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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第一章
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講義は向いてない

世界観の説明をここだけでさせる気は全くございませんので、ご安心ください。

 シュログは、俺達を机の向かい側に座らせた。くすんだ青色の萎びたリュックから、紙とペンを出して何やら地形を書き込んでいく。


「よく覚えてないねんから大体やけど。ここが二人がいたベギンス村や。ほら森に囲まれてるやろ」


 指をさしている場所は、確かにベギンス村のように見える。周りは木しかなく、山のなかみたいだ。


「だったら、この森を抜けた所がツェベン?」

「そうそう。そして今わい達がいるチェクマがここや」

「近くに川があるの?」

「そうや。ヴィレタレアンの方から流れとるんや。あぁ、ヴィレタレアンってのは国の名前で、わいが生まれたんもヴィレタレアンやで」


 シュログは地図上の上半分を大きくなぞる。スペックトフォレストの辺りまで被っているようだ。


「ヴィレタレアンってお客さんから聞いたことあるわ。じゃあ私達がいるのはこの国ね」


 その下右半分をロズがなぞる。シュログは頷きながら答えた。


「そうそう、デリティリ国って名前なんやけどな。なんでも昔の王の名前らしいで」

「今の王は違うのか?」

「……違うことは確かや、覚えて無いんやけど。せやけどネから始まった気がする。隣のセルバにお城があるんやけど、王の名前は覚えてへんなぁ」


 今まで先生面してたのに突然縮こまって言うものだから思わず声を出して笑ってしまった。そんな俺を見て、シュログのみならずロズまでもきょとんとした顔をしていた。とても申し訳無い気持ちになった。


「なんかごめんな、笑って」

「ええでええで、この前のお返しや。それに距離縮められるんやったらなんでもやるし。知ってることも、あとはネミゴーチェ国があることと、わいの生まれ故郷のベルタンのことくらいしか無いわ」

「シュログの故郷? どんな所なの?」 


 すると突然シュログは立ち上がって俺達を見下ろすような格好になった。


「わいの故郷ベルタンはな、天下一の商業地域で、川に面しているお陰でヴィレタレアン内は勿論の事、デリティリやネミゴーチェとまで盛んに取引してたんや。食料でも武器でも色んなもんが集まって、また輸出されるんや。毎日でっかい船が行き来するんやで」


 身振り手振りも大袈裟につき、熱が入っているのがよく分かる。シュログはベルタンの事を愛してるんだろうな。


「都会なのね。でも何でベルタンを離れたの?」


 途端にへなへなと座り込んでしまった。一旦後ろを向き、また戻った時にはいつもの顔に戻っていたが。


「そりゃあわいにも良いこと嫌なこと色々あったからやろな。気が乗ったら話させてくれ。ま、ともかく四歳でベルタンを離れて、それからはずっとチェクマにいるんや」


 シュログはここで言葉を切って、俺達の顔を一瞥(いちべつ)すると眉間にシワを寄せた。


「……せやけど、そんな辛気くさい顔せんでもええで? 二人の方が遥かに辛かったんと違うか」


 同情が顔に出てしまったからなのかもしれない。これから一緒に生活するんだし、互いに気づかってたら気まずいよな。

 二人で黙っていると、耐えきれなくなったらしくシュログが口を開いた。


「なぁなぁ、わいこの空気苦手やから話変えるけど、そろそろ次の街に吸血鬼(あいつら)探しに行くんやろ? どこ行くか決めなアカンと違う?」

「近いのはセルバかベルタンよね。折角だしベルタンに行ってみない?」

「そうだな、シュログが知ってる所の方が安心だし。早速明日から出発するか」

「この宿も明日までに出なきゃやし、適当やろうな。このまま天気が良いとええんやけど」

「天気が悪いと都合悪いのか?」


 俺が首をかしげると、ロズは地図を指差して言った。


「川を渡るから、でしょ。きっと船で行くのよ」

「ロズちゃんよう分かったな。この広川(サロ・リブラ)は川幅がめっちゃ広いもんやから、橋なんて架けられへんのや。せやからどうしても船に乗らなあかん。きっと二人は船乗ったことないんやろうし、川が荒れると船酔いする思うて」

「ふなよいって何?」


 シュログは俺の一言を聞くと、目を真ん丸にしてひっくり返った。ロズも首をかしげている。


「ロズちゃんは知って……その顔じゃ知らんようやな。馬車酔いは経験したことある? 馬車乗ってて気持ち悪ぅなることなんやけど」

「そもそも馬車に乗ったことが無いんだ。ここに来る途中も馬の足音でビクビクしてた位だし」

「はぁー、そりゃあ失礼しました。ツェベンには馬車は走ってないんか?」

「たまに見掛けることはあったけど、停まっている状態しか見たことなかったのよ。街中は道が広くないから禁止されてたし」

「そんな街やったんか。言うてもチェクマもこの通り治安悪いし、馬走らせるどころじゃないんやけどね。そんな金持ちも()らんし」

「だろうな」


 俺はにやにやしながらシュログをじっと見つめる。


「わいの顔見て言うなや」

「残念だけど、私もコースくんと同じこと考えてる」

「そんな、ロズちゃんまで……ロズちゃん……」


 シュログは泣き真似をしだした。忙しい人だなとは思う。けれどこの性格のお陰でチェクマの皆――大人達から好かれているんだろうな。


「コースくんぼーっとしてないで早く準備しよう」

「せや、日が落ちる頃には最終便出てしまうで」

「ごめんな、でも俺荷物に殆ど手つけてないからいつでも行ける」

「せやったらわいの手伝ってくれや。全然入らへんねん」

「そんなに詰めても重いだけだよ」

「それもそうや。わいらしくないな」


 吹っ切れたのか、シュログは荷物の塊を二つほどバッグから取り出した。逆にすかすかになる。そこにすかさずロズが自分の荷物を突っ込む。そしてウインクしながら言う。


「よろしくね」

「任せとき、任せとき」


 シュログは胸を張っちゃっている。この先もなんとかうまくやっていけそうだ。

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