クエスト受注
あれから数日、俺の身体も痛まなくなり、リハビリにメフェスさんの家の前を走り回っても転けなくなったので、早速三人にギルドに行こうと声をかけた。はじめ、シュログは乗り気ではなかった。しかしメフェスさんに何か吹き込まれたたようで、ナイフを研いでいた俺に「ささ、はよ行こうや」と急かしてくるまでになっていた。メフェスさんが何を言ったのか気になったが訊かない方が身のためと思ったので、全員揃ったところでメフェスさんのギルドでの活躍を聞きながら向かった。
ギルドに入るなり、この前の受付のお兄さんが気付いてくれた。
「ようこそ、ちょうど一昨日入ったよさげな吸血鬼の目撃情報があるよ。初心者用の非戦闘依頼もいくつかあるけれど……その装備を見る限り君たちは受けそうにないから勧めないでおくよ」
俺は見えるように腰にナイフを提げているし、シュログもメリケンサックを早くも装着していたからだろう。渡してくれた詳細の書いてある紙を、シュログとロズにも分かるように読み上げる。
「吸血鬼の目撃情報。ナトエにて複数人から目撃情報が入った。数は一体。被害者は確認していない。爪の鋭い大男という以外の詳細な情報は無いので強さも未知数」
なんともぱっとしない情報だ。吸血鬼は好戦的なモノで、人間を見れば殺しにくると思っていたが、誰も襲われていないなんて。
「ナトエ、って近くの町なのかしら」
ロズがメフェスさんに尋ねると、メフェスさんは大きく頭を振った。
「ここよりもっと海側の町よ。歩いて行くとすると五日はかかると思った方がいいわよ。そうよね?」
「十分休みつつ行けば、メフェスさんの見積り通りだと思う。でも、メフェスさんには愛馬がいるじゃないですか。駆ければ二日も……そっか、この子達がいますしね」
受付のお兄さんも、さすがに場所が遠すぎたかと依頼書をしまおうとした。
「そしたら、わいらが馬に乗れればええんとちゃうか?」
「シュログ、乗ったことあるの?」
「いや、無いねんけど。でも、やってみる価値はあるんやないかい? 乗れれば今後の移動も楽ぅなる思うで」
「そうだな、犠牲が出てないならギルド的には急ぎでも無さそうだし、乗馬の練習をしつつ奴らを殺せば一石二鳥だ」
「でも、私たちに馬を借りるお金なんて残ってないわ。馬車にすら乗れないのに」
再び落胆していると、メフェスさんがウインクを投げ、自慢げに「ちょっと待った」と言ってきた。
「あなたたち、お姉さんのこと忘れてないでしょうね。馬三頭と鞍を三セット用意すれば問題解決でしょ。お安いご用よ、任せなさい」
いくらお金はあるといったって、馬を三頭もなんて。
「ええんか?」
「お姉さんが面倒見てあげるって言ったでしょ。お姉さんも徒歩は足が痛くなっちゃうから、遠慮したかったのよ。そうと決まれば買いに行きましょう」
こうして、ギルドを後にした俺たちはそのまま、馬を選びに行くことになった。
「この街に馬を売る店は一軒しかないのよ。お姉さんの御用達だからサービスしてくれるはず」
そう聞きながら街の外れまで向かう。あるところまで進むと、周りがひらけていた。そして、この臭い……。
「もしや、ここ一帯全部がメフェスの御用達の人のなんか?」
「そうよ、Bランク以上の人だと騎乗を好む人が多いのよ。こんなに繁盛するほど需要があるってこと。あなたたちにピッタリの馬が絶対見付かるわよ」
土地の広さとは対照的に、馬一頭も入れないような薄汚れた小屋の入り口にたどり着くまでには、何十頭もの馬が野原を駆け巡るのを目撃した。確かにお金に糸目を付けなければ選び放題だろうな。
「親父ぃ、メフェスが来たよ」
店番を任されていたらしい少年が、俺たちを一瞥するなり店の外に向かって声を張った。恐らく息子だろう。親父、か。そう父を呼んでみたかったものだ、などと感慨に耽っていても、一向に来ない。
しびれを切らした頃、麦わらで出来た帽子を被った、泥まみれのおじさんがやって来た。
「いやぁ、すまんすまん。ちょうど一頭、産気付いててな、今さっき産まれたわい」
「おやっさん良かったじゃない」
「今年で三頭目だ、繁殖期も終わり頃じゃから末っ子よな。そいで、どうしたんじゃ?」
おじさんは、少し飛び出た目玉で、俺たちのことをぎょろぎょろと見回した。
「この子達と組んで依頼を受けることにしたの。落ち着いた性格の子を三頭、どうにか用意できるかしら?」
「メフェスの頼みなら、と言いたいところじゃが、初見さんに家族を三人も託すのはなぁ」
「俺たち、三人とも家族が居ないんです。おじ──」
「ホウさんよ」
そこまで歳でも無いだろうけれど、ついおじさんと言いかけたところ、メフェスさんが耳打ちしてくれた。
「ホウさんが家族同然に育てた馬でしたら、俺たちも家族として大事にお世話します」
お願いします、と三人揃って頭を下げた。けれども、良しとは言ってくれなさそうである。
「親父のことを悪く思わないでくれよ? おっ母が消えてから馬一筋でさ」
「お母様が……あなたも辛いでしょうに」
親がいないのは俺たちではなかった、としんみりしていると、メフェスさんが耐えきれず吹き出した。
「人が死んでんのに笑うんか」
咄嗟にシュログがそう返すが、メフェスはおろか、少年でさえきょとんとしている。
「ごめんごめん。ホスの奥さんはね、ホスがあんまり馬ばかり大事にするから出ていっちゃっただけよ」
「僕は何日かに一度会ってるんだ。街の反対側に居るからさ」
「あんたたちの気持ちはよう分かった。あとは家の子が気に入るかどうかだ。付いてきぃ」
分が悪いからか、一切口を挟んでなかったホスさんが、俺たちを牧場の方へ案内してくれた。
広い牧場を気持ち良さそうに、何頭も駆けていたが、ホスさんが指笛を吹けば、すぐに何十頭と集まった。
「お馬さん、ホスさんがのことが好きなんだろうね」
「だろうな」
俺とロズが話していると、「そこの女の子」とロズが呼ばれた。
「あんたは小さいし、この子が良かろう。どの馬とも仲良くやってたから、四頭いても喧嘩せんやろうし」
少年が、ロズに鞍の乗せ方など教える担当なようで、今度は俺が呼ばれた。
「あんたにはこの白毛の子や。毛色のせいで仲間外れにされがちじゃが、お前さんなら優しくしてくれるじゃろう。おいメフェス、乗り方教えちゃれ」
ホスさんの一言で、すぐにメフェスさんが一式を持って駆けてきてくれた。長年の付き合いなのか、用意して待っていたようだ。教わりながら口枷をはめてもらい、鞍も乗せたところで、さて鐙に足をかけようといったところで悲鳴が聞こえた。シュログのだ、珍しい。
「シュログの馬は小さい頃からやんちゃだったから覚えてるわ。お姉さんも何回も追いかけられたっけ。体調良くて大人しい馬はもういなかったのかな」
メフェスさんはまたも笑っているけれど、落馬したシュログは早くも諦め顔だ。ホスさんが手を引いてくれていたから怪我はなさそうだったが、シュログの馬は逃走してしまっている。いつ出発できるやら。




