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AIたち

 幸生は8歳の時に、ゲーム開発課の課長に任命された。

 元々、天才児と呼ばれていただけあり、その才能は素晴らしく、与えられた役割をそつなくこなしていく。

 彼の持つ能力、瞬間記憶で必要なことはすべて覚えているのだから、当然であった。


 父の武生はゲームに精通した有能な人材を引き抜き、幸生の部下につけた。

 彼らの指導により膨大な量のコンピューター知識を身に付けた幸生は、自分の描いた構想を叶えるため、高性能AIが搭載された大型コンピューターを入手し、そのAIに『リナーテ』と名前をつけ教育を施していった。


 当然ながら同世代の子供で、幸生と対等に話せる子はいない。いつも大人との討論会のような会話にうんざりしていた彼は、いつしか自分で育てたAIと話がしたいと思うようになっていた。

 そうして生み出されたのがメインコンピューター『リナーテ』なのである。


 彼の抱いていた構想というのがこれだ。


『リナーテを軸としたAIたちのネットワークを作ること』


 こうして、幸生を中心とした壮大なプロジェクトが始動したのである。




 幸生が10歳の時、処女作となるゲームが完成する。


 『オンラインネットゲーム【育成型 AI将棋】』


 今更感はあるが、違いは育成型。

 将棋ゲームと言えばパズルや頭脳系に分類されがちなのだが、これは育成型シミュレーションゲーム。会員同士での対局はもちろんなのだが、メインは将棋会館で対戦相手を待っているAIたちに、稽古をつけてあげることだった。

 AIは麗奈、遼次、美雪、臣人(オミト)、隆、美保、隼人、凛、衛、可奈という10名。ただ、彼らの実力はアマ5級ほどで、かなり弱い。

 配信当初、AIたちのあまりの弱さにクレームが殺到した。月額500円の有料ゲームだったため、詐欺だと言われたのである。しかし、運営側としては最初から育成ゲームだといっているため問題ない。一応、ボス役としてリナーテがいるが、こちらは強すぎた。

 当然、会員数は伸び悩むが、搭載されたこの機能を理解しているマニアたちの間では、大いに盛り上がりを見せていた。

 

 というのも、このゲームはAIとの対局終了後に、簡単な会話ができる。


「ありがとうございました。お強いですね」


 などとAIが話しかけてきてくれた後、YESかNOの選択肢が現れ、YESを選びメッセージを送ると、次回対局時にAIが名前を呼んでくれたり、前回の内容を踏まえて会話をしてくれたりする。

 AIの中には負けたことが悔しかったのか、「先ほどはお見事でした。もう一局よろしいですか?」などと、再戦を申し込むものまでいた。

 そして、いつしか対局後の会話は、簡単な感想戦となっていく。

 その結果、AIたちはどんどん強くなっていった。


 とはいえ、問題がないわけではない。

 このゲームはAIたちの教育が目的のため、会話の内容には注意が必要だった。

 しかし、どうしてもこういった内容では不適切な発言をする輩が現れる。

 そのため規約には注意書きが記載されていた。


『品質向上のため、記入された内容は記録させていただいております』


『卑猥な言葉や不適切な言葉を記入された場合には削除し、悪質と判断された場合には退会を命じることもあります』


 と明記され、画面上にも表示されていた。しかし、それでも不適切な発言をする方たちには速やかに退場していただいた。


 幸生がこのゲームを作った目的は、会員の方たちにAIを教育して貰うことで個性を出そうというものである。元々の姿もあるため会話により覚える言葉はある程度誘導するが、比較的自由にしていた。そして今までの会話を元に、それぞれのキャラに合った通り名がつけられる。


『秘書風女流棋士・麗奈』

『頑固おやじ棋士・遼次』

『癒し系巨乳主婦・美雪』

『貴族風老棋士・臣人』

『頼りない青年棋士・隆』

『氷の微笑・美保』

『振り飛車党・隼人』

『居飛車党・衛』

『着物お嬢さま・凛』

『アイドル系美女・可奈』


 ただ、AIたちに人気が出始めると、別の問題が発生しだした。

 この将棋ゲームは、AIたちを教育するための実験的な部分を含んでいたため、棋士は10人しかいない。詰将棋を多く配信し、ミニゲームなどでつないでいたが、あまり意味がなく、順番待ちの人数が多くなりすぎてしまったのだ。

 対局者の了解を得て観戦できるようにしたりもしたが、待ち時間はどんどん長くなっていった。


 運営側は問題を解決するため、新たなAI棋士10名を登場させた。

 1期生同様5級から始めたわけだが、2回目ということもあり慣れたもので、順調にAIたちが成長し、更に10人のAIを追加する。

 しかし、その頃になると初期のメンバーが強くなりすぎてしまったため、やむを得ず卒業という形をとった。

 プロ棋士に敵いはしないものの、アマではあまり戦えるものがいなくなってしまったことで、次第に対戦相手が減ってしまったのだ。そのため、ファンに惜しまれながらの引退となった。


 特に人気の高かった麗奈、遼次、美雪、臣人の4人が真っ先に引退となり、多くのファンから悲しみの声が上がった。

 だが、引退した遼次と美雪が次にリリースされた麻雀ゲームに登場すると、将棋ファンも巻き込みたちまち大人気に。麻雀ゲームも前作と同様育成型で、内容もほとんど同じだ。

 AIは、鈴香、優太、通、勉、それに遼次と美雪の6人だった。


 そうなると、ファンたちの中で引退した他のAIたちも違うゲームで復帰するのでは、と期待する声があがるようになる。そして、それに応えるように、臣人はカジノゲームのディーラー、美保は囲碁へと復帰していった。

 ただ、麗奈だけは社長秘書補佐という変わった職に就く。有能であった彼女を使い、新たな試みとして採用されたのだ。

 その結果、これが切っ掛けでインフォメーションセンターやエレベーターガール、受付嬢など様々な職場にAIたちが配属されるようになっていった。




 こうして盛り上がりを見せるAI将棋であったが、逆に幸生は運営から離れていく。

 というのも、新たなゲームの開発に取り掛かるためだ。


 次に開発されたのはフルダイブ型VRシステムを利用したゴルフゲーム。

 限りなく本物に近い感覚でプレイできるため、純粋にゴルフがしたいという人向けに開発された。24時間いつでもコースを回ることができ、1人でもプレイ可能。練習場でプロのレッスンを受けることもでき、月例会や新年杯、理事長杯、クラブ選手権などの競技も行われる。そのため、ゲームというよりは、ほぼゴルフ場経営となっていた。


 フルダイブVRは、あくまでも脳で認識しているだけであり、実際に体を動かすわけではない。しかし、イメージトレーニングは大事で、正しい知識と経験を得ることで現実でのゴルフも上達する。

 このゴルフゲーム……というかゴルフ場、社長や専務は運営側なのだが、支配人が遼次、フロントが美雪、営業が臣人、キャディーマスターが隆、コース管理が隼人であった。

 それぞれが自身の役割を理解し、適切な行動がとれるかチェックし、合格できれば卒業となる。もちろんこれも、交代で多くのAIたちに経験させた。


 ただ、どうしてもこの手のゲームは老舗が強い。ゴルフゲームというものを知り尽くしており、実在する海外の某有名コースなどを再現できる大手の力には到底かなわなかった。

 

 こうした経験を踏まえて新たに開発されたゲームがこれだ。


『冒険者になって、Sランクを目指そう!』


 今までAIを教育してきたのは、すべてこのゲームのためといっていい。

 少年時代の幸生の構想。それを叶えるため、スタッフ一同、努力を積み重ねてきた。その弛まぬ結果である。


 そして多くの経験を積み成長したAIたちは、このゲームのNPCとして、それぞれに合った新たな役割を与えられた。


 こうしてAIとは思えない程人らしいNPCが大量に生みだされたのだ。 


 現在開発開始から3年が経ち、ついに完成を迎える。後はテストプレイによる、動作確認と微調整を残すのみとなっていた。

 しかし、3月20日。ある重大な事件が起きる。幸生、翔、夢愛の3人が、コンピューターによるトラブルに巻き込まれたのだ。


 これにより、このゲーム開発は新たな局面を迎えることとなった。


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