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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第一章
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結局痛い

 ところが俺が殴られることは無かったらしい。音はしたが、しばらくしても痛みが来ない。そっと目を開けると、リーダー格と俺の間に、新たな人が立っていた。背は高く、くすんだ金髪を逆立てている。その人はリーダー格の拳を片手で受け止めていた。リーダー格の顔には恐怖が浮かんでいる。


「そんなに喧嘩したいならな、折角のこの街のお客より"わい"とやろうや~。ちょうど一暴れしたかったからよ~」

「お、お前ら、今日は、か、帰るぞ」

「「「へい」」」


 声を震わせたリーダー達は豹変して怯えて店を出ていった。目の前の男はそれほど恐れられている人物なのか? だとしたら俺もただじゃ済まないんじゃないのか?

 とにかく今はロズが助かっただけ良い。へなへなと座り込んでしまったロズに駆け寄る。


「大丈夫か?」

「ありがとう。でも私、コース君が言った通り平気じゃ無かったね。」


 ほっとしたのも束の間、さっきの男が俺の肩に手を掛けてきた。終わりだ、一瞬そう思った。


「君、あいつら相手によぉ頑張ったね~。偉い偉い。そうや、一緒に飲まない? わい一人だと淋しいんや」

「はい……」

「よかった。そしたら座って座って」


 一気に捲し立てられて、頷くしかなかった。俺とロズは怖々しながら元の席に着いた。俺のとなりにその男は座った。


「遅くなってごめんな。でも美味しく焼けたと思うぞ」


 マスターが肉を出してくれた。正直食欲なんて沸かなくなってしまったが。


「マーさん、ビールもう一杯ちょうだい」

「はいはい、シュログも眺めてないでさっさと助けてやれば良かったのに。お嬢ちゃん達怖かっただろ」

「助けてもらったし、もういいですよ」


 ロズが一番怖かったろうに、もう笑顔に戻っている。


「あー(わり)い、寝てて気付かんかった」

「シュログなんか当てにするんじゃ無かった。俺も気付くのは遅かったけどな。はいよ、ビール」


 マスターは親しげに話している。常連客なんだろう。ビールを受け取ると、一口飲んでから置いて、俺達の方を向いた。


「お嬢ちゃん達チェクマは初めてだろう。あ、わいを怪しまないでくれよ~。ちょうど外をキョロキョロしながら歩くところを見ただけや」

「確かに初めてでした」


 男はそうだろうとでも言うように数回頷いた。


「さっきも酷い目にあってたけど、これが日常な街だから気ぃつけな。なんならわいがボディーガードしてやってもええよ、ボディーガード」

「私達この街は寄るだけなので。ありがとうございます」


 本気で言っているのか、それとも酔っているのかよく分からないが、既に一度助けてもらったし、俺達だけでなんとか行きたいものだ。ロズもそう思ってるのだろう。


「そっか。じゃあ旅でもしてるんか? この先のカナビラにでも行く気かい」


「いえ、俺達探し物してるんです。だけど住んでた街しか知らないからこの国がどんな広さかも分からなくて……。カナビラって所に行ったことあるんですか?」


 教えて貰えるなら色々聞いておきたい。もう少しぼかしながら話を続けよう。「食べながらでええよ、冷めるし」と言われたので、肉を食べながら会話する。


「まあ一度は行ったけど、ただの田舎町やで? 自然が多いから、薬草とか探してる人がよく行くなぁ。探し物ってそういうの違うんか?」

「人を探しているというか……」

「あんまり話したく無いんか? すまんすまん」


 男は手刀を切って、口調とは違って本当にすまなそうな顔をした。こっちの方が申し訳無くなる。


「そんなに隠したい訳じゃないし、良いじゃない」

「そうだな。俺達、実は吸血鬼を探してるんです」

「へぇぇ、伝説の生物だと言われるやつか。そりゃあ苦労しそうだ。勿論なんか理由があるんやろ」


 冗談だとは受け取られなかったようだ。この人は見た目によらず、信頼できそうだな。この先を話すかどうか、ロズにアイコンタクトを取ってみた。軽く頷いたので、ロズと俺でこの人に対し同じ評価をしてるようだ。


「私、ちょっとお手洗い行ってきます」

「左の奥にあるぞ」

「マスターさんありがとうございます」


 ロズが気を効かせて席を立ってくれた。記憶は無いが聞きたくはないらしい。


「ちょっと長くなりますが聞いてもらえますか?」

「ええよええよ、わいも退屈してたし。楽しい話じゃなさそうやけど」


 一口水を飲んでから俺は話始める。残ってはいるが流石に肉はもう食べない。


「話は七年前に遡るんです。俺達二人はベギンス村に住んでいました」

「あのバーニング・ダウンの? じゃあ二人は噂の生存者ってことなんか」

「はい。やっぱり噂になってるんですか」

「当たり前やろ、好奇心の強え人達が押し寄せたけど、誰も会えんかったと聞いたわ。でもそのうちに調査結果が発表されたから騒ぎも収まったらしいなぁ」


「知らなかったです。……ええっと、その調査なんですが、火事で焼死したということでしたよね」

「そうや、だからバーニングと付いとるんやろ。もしかすると火事じゃないって言うんか?」


 話している内に体温が上がってくる。どうしてもあの日の惨状を思い出さずにはいられない。


「そうなんです。俺はその時見たんですよ。多分ロズ――さっきまで俺の隣にいた子も。あれは不審火なんかじゃない。すべて化け物がやったことだ。生き血を啜るおぞましい吸血鬼が。俺の家族も村の人達もみんなあいつらに殺られたんだ。その上燃やしやがった」

「そんな出来事があったんか、辛かったなぁ。けどちょっと落ち着……」

「落ち着けるか。俺は、俺は吸血鬼を皆殺しにするまで安心なんて出来ないさ」

「兄ちゃん悪かったなぁ、思い出させて。でもな、感情に流されてるうちはまだ半人前や言うのがわいの持論や。だから熱冷まして、な」

「お前の持論なんか知るか。どうせお前も子供の妄想だって思ってるんだろ」

「あ~、もう鬱陶しいな」


 男は金髪をかきむしり、おもむろに俺の方へ手を伸ばした。首筋に衝撃が走ったと感じたのと同時に、目の前が暗くなった。

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