空の中
俺と深見は腐った空が町を呑み込んでいくのを見ていた。学校の最寄り駅が呑み込まれて、駅前の寂れた商店街が呑み込まれて、よくクラスの男子で集まるカラオケボックスが呑み込まれて、大きなマンションが呑み込まれて、近くの民家や、コンビニエンスストアが呑み込まれて。深見は興奮していた。実に楽しそうだった。穏やかな津波みたいにゆっくり緑に染まっていくのを見て。真下にいた人達はきっとみんな死んだんだろうなぁと頭の痺れた部分で思って、それが丁度、うちの家があるあたりで、深見の家も近くにあるはずなのに。そのうち屋上には人が詰めかけてくる。俺と深見は隅に追いやられる。
日本人がえらいのはこんな情況になっても、パニックを起こさないことだ。俺達は待っていたら自衛隊かなんかが助けに来てくれることを知っている。だから大丈夫だ。と、一先ず学校のなかで待っていることを選ぶことができる。なんだかんだでそれだけ行政は信頼されている。
笑っている深見の声がうるさかった。泣いている誰かの声が同じくらいうるさかった。五月のわりに乾いている空気は屋上に集まった人の熱気で蒸されていて、やけに暑かった。深見は一人で笑い続けている。なにがそんなに可笑しいんだろう。軽く殴って黙らせたくなった。誰かが代わりにやった。俺はその深見を殴ったやつをぶん殴った。
緑の空は相変わらず町に下り続けていて、しばらくは止む気配がない。そのうち校庭にまでやってきた。ひどい臭いだった。




