異変発生! 1日前 ①
レーナ登場。今後も活躍するキャラです。
天井に床、壁やテーブル、椅子にいたるまで、全てが白で統一されたドーム型の部屋。
中央には直径二メートルほどの魔法陣が二つ描かれ、北側にある背もたれのない椅子には、女性が一人腰かけている。
気になる女性の見た目は金髪碧眼、真っ白なワンピース姿で、背中には小さな羽が生えていた。
一見すると天使のように見えなくもないが、頭の上に天使の輪はついていないようだ。
ここは転生ルーム。ゲームに初めてログインした際に訪れる部屋だ。
そして彼女は女神としてここに待機し、入場者へのルール説明の後、魔法陣からゲーム内へ送り出す役割を担っていた。
女性は名をレーナといい、ゲームのNPC(ノン プレイヤー キャラクター)である。身長は170センチと女性にしては背が高く、設定上の年齢は20歳。
そしてその特徴は、自由過ぎるNPC。
このゲームではNPCたちの自由度をあげるため、全てのNPCにAI(人工知能)が組み込まれており、彼女は自然な会話までこなすエリートなのであった。
転生ルームにある魔法陣が黄色く光る。
これは外の世界から誰かが入ってくるという合図だ。
「レーナさん、遊びに来たよ!」
「レーナお姉ちゃん、新しい服をデザインしてきたの。可愛いから着てみて~」
魔法陣から現れたのは幸生と夢愛。
二人はレーナと仲が良く、今日も遊びに来たようだ。
「あら、幸生さんに夢愛ちゃん、いらっしゃい! 新しい服? どんなの? かわいい感じ?」
レーナは、いつの間にか手にタブレットを持ち、データを検索し始めた。
それを夢愛は覗き込むと、何着かの服を指さし紹介していく。
「ここから、ここまでがね、新しく登録してもらった服だよ。ねえねえ、これなんてどう? 可愛くない?」
一着の服を指さし楽しそうに話す夢愛。
けれど、レーナはどちらかというと美人タイプ。
そこに感覚の相違があるのだが、夢愛は全く気付いていなかった。
「どれもレーナお姉ちゃんに似合うと思うよ」
「ほんとだね。どれもかわいらしい。でも、こんなかわいい服、私には似合ないんじゃないかな?」
「え~、大丈夫だよ! 唯ちゃんも『絶対似合う!』って言ってたもん!」
唯というのは夢愛の専属メイドをしている女性で、レーナとも面識があった。
「ほんと? 絶対? うそじゃない? ……でも唯は凄いよね。お菓子作りに裁縫、衣装デザインなんかもできるし、うらやましいなぁ。とても同い年には見えないわ」
そう口にするレーナだが、唯の年齢は彼女と同じ20歳。
でも、そんな彼女を夢愛はジト目で見るわけで、ある事実を冷たく言い放った。
「ええ~、唯ちゃんは年下のはずだよ。だってレーナお姉ちゃん、私と初めって会った時も20歳って言ってたもん」
そう、レーナはNPCのため、設定上20歳。
けれど、実際は夢愛と出会ってからすでに五年が経過し、年齢もそれだけ増えていなければならないのだ。
「もうっ、夢愛ちゃん! 私は永遠に20歳なの。年はとらないの」
「でも、私も12歳になったし、ほんとは25モゴモゴモゴ」
レーナはそんな危険すぎる発言をしかけた夢愛の口を慌ててふさぎ、誤魔化すように話を変える。
「さ、さあ夢愛ちゃんの作ってくれた服を見ましょうね! あら!? 水着もあるじゃない。この花柄のビキニ可愛いわね。着てみようかしら」
そう口にしてみると、反応したのは女性陣の会話に入れず空気と化していた、幸生だ。
「ビ、ビキニ着るんですか? レ、レーナさんのビキニ姿⁉ ぜ、ぜひ見たいです!」
普段は落ち着いた雰囲気の彼だが、今は思春期真っ只中。
興奮気味に話す幸生に、女性陣もドン引きだ。
「……ごめんなさい。幸生さん、かなり気持ち悪いです」
「もうっ、お兄ちゃんのエッチ! お姉ちゃんの代わりに、私が着てあげるよ!」
と、なぜか逆に嬉しそうな夢愛であったが、彼女の年齢はまだ12歳。背も低く、可愛らしい丸顔に少し長めの黒髪を赤いシュシュでまとめている姿は、かなり幼く見える。
ビキニが似合う年頃までは、まだまだ長そうだ。
けれど、幸生はちょっと違う。
「いや、夢愛のビキニは……。代わりに、こっちのフリルのついた、ひまわり柄の水着でお願いします。ふんっ」
鼻息も荒く、自分のスマホの画面を指さしドヤ顔を決める幸生に、レーナは嫌そうな視線を送る。
「幸生さんマジでキモイです。もしかして変態だったのですか?」
AIである彼女に誰がそんな言葉を教えたのか、酷い言われようだった。
そんなやり取りもあったが、レーナはいくつかの服を選んで試着することにした。
衣装チェンジはタブレットの操作で簡単に変更できるが、それでは面白くないと、ファッションショー風に登場することにしたのだ。
レーナと夢愛が北側の壁まで行くと自動扉が開き、ニ人は隣の部屋へ入っていく。
そして短い打ち合わせを終え、夢愛だけが椅子を一つ持て戻ってきた。
最初から部屋にあった椅子と並べ中央に置き、二人で腰かけて待っていると、レーナは体に大きなバスタオルを巻いて部屋に入ってくる。そして……。
「ジャジャーーン!」
と、効果音を口で言いながらバスタオルを外すが、どこか卑猥な感じが否めない。
そんな男の妄想を掻き立てるかのような演出に、幸生の表情はヤバかった。
(おお! イイッ! っていうか、なんかエロイな!)
「レーナお姉ちゃん! それ、やっぱダメ‼ お兄ちゃんがニヤニヤしてる。絶対エッチなこと考えてるよ!」
兄の締まりのない顔つきに気づき、夢愛は慌ててレーナに忠告した。
すると彼女もまたも、そんな彼の表情に不快感を露わにしたのだ。
もうそれは、まるで汚物でも見るかのような視線を投げかけ、厳しい口調で言い放つ。
「変態!」
とはいえ本気ではないようで、すぐにクスッと笑い表情を崩していたけれど、『変態!』という言葉は幸生のココロを大きく穿っていた。
彼女の表情の変化に全く気付かず、
「いや、だって、僕も男だし。仕方ないじゃん……」
と嘆く彼の頭を、なぜか夢愛が優しく撫でていた。
そんなちょっとしたトラブルもあったが、三人は気を取り直してファッションショーを再開させる。
レーナが着ている服はベトナムの民族衣装アオザイだ。
特徴的な腰まで伸びたスリットに、純白で体のラインにぴったりと合ったデザインは、彼女の魅力を存分に惹きたてていた。
「アオザイかあ。すっごい奇麗だ。よく似合ってますよ」
幸生のそんな誉め言葉に、レーナは嬉しそうにその場でくるりと回った。
すると、彼女の背中につけられた小さな羽が幸生の目に映る。
「ブッフォ! な、なんですかそれ⁉」
「新作だよ~!」
驚いて噴出した幸生の問いに、なぜか自身満々で答える夢愛だった。
次のレーナが着る衣装は黄色のチャイナドレス。
先程とは打って変わり、効果音だけだ。
「ジャーーン」
「おおーっ⁉ かわいい、マジで最高‼」
そんな本音を漏らす幸生であるが、それも当然と言えよう。
今回の彼女はは長い金髪を二つのお団子にして赤いリボンでまとめており、グッと可愛さが強調されていたのだ。
さらには、ボディラインがはっきりとしたドレスに、際どく切り込んだスリットから見える生足が色っぽさを増し、まさにエロかわいいといった衣装であった。
けれど、幸生はその衣装を見て、どこかシックリこないとも感じていた。
どうにも赤い雲のような刺繍が気になるようで、何やら胸騒ぎを覚える。
今度はその理由が気になり出しジッと見つめていると、彼女がその場でくるりと回り、判明した。
チャイナドレスの背中には、ブレスを吐く赤い竜の刺繍が施されていたのだ。
「レッドドラゴン? いやさあ、竜の刺繍って言ったら普通、シェ〇ロンみたいなやつじゃないの?」
そんな幸生のダメ出しに、
「だから、新作だよ!」
と、なぜか夢愛はムッとした感じで答えていた。
そして、次は振袖。
桃色の生地をベースにいろいろな花が描かれている。20歳のレーナにはぴったりな衣装だ。
「やばい! かわいすぎる。……ん、なんだ。……変な花があるぞ。なんだこれ? ……って、ラフレシアじゃねぇか⁉ 怖いわ」
「もう、新作だって言ってるのにぃ」
と、こんな感じで進んでいくのであった。
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