かなり寒いはずだ。人族である夢愛には、十分な対策が必要であった。


 すぐに始まった対策会議。その結果選ばれた手段が、夢愛を巨大な編み籠に入れるというものである。


 籠作りをするのは庭師のトオル。仕事柄、彼は特殊なスキル【軟化】を得ていた。


 その作成方法は用意された竹を割き、一定の長さにカットしたらスキルを使う。すると、硬い竹がグニャリとまるで只の紐であるかのように曲がったのだ。

 スキル【軟化】は、彼が触ったものを柔らかくしてしまうというもので、剪定や木材の切断、加工、更に金属片なんかも自在に曲げたりと便利なスキルである。すべての物質というわけではないが、太めの竹程度であれば簡単に曲げることができ、元に戻すにもスキルを解除するだけなので簡単だ。

 トオルは編み物でもするかのように竹を編み、身長が130センチほどの夢愛がすっぽりと収まるほどの編み籠を、小一時間程度で完成させていた。


 彼が作業に取り掛かっている間、メイドたちはお嬢様が寒くないようにと、毛布と暖かそうな上着を用意する。竹編みということもあり隙間風が心配で、何枚も準備していた。

 そして料理長のドルチェは夢愛の好きなクッキーを何枚も焼き、ベルローズは温かい紅茶を用意する。ストレージの中は温度が変わらないため、飲みやすい温度まで冷まし水筒に入れていた。



 

 そんな感じで準備は着々と進んで行ったのだが、勿論、これだけではない。

 リョウイチ・イヌヤマ子爵はロブソン伯爵邸に使いを送ると、すぐに面会を求めた。幻影の森は伯爵領であり、兵を出す必要性があるからだ。


 本来、魔物の討伐は冒険者の領分である。だが、1000体もの数となると話は変わる。多勢に対しては多勢を、冒険者の数をそれだけ集めることは容易でなく、不可能といってもいいだろう。

 ここは領軍に出張ってもらうしかない。

 

 とはいえ、実際に領軍をあてにできるかというと、それも難しい。というのも、大勢の兵士を運ぶ手段がないからだ。馬の数には限りがあるし、馬車も同様である。軍の移動には時間がかかり、到着するには早くても夕方ごろであると予想された。

 到底間に合うはずもなく、着いても手遅れであることが容易に想像できた。




 そうしている間にも全ての準備が整い、夢愛たちは出発の時を迎える。

 さすがに門から出ていくわけにいかないため、一旦真っすぐ上空に上がり、幻影の森へ向けて飛んでいくようだ。

 

「じゃあ、行ってくるね」


 いつもと変わらぬ様子で元気に手を振る夢愛を、使用人たちは複雑な表情で見守っていた。敵がアウルであると知っているためか、その不安は隠しきれないようだ。千を超える魔物を率いるアウルが相手では、いくらハヤトといえども無事では済まない。そう考えても不思議ではなかった。

 

 しかし、そんな暗い空気に活を入れたのは、領主邸へ向かったリョウイチに変わり指揮を執るミユキだ。


「ほら、あなたたち何してるの。夢愛ちゃんが手を振ってるんだから、応えてあげなきゃダメでしょう」


 勿論彼女も不安ではあるが、夢愛がどれだけ規格外の存在であるかも十分理解していた。

 幸生が何も言わず送り出したのなら、それは心配いらないということである。ただ一つ懸念すべき材料は、やりすぎないこと、それだけであった。

 

「「「「「「「いってらっしゃいませ。お嬢様!」」」」」」」


 ミユキの活に気持ちを切り替えた使用人たちが、そろって頭を下げる。

 

 それを合図に、彼女たちは飛び立っていった。





 幻影の森に向けてジョワラルムから飛び立ったカナとマリナであったが、その速度はかなり遅かった。

 というのも、いくら着込んできたとはいえ、カナの背中に乗るハヤトにはかなり寒さが堪えるようだ。


「めちゃくちゃ寒いじゃねえか!」


 そう文句を言うが、今更である。そのため、速度をあげられず、のんびりと飛行していた。

 

 一方、マリナの持つ巨大な編み籠の中にいる夢愛は、全く平気そうだ。

 たくさんある毛布に包まりモゾモゾと這い上がると、籠から顔をのぞかせる。せっかくなので空からの景色を楽しみたい。そういうことであった。


「うわぁ~、きれい」


 山と山の間にできた光と影のコントラスト。上空から見えるその景色はとても美しい。


「スマホで撮ってみよ!」


 夢愛はポケットからスマホを取り出すと、早速パシャパシャと写真を撮りだした。


 このスマホ、ゲームの時と全く同じ機能が使えるらしく、通話やメール、写真、動画、音楽など使い放題のようだ。

 通信機能がどうなっているかは不思議だが、繋がる相手が兄たちかレーナしかいない以上、気にする必要はないであろう。


 そうして暫く楽しんでいたが、やはり冷えるらしくブルッと身震いをする。


「やっぱ寒いね」


「ええ、お風邪を引かれてはいけませんので、お嬢様は奥に潜っていてください」


「うん、そうする~」


 そう返事をして、夢愛はまたモゾモゾと籠の中に潜っていった。

 そして、そのまま眠りにつく。たくさんの毛布に囲まれ、籠の中は暖かかった。





 

 

 

 


 

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