専属のメイド
ユイの視点です。
でも、長いです。
私は東山唯。お仕事は夢愛様の専属メイドをしています。
東山家は山野家の遠縁にあたり血縁関係はかなり薄くて、おじいちゃんのおじいちゃんが兄弟みたいです。
父は山野グループ傘下の子会社を経営しているので、かろうじて一族の末席に加えられているといっていました。
なので、こう見えて私はお嬢さまなんですよ。
でも、そんな私がどうして夢愛様の専属メイドになったかと言いますと、それは6年ほど前のことでした。
あれは私が十四歳の時、父と一緒に参加した山野家主催の新年会で、山野のおじ様に声をかけられました。
「唯ちゃん いらっしゃい。 ちょっと頼みたいことがあるけどいいかな? 今日は娘と遊んであげて欲しいんだ」
山野のおじさまは怖いと言われているけど、私にはいつも優しくしてくれます。それに、夢愛様はとっても可愛いので特に断る理由もないし、引き受けることにしました。
ただ、この新年会は親族とグループ傘下の幹部の方たちやその家族の方たちも集まり盛大に行われるので、毎年楽しみにしていた行事なのも事実で、久々の友達との再会をあっさりと済ませてしまったのが残念です。
メイドさんの案内で、私は夢愛様の部屋を訪れます。
「ゆいお姉ちゃん、いらっしゃい!」
夢愛様は、とっても可愛らしい声で迎えてくれました。
私も笑顔で返します。
「こんにちは、夢愛ちゃん」
私は夢愛様の部屋に入ると、とても驚きました。
二十畳ほどの大きなお部屋にシャンデリア。天蓋付きのお姫様ベッドにたくさんのぬいぐるみ、大きな等身大の鏡に化粧台。まるでおとぎ話に出てくるお姫様の部屋そのものです。
山野のおじさまは、とっても夢愛様を大事にされていると聞いていますが、(ここまでするの?)という気持ちでした。
(もしかして本当のお嬢さまは、みんなこんな感じなのかしら? ちょっと、羨ましい)
そんなことも考えましたが、今更です。
夢愛様は私に大きなぬいぐるみを見せてくれたのですが、ただちょっと変わっていて、ユニコーンにペガサス、そして角の生えた……くま?
「これは何?」
「一角ベアだよ」
そう答えてくれる夢愛様は、とっても嬉しそうです。私は初めて聞いた名前なのですが、そういう魔物がいるようです。
「この子はね、ペガサスのペガちゃん。それでこの子はユニコーンのユニちゃん。そしてこの子は一角ベアのイッちゃんだよ。わたしね、いつかペガちゃんに乗ってイッちゃんとたたかうんだ!」
「……ん、どういうこと?」
「幸生お兄ちゃんがそういってたの。だから、ゆいお姉ちゃんもユニちゃんに乗って一緒にたたかってね?」
「えっ⁉ わ、私も戦うの? ……そっか~。じゃあ、一緒に戦おう」
何を言っているのかよくわからなかったけど、小さな子どもの言うことなのでと思い、気軽に返事をしました。
でも、まさかあんなことになるなんて、この時は思いもしませんでした。といっても、これはまた別のお話なんですけどね。
ただ、名前まで付けてしまっている一角ベアさんと、夢愛様は戦えるのでしょうか。ちょっと、不安です。
でも、そのあと本を読んだり、お絵かきしたりして楽しく遊んでいると、私の帰る時間がきました。
夢愛様は寂しそうにしていますが、私の目をジッと見つめてこう言いました。
「ゆいお姉ちゃん、またきてね。 約束だよ!」
「うん! じゃあ、また近いうちにね!」
「「バイバイ!」」
お互い手を振って、気持ちよく別れることが出来ました。
次の日、山野のおじさまから父に電話がありました。
「唯ちゃんを夢愛の教育係兼、遊び相手として雇いたい」
父にどういう事か聞かれたので、私は昨日あったことを話します。
「たぶん、昨日一緒に遊んだからじゃないかな?」
それを聞いた父は少し考え事をしていたようですが、私の意思を尊重してくれるようです。
「唯はどうしたい? お父さんは、いい話だと思うんだが……。 おまえの好きにしていいんだよ」
「えっ⁉ でも私まだ十四歳だよ。アルバイトなんてしていいの?」
でも、問題ないらしいのです。むしろチャンスだといっていました。よくわからなかったけど、お給料もいただけるし楽しそうだったので引き受けることにしたのですが、教育係というのが気になります。
数日後、山野家に伺いアルバイトの説明を受けると、教育係というのは建前で実際は遊び相手だそうです。まあ、私に教育係というのは無理だと思っていましたから問題ありません。
山野家には月に四日ほど来て欲しいそうなので毎週日曜日ということにし、用事があるときは土曜日に伺うことにします。
アルバイト初日、山野家に着くとメイドさんたちの控室に案内されました。
「はい、これに着替えてね」
私に手渡されたのは子供用のメイド服です。一応私は十四歳なんですけど……。ですが、そのメイド服はなぜかサイズがぴったりでした。不思議です!
でも、メイド服なんですよ。やっぱり憧れますよね?
「うわ~ かわいい~‼ メイド服、憧れてたんですよ~。ほんとに着ていいんですか?」
「いいのよ~。唯ちゃんのために特別に拵えたの。気に入って貰えてよかったわ」
着替えた私を見たメイドさんたちは、顔を綻ばせながら褒めてくれます。
「「「 かわいい~‼ 」」」
恥ずかしすぎます。
私が夢愛様の部屋に行くと、豪華な机が用意されていてパソコンも二台置かれていました。
これは、私がパソコンを使えると伝えてあったから用意されたみたいです。
これから始めるお仕事は夢愛様に色々な経験をさせることで、絵をかいたり、裁縫したり、ゲームをしたり、お菓子を作ったりとなかなか大変。
けど、メイドさんたちはとても助かるということでした。
「唯ちゃんが来てくれて助かるわ。この家の子たち、色々凄すぎて大変なの。年の近い子が欲しかったのよ」
とてもわかる気がします。
幸生様は頭がよく天才といっていいと思いますし、翔様はスポーツ万能。
夢愛様は普通なのかなと思っていましたが、どうやら違うみたいです。
私が教えたことはすぐにできてしまって、このままでは確実に追い抜かれてしまいます。だから、私もかなり努力しました。八歳も年下の子に、あっさり抜かれるわけにはいきません。
その結果、私もいろんなことができるようになりました。
やっぱり環境って大事ですよね。
アルバイトを始めて一年が過ぎ、私も高校生になりました。
夢愛様は五月が誕生日ということですので、もうすぐ八歳です。以前とは様子が変わり、最近ではファッション雑誌を見ながら話すことが多くなりました。
「この服かわいい! でも、ここがもうちょっと。もっとこんな感じだったら……」
「それなら、夢愛ちゃんもデザインしてみたら?」
興味ありそうだったので勧めてみました。
「あっ! そっか やってみたい! う~ん、でもどうしたらいいの?」
私にもわからないので、とりあえずノートに描いてみます。
「夢愛ちゃん、お互いに似合うと思う衣装をノートに描いてみようか」
「うん、ゆいお姉ちゃんに似合う、すっごく可愛い服を描くね」
私が描いたのは可愛らしい夢愛様に似合いそうな、ふわもこのパジャマです。色はベビーピンクと白のストライプにしました。想像するだけで頬がゆるみそうです。
けれど、夢愛様が私にデザインしてくれたのは、セーラー服をモチーフにしたアイドルのような衣装でした。
「そんな派手な服、私には似合わないよ」
「え~、そんなことないよ。ゆいお姉ちゃん、すっごく可愛いから!」
こうして始めた衣装デザインが山野のおじさまの目に留まり、実際に作られることになりました。
私のデザインした、ふわもこのパジャマを着た夢愛様は想像以上に可愛く大好評でした。
そして私も、夢愛様がデザインしてくれたアイドル風の衣装を着てみます。
「「「「 かわいい~‼ 」」」」
メイドさん達にも好評で、恥ずかしかったけど嬉しかった。
この後すぐに、YUAIというブランドが立ち上がり、私と夢愛様、そして亜衣さんがデザイナーとしてデビューしました。
「ユアイなら私にも権利ありますよね」
そういって半ば強引に参加してきた亜衣さんは、もともとコスプレイヤーで、いろんな服を手作りしていたそうです。デザインされる服は少し特殊なんですが、なかなか評判がいいみたいです。
ある日、夢愛様のお部屋に行くと大きなモニターが設置されていて、そこには一人の女性が映っていました。ただ、その女性の顔には見覚えがあります。
「初めまして、あなたが唯ちゃんね。私はレーナよ、よろしくね!」
モニターに映る女性から自然な感じで話しかけられました。テレビ電話みたいなものかもしれませんが、モニターに映る女性は、どう見ても人ではありません。二次元といったらいいのでしょうか?
「ゆいお姉ちゃん、レーナさんはAIで私の家庭教師なの」
「AIで家庭教師???」
話を聞いてみると、企業の新しい試みの一つで『AIに子供の勉強を教えられるのか検証する』のが目的みたいです。
「レーナさんって、麗奈さんに似てますよね」
なんとなく、そう思ったので聞いてみました。
「麗奈さんがレーナさんだよ!」
夢愛様にそう教えられました。何か複雑な事情がありそうです。
麗奈さんというのは、幸生様がお作りになられたゲーム『AI将棋』の女流棋士の方で、夢愛様に将棋の指導をしてくれていた女性です。インテリ眼鏡にお団子ヘアーで、秘書をイメージしたキャラクターだったので、レディーススーツを着ていました。
私にも遼次さんという棋士の方が指導してくれたのですが、彼は強面でいつも怒っているように見えます。でも実は、とっても優しい方でした。
お2人ともAIとは思えないほど上手な指導をしてくれて、その麗奈さんが夢愛様の家庭教師というのもうなずけます。
夢愛様がお勉強をしている間に、私は休憩用のケーキを作り始めました。初めはメイドさんに教わりましたが、もう自分で作れますし、試食したメイドさんたちにも好評です。
「お店で売ってるものより、美味しいわよ!」
そういって、美味しそうに食べてくれました。もちろん、夢愛様にも好評です。
それを見ていたレーナさんも、羨ましそうにしていました。
「いいなぁ、 私も食べてみたいなぁ」
私もできることなら食べてもらいたいですが、それは実現不可能ですよね。
レーナさんは家庭教師ですが、それが終わると一緒に遊びます。ゲームをしたり普通の会話もします。
私たちがデザインした衣装をパソコンに取り込むとレーナさんが着替えることができるとわかり、着せ替え人形になって貰ったりもしました。もう、とてもAIとは思えません。
こうして一年が過ぎ、私も高校二年生。
夢愛様のブランドYUAIが軌道に乗り忙しくなり始めました。
私の担当は、高校生ぐらいまでをターゲットにした衣装デザインです。夢愛様は子供服、亜衣さんがちょっと不思議な服をデザインしています。かなり露出が激しく、どこで着たらいいのかわかりません。
「唯ちゃんにはまだ早いかぁ。もうちょっと大きくならないとね」
そう言って、何かのキャラクターらしき服を私に着させようとしてきて、危険です。
でも、楽しいことは長くは続かないもので、レーナさんは申し訳なさそうに伝えてきました。
「ごめんね。私、違う仕事になっちゃった。代わりに、新しい子が来るからよろしくね!」
「やだ、やだ、やだ‼」
突然のことで、夢愛様はショックを隠し切れません。大粒の涙をこぼして、嫌がります。大好きなレーナさんとのお別れですから、無理もありません。
新しく紹介されたのはリンという13歳の女の子でした。彼女もまたAIのため、見た目と違ってしっかりしています。
リンちゃんを紹介してくれたレーナさんとは、とうとうお別れです。夢愛様は別れるのが辛くて、ずっと泣いていました。
「大丈夫よ。すぐ会えるから、また一緒に遊ぼうね!」
夢愛様がうなずくと、レーナさんは去っていきました。
新しくきたリンちゃんは夢愛様と年が近いせいもあって、すぐに打ち解けたみたいです。
彼女もまた将棋の棋士をされていた方で、いつも着物を着ていたかわいい少女です。
けれど、彼女もまた一年ほどで違う職場に移動になりました。
その次がカナさん。やっぱりAIで女流棋士の方でした。
こうして日々が過ぎていき、私は無事に高校を卒業しました。
お仕事はそのまま山野家でメイドをさせていただけることになりましたので、大学には行きません。というのも、すでに私の口座は大変なことになっていました。
「唯が一番の稼ぎ頭だなぁ」
と、父が驚いたように言っていました。
でも、弟はまだ中学生です。いずれは父の後を継ぐので、まだわかりませんよね。そもそも、会社の社長より稼いでいるはずがありません。
私は一通りのお仕事を教わると、夢愛様専属となりました。
YUAIの存在もあるので、私は専属メイド兼デザイナーです。
山野家での専属メイドというのは侍女的な意味合いではありません。
幸生様にはメイド兼秘書の亜衣さんがいますし、翔様にもメイド兼剣術指南役をしている理恵さんという方がいます。
その理恵さんなんですけど、剣道五段だそうです。凄さはいまいちよくわかりませんけど……。
それから二年の月日が流れ、私は二十歳になりました。忙しい日々を頑張って過ごしてきたのですが、これから私は不思議な体験をすることになるのです。
長文をお読みくださり、ありがとうございました。
とてもお疲れさまでしたと言いたい。




