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時の絆

 幸生たちはレーナの案内で、西門へ向かう。

 Fランクの狩場は街から小一時間ほど歩いたところにあり、そう遠くはない。必要なアイテムはストレージに入っているため補充も必要なく、彼らはそのまま街を出たのだ。


 初めて見る街の外に、少しばかり興奮した様子の彼ら。とはいえ、開けた街道を歩くだけではすぐに見慣れてしまい、飽きてしまったようだ。


 手持ち無沙汰な様子の翔は、ずっと気になっていたことを、幸生に尋ねた。


「なあ兄貴! 俺たちのパーティ名はどうすんだ?」


「そうだなぁ……、みんなはどうしたい?」


 唐突に始まったパーティ名の談義に、他のメンバーも関心をよせる。


「私、前と一緒がいい!」


「でも、あれは俺達3人のパーティ名だぞ! 今は5人だから変じゃないか」


 『Sラン』では幸生、翔、夢愛の3人でパーティを組み、『時の絆』と名乗っていた。しかし、今は唯とレーナが加入したことで5人となっている。


「じゃあ、翔お兄ちゃんは、何かいい名前があるの?」


 そう問いかける妹に、翔は自信ありげな様子だ。


「『女神のしもべ』ってのはどうだ? 結構、気に入ってんだよなあ」


 教会の巫女サレイアがイヌヤマ子爵家のことを、そう呼んでいた。

 侮辱しているわけではないのだろうが、あまりいい物言いとは思えない。


「却下だ! お話にならない」


「お兄ちゃん、キモいよ……」


「えっ……」


 兄妹2人のダメ出しに、驚く翔。てっきりみんなも気に入ってくれると思っていただけに、不可解だ。


 そんな彼の考えなしな発言に、怒りを露わにするものが1人。


「あなたは、何を言っているのですか。まさか魔王に対し、宣戦布告するつもりではありませんよね!」


 Aランクの冒険者を皆殺しにしてしまうような猛者たちが集うのが、魔王軍だ。そのような者たちと敵対するような名をつけるなど、殺してくれと言っているようなものである。


「レーナさんって、翔には厳しいよね」


「そ、そんなことありませんわ……」


 痛いところを突かれ、言葉を濁すレーナ。別に彼を嫌っているわけではないが、その甘ったれた考えに、少しばかり文句を言いたくなったのだ。




 そうして暫く話をしていたが、いい案は出てこない。

 もう、『時の絆』でいいんじゃないかと皆が思い始めたころ、唯が疑問を口にする。


「あのう、幸生様。時の絆とは、どういった意味なのでしょうか?」


「ああ、それはね。僕たちは兄弟だから、もしパーティを解散しても兄弟の絆はずっとだろ。だから、かな」 


 説明を聞いた唯は「なるほど」と頷いた。そして、自分なりの意見を話してみる。


「私も『時の絆』でいいと思います。東山家と山野家は遠縁とはいえ親戚にあたりますし、レーナさんもいつの間にか私の姉になっているみたいですから」


 そう、レーナのギルドカードには、レーナ・()()()()と記入されていた。それがいつからなのかわからないが、この世界において2人は姉妹となっているのである。

 とはいえ、問題もある。2人ともにハタチのため、このままでは双子になってしまうのだ。


「私、レーナお姉さまとお呼びした方が、よろしいのでしょうか?」


 そう尋ねているが、身長148センチの小柄な唯と、170センチのレーナでは22センチのもの差がある。

 見た目もそうだが、たとえ姉妹であったとしても、全く似てないのだ。


 ちなみに夢愛は132センチと、唯よりも更に16センチほど低いが、むしろこちらの方が姉妹と言っても通じそうだ。


 とはいえ、『お姉さま』という響きはレーナにとっても心地よいもので、照れくさそうに頬を赤く染めていた。


 


 と、そんな感じで会話をしながら歩いていると、街道から脇に逸れる道が見えてきた。


「ここから森に入るわよ。冗談はここまでにして、注意して進みましょう」


 ずいぶんと横道にそれてしまった会話であったが、目的の道を間違えるわけにはいかない。レーナは助かったとばかりに、みんなに注意を促した。


 すると、幸生たちも慣れたもので、すぐに気を引き締める。


「ここからはレーナさんを先頭に夢愛、唯、僕、最後に翔の順で進もう。翔、後ろは任せたよ!」


「おう! 任せてくれ」


 先頭が道を知るレーナ、次に遠距離攻撃が得意な3人を配置し、後ろを翔るが守る。

 ゲームで身につけたとはいえ、現実でも即対応できるところは流石である。


 そうして、幸生たちはFランクの狩場へと入って行った。


 Fランクの狩場はフィニフテの森に入ってすぐのところにある。

 基本グレイウルフやホーンラビットといった弱い魔物しか出てこないので、新人冒険者にとっては安心して臨める狩場だ。

 ここで知識や経験を積み、Eランクの狩場を経て、巣立っていくのである。


 街道から逸れた幸生たちは、森の中に作られた道をゆっくり進んでいく。

 この辺りは元開拓エリアであったため、所々に木こりや猟師たち、それに護衛の冒険者が休めるような小屋が存在していた。入口の鉤は閂になっているため、動物系の魔物は入ってこれない。

 しかし、盗賊や人型の魔物が住み着く恐れもあるため、入るときには警戒が必要だ。


「へえ~、ここが避難小屋かあ。布団はないけどベッドもあるし、泊まれるんだな」


 幸生は小屋の中を簡単に見て回ると、感心したように呟いた。彼らにはストレージがあるので、布団を持ち込むことも可能だ。


「すげえ、風呂もあるぞ! 水はないけど……。これ、魔法が使えないと意味ないな」


「そうですね。開拓時代は、ここに木こりたちが住み込みで働いていたと聞いています。ですが、今は悪用される事を恐れて、生活用の魔石は取り除かれていますね」


 そう説明するレーナであるが、「魔石を自分で取り付ければ使えますよ」という言葉も忘れない。

 まあ、敢えて山の中で生活する必要もないので、意味はないのだが。


「ここで少し休んでいこっか。 唯、準備をお願いできる?」


「はい、すぐにご用意します」


 どうやらこの小屋は頻繁に利用されているらしく、テーブルや椅子に埃は積もっていなかった。

 それでも唯は簡単に水拭きを済ますとテーブルクロスをかけ、サンドイッチやスコーンにクッキー、それに温かい紅茶と手際よく並べていく。

 彼女は無限収納のスキルを持っており、収納内は時間も止まるため保温も完璧だ。


「流石は唯さん。師匠とは大違いだぜ。あの人も少しは見習ってくれないかなあ」


「そうか? 亜衣さんも似たようなもんだぞ!」


 翔と幸生は、自分専属のメイドに手を焼いているようだ。夢愛の専属である唯の手際の良さを、羨ましそうに見ている。

 だが、彼女にとっては、そうでもないようだ。


「そんなことありませんよ。とっても素晴らしい先輩たちです」


 そう口にする唯は、2人の先輩メイドたちを尊敬しているのだ。


 翔の専属メイドをしている理恵は、彼の剣道の師匠であるとともに、トレーニング全般の管理をしている。栄養面のサポートもしているので、師匠というよりはトレーナーといった方が適切だろう。

 そして幸生の専属メイドの亜衣は、メイド兼秘書と多忙を極めている。そこにYUAIの専属デザイナーも兼ねているのだから、ある程度は仕方がないというものだ。

 

「ごめんごめん、彼女たちは良くやってくれてるよ」


 幸生が訂正すると、唯は嬉しそうに微笑んだ。大好きな先輩たちが褒められて、ご満悦といった様子だ。




 とまあ、こんな感じで準備も終わり、食事を始める。

 普段は後ろに控えている唯も、今日は一緒に食事をとっていた。それでも紅茶を注いだり、サンドイッチを追加したりとメイドとしての仕事は忘れない。


「これって、唯が作ったんだろう。家で食べたのと、味はあまり変わらないよね」


 そんな疑問を抱いた幸生に、レーナが答える。


「リナーテ様は日本にあったものを再現したいみたいで、向こうと同じ作物を再現したの。だから、醤油や味噌、塩に砂糖といったものも作られているわ」


 リナーテによる技術の提供。それを聞いて、幸生も「あ、そういうことか」と、納得した様子だ。


 しかし、どうやらそれだけではなさそうだ。どこか言いにくそうな様子で、唯が続きを補足する。


「ラルム様に夢愛様と私の部屋を丸ごと再現していただいたおかげで、普段使っている調味料も部屋にありまして……」


 山野家本宅に部屋を借りていた唯ではあるが、使用人部屋であったため、台所にキッチン、トイレに風呂と全て完備されていた。

 おまけに、夢愛と一緒にお菓子作りなどもしていたため、調理器具なども一通り揃えていたのである。


「幸生様、電気を作り出すことはできませんか? 私が厨房に入っていると、ドルチェさんの迷惑になってしまうので、部屋でオーブンが使えたらいいなと思いまして……」

 

「電気かあ……。 まあ、発電機は部屋にあるんだけどね。でも、ガソリンがないんだよなあ……、考えとくよ。だけど、発電機の電力じゃあ、オーブンは無理かもしれないよ」


 ガソリンは石油から作られるため、さすがに幸生でも不可能だ。しかし、代用できるものはないかと模索中なのである。

 幸生もできたらパソコンを起動させたいため、色々と考えていた。


 と、そこでレーナが焦ったような声をあげる。


「幸生さん、もう12時を過ぎました。急ぎませんと……」


 どうやらのんびりし過ぎたようだ。


「すまない。すぐに出よう」


 暗くなっても困るしと、慌てて小屋を出る。

 少し進むと整備された道はなくなり、完全な森となった。とはいえ、草はあまり生えておらず、歩きにくさはない。


 そうして進んでいくと、その先には見えた美しい景色に、夢愛が感嘆の声をあげる。


「わあ~、きれい」


 高い木々の間のちょっとした茂みを抜けた先に姿を見せた、直径20メートルほどの小さな青い池。

 その周りには、やや大きめの白い花が何本も咲き誇り、鮮やかなコバルトブルーの水面に差し込む木漏れ日が、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「キレイなところですね」


「そうでしょう」


 そう返事をするレーナは、とても満足そうだ。してやったりといった様子で、みんなの驚く姿を見ている。


「あれが薬草ですか?」


「はい、ルチーナ草といいます。主に傷薬の原料として使われていますね。今の時期に、ちょうど花を咲かせるんですよ」


 楽しそうに話すレーナの姿を見ながら、幸生はあることに気が付いた。


(全く知らない薬草のはずなのに……)


 そうして、深い思考の海へと沈んでいく。


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