報復
ヴィレタレアンの街を襲った頃くらいからかな、どうも人間のアポ無し"訪問"がたまにあって困る。今日は特別に歓迎してあげようといつも寝ていた箱に細工を施しておいたが、夜の間には誰も来なかった。家具の陰の寝床に入って夢うつつになっていたのだが、勢いよくドアを開ける音で目が覚めた。怒ってるときのヴランザでさえそんな乱暴なことはしないのに。そんなでも、折角の待ってた人間共だ、何をするか静観してやろう。
案の定真っ先に、玉座の前に置いた元寝床の箱に近付いていく。どうやら来たのはまた一人だけのようだ。それにしても怪しいとは思わないのかな? 人間は剣を構えてから片手で蓋を開けるや否や振り下ろした。所謂不意討ちだな。だがその切っ先の感触は想定と異なっていただろう。昨日の食事の残り、小鹿の死体を入れていたのだから。そして、箱を開けた途端に短剣が飛び出すように細工したんだ。無論、前の訪問者から拝借した短剣だ。僕たちじゃこんな高度な武器、作れないからね。
痛みに呻く声を聞き、即死には至らなかったことを知ると、起き上がって様子を見に行く。胸に見事に剣が刺さっていたが、人間はそのままの姿勢でなんとか剣を抜こうともがいていた。
「ようこそ、僕の住まいへ。呼んでないし、寝起きだから不機嫌だけどね」
背後から声をかける。一度ピクリとしたかと思うと、もぞもぞしていた動きが止まった。肩に手を掛け、横から顔を覗きこむと、目を見開いて固まっていた。どうやら今ので絶命しちゃったみたいだ。ちぇっ。
僕らが居るから倒しに来たんだろうに、いざ本人が現れたら逃げ腰って、そりゃあないよ。モノじゃないんだからさ動くよ、そんなんネズミでも分かるって。
さて、腹の虫が治まるまでもう一眠りするか。コイツは起きたら片付けよう。コールも飲みたいかもしれないし。
起きたら、コールが床の拭き掃除をしているところだった。人間は消えている。
「片付けてくれてありがとう、コール。美味しかったかい?」
「デュラ様が飲むつもりでしたか? 申し訳御座いません。それにしても何故私が飲んでから処理したと分かったのでしょうか?」
僕はコールの胸元を指差して返す。
「僕は飲もうと思ってなかったからいいんだ。分かった理由はさ、そこ、白いシャツに赤いシミが付いてるから。あと口元も」
「私としたことが……失礼いたしました」
コールははっとして、慌てて布で口元を拭う。床は前にもまして綺麗になっていた。僕とコールしかいないんだから、多少汚れていようが何だって良いのに。
「そうでした、デュラ様。本日はヴランザ様がいらっしゃるようです。お伺いしたい事があるとか。その返答次第では親衛隊を引き連れて来るとも」
「脅しじゃないか」
「そうとも取れますね。何にせよ、来客があるのです。着替えてきては如何です? デュラ様もお召し物に血が付着しております故」
「ヴランザが来るなら仕方がない。予め伝えてからなんて珍しいから、争いの種になりそうなものは除いておかなきゃね」
親衛隊をぞろぞろと呼ばれては、折角の二人の時間も蔑ろにされてしまう訳だからさ。
狼の一吠えの後、ヴランザが入ってきた。僕を認めるなり、険しい表情で駆け寄ってきた。
「お前は吸血鬼の王なんだよな?」
「うん、成り行きだけどね」
「では、吸血鬼を守る役目があるわけだよな。ところがどうだ? 未だに人間は襲うなと呑気なことを言っている」
「ちょっと待ってヴランザ、何か事件でもあったの?」
この前ヴランザに会ったのは……人間の街を襲ったときか。その時は特に変わった出来事も無かった気がしたけど。
ヴランザは僕の返事が信じられないといった様子で、僕の胸ぐらを掴み、唾を飛ばしながら怒鳴った。
「本当に知らないようだな?! 俺を慕うやつらが何人も人間に殺されたんだ。突然大人数で襲いかかって来たらしくてな、五人も殺られたんだ。これでも人間様に命令されるまでは手出しするなって言い続けるのかって訊きに来たんだ」
「それは……知らなくて悪かった。死んだ同胞がいるなら問答無用でやり返そう。そろそろ待ちぼうけも飽きてきたし」
もちろん即答したさ。ただ血の気の多かったせいかも知れないけど、僕にしては珍しく戦いたい気分だった。倒れたまま放置されていたコウモリ君たち契約獣の件もあったし。
「他の吸血鬼達にも呼び掛けてくれるよな?」
「来るかは知らないけど、伝えはする。愉しい戦争の始まりだからね、仲間には知らせるさ」
愉しい、とは死んでしまった仲間に失礼かもしれないが、口に出してしまったし仕方無い。もともと最後まで人間の王に従う気なんてこれっぽっちも無かったんだ、お返しとばかりに食べさせていただこう。
これにて二章は終わりとなります。次まで暫しお時間をいただく予定です。




