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僕らは護られていた  作者: 齊藤さや
第二章
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首都

 今度の街はタスカとか言ったっけ、首都と言うやつらしい。王様が住んでいて、国中で一番栄えてるそうだ。ただし、王様はそれとなく逃がしてやれとかいう面倒くさい使令付きだ。人口も多いらしいから、我慢して従うつもりだ。

 先に、王様の住むお城に向けてコウモリ君数匹を先頭に、ハウィリネンの猫や犬といった小型の契約獣(サーヴァント)の先発組を送っておいた。コウモリ君達が上手く誘導してくれているといいな。


「やはり夕方前に一雨来そうですが、宜しいのですか?」

「風邪引いたって構わないさ。街を目前にして引き下がれなんて言えないし」

「違います、火が起こせないかもしれないんです。それに、逃がす人間もいることですし、私達(わたくしたち)の仕業だと感付かれるかも分かりません」

「やっぱりコールは禁忌を気にしてるの? 所詮人間だろ? 何人集まっても僕はもう怖く無いね」


 やれやれといった様子で肩を落とすコール。昔はきっと……きっと吸血鬼も弱かったのさ。








 踏み込む直前には、街中が大騒ぎになっているのが十分分かった。外までうるさいし、人はバラバラな方向に押し合って逃げてるのが見えるし。契約獣(サーヴァント)達は無事役目を果たしてくれたらしいね。


「僕達も行くよ」


 そう合図を出そうと思ったら、既に何人かが待ちきれず動き出していた。三度目だもんね、もう好き勝手やらせよう。僕は街を出てしまった人間から頂こうかな。流石に多いから全員は難しいだろうけど。






 ひたすらに吸いまくって、逃げ出す人間も居なくなった頃、コールが僕を呼ぶのが聞こえた。


「デュラ様ここにおりましたか。もう人間は残っていないと思われます。早く焼いて、帰りましょう」

「僕に怯えて逃げなくなったんじゃなくて、人間がいなかったのか。なら、焼こう」


 街は広くて、声を出しても散った吸血鬼達には聞こえないと思ったから、近くの建物から手当たり次第にガンガン火を放つ。ここも石造りが基本らしく勢いよくは燃えない。そのせいか、中に意識がある人間がいたようで、呻き声が聞こえてきた。

 爆ぜる音と時折の苦しむ声は、食後の力の有り余った吸血鬼達にとって、合図としては十分すぎる物だった。雨が降り始める前に、一応は全ての建物に火をつけられたのだから。周りの草木も焼こうかと考えたが、僕らの逃げ道も無くなっちゃうからね。


 皆を先に帰してから、僕は街に残った。雨が濡らしたせいで、あちこちから不完全燃焼の煙があがり、それもやがて消えて無くなった。誰もいない街、静かなもんだ。それにしても、人間もなかなか酷いことをするもんだね。

 城にも火を放とうとした時に見付けてしまったんだ。コウモリ君や犬達が城の前で倒れているのを。矢が刺さっていたり、重いもので叩かれたのか身体が一部潰れていたり。自分より小さい生き物でも自らの()で闘わず、道具を使って一方的に殺るんだな。そして、放置する。けしかけたのは僕なんだけど、さ。


「ごめんね、コウモリ君。それに、他の契約獣(サーヴァント)達も。せめて僕が一緒に行くべきだったな」


 僕の心情を察したのか、コウモリが一羽僕の肩にとまった。こんなことをしてくれるのは一羽しかいない、あの女の子だな。


「慰めに来てくれたのか。君の方が辛いだろうに。え、何、朗報があるから元気出しなって?」


 キッと自信満々に言われた。「早く教えてくれよ」と訊ねたら、逃がした人間の男の子がすぐそばにいると話してくれた。それは偶然だね、と返すと大声で否定された。「この前火事にした街がここの先だから」らしい。じゃあ僕の痕跡を追って来てくれてるんだね、面白い。「ありがとうね、元気になったよ」と声をかけながらしばらく撫でてあげる。うっとりとした表情が可愛いらしい。

 もう少し待ってみたら会えるんじゃないか。そう思ったから、離れないコウモリちゃんとひたすら時間を潰した。


 日も沈みかけた頃、三人の足音がし、話し声も聞こえてきた。最後に一言だけ伝えてそっとコウモリちゃんを逃がし、耳をそばだてる。突然、一人が苛立ち、叫びだした。


「……いったい誰なんだ。こんなに人を騒がせているのは」


 僕が呼ばれている。姿を現すなら今だと思った。立ち上がり、声のした方を見下ろす。成長しきった個体よりは小さい人間が三人。青年達は驚きに満ちた目で僕を見詰めていた。そして、少女は僕を認めた瞬間、無表情が一転、敵意剥き出しになった。これにはちょっと怯んだ。

 気を取り直し、仁王立ちで嘲笑ってやろう。


「折角現れてやったのに、(だんま)りとは酷いねぇ」


 そう言ってやると、ようやく口を開いた。追い込まれてもきっかけさえ与えれば動ける辺り、僕が逃がした子の面影があるね。


「お前はあの時の吸血鬼……」

「そうそう、よく覚えていてくれたね。しかしあの時、折角見逃してやったと言うのにわざわざ探し(殺され)に来るなんて、命が勿体無いじゃないか」


 挑発してみたら乗ってきた。武器を隠し持っていたようで、襲ってきたけど動きが遅い。掠りもしなかった。


「少しは戦闘になるかと思ってたけど、その程度じゃ面白くないね……おっと」


 喋っている途中で、少女が何かを発射した。間一髪で横に飛んで逃げたがこれが、人間が動物を狩る時に使うとかいう銃か。避けられないのも納得だ。ただ、両手で撃つものだと思っていたんだけど、小さいな。


 最後の一発は見事に狙いがそれ、銃弾が目の前に転がってきた。こんな固そうな物に当たったら流石に無事ではなさそうだ。もっと観察しようと拾い上げたら、指に焼けつくような激痛がはしった。この痛みは確か、本で読んだ"銀"とか言う呪われた成分のせいだな。


「そこの女の子は珍しい銃を持っているね。誰の入れ知恵だか分からないけど面白いことを考えるな」


 少女は銃弾を補給すると、また乱射してきた。撃ってる間に攻撃を仕掛けるのは不利だと判断したから、また弾が切れるまで避ける。と言っても、正確に僕の方まで飛んでくることがほぼ無かったけど。

 銃が止むと、青年のひとりが殴りかかってきた。連携してきたか。しかし、所詮は人間の力。指一本で容易く封じ込めた。唖然としている青年を地面に倒し、僕は本命さんの背後にまわった。


「お仲間さんの心配ばかりしてて平気なのかな」


 振り向いた所を胸を掴んで持ち上げてやった。けれど腰からナイフを抜いて暴れられたものだから思わず手を離してしまった。こんな状況でも抵抗してくれるんだね。やっぱり見込んだだけある、面白い人間だ。

 にやりと自然と笑みがこぼれたが、直後脇腹に激痛がはしった。銃撃が再開されたのだ。油断していた自分にイラつきながら、青年を突き飛ばそうとした。


「読まれたか」


 僕の攻撃の手を止められた。首にナイフを当てられたんだ。しかも、青年は目をつぶっている。相当な手練れなのだろう、下手に動けば返り討ちされかねないとみた。一旦退こう。

 あいた左手で指を鳴らすと、さっきお願いした通りコウモリ君達が駆けつけて来てくれた。しかも五十匹近く。怯んだ隙に武器を落とさせ遠くに蹴飛ばせば、僕にも余裕ができた。少女の方はコウモリ君達に襲われて気絶していたしね。両腕をじわじわときつくしながら締め付けてみる。あんなに柔らかい肌だ、さぞや痛むだろう。どんなにもがこうと、もう離さないぞ。僕もそろそろ疲れてきたんでね、次に何かされたら対応できるかわからない。


「気分では無かったけど、これだけ元気な人間だ。このまま君たちの血を吸い尽くしてやろう」


 さっきたらふく血を飲んだばかりだったから、会うのは殺すためじゃ無いはずだったけどね。しばらく押さえ付けていると、動きが止まりぐったりしてきた。

 美味しそうに脈打つ首筋に舌なめずり。太い血管を見付け、そこへ狙いを定めて噛みにいった。

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