【短編夢小説】桜花幻夢夜話
真尋視点の短編夢小説。
今回の話は夜桜見物です。
女夢主の名前はデフォルト名なので、好きな名前に脳内で置き換え下さい。
新年度で暫く慌ただしさが続いていて、だからこそ息抜きに夜桜見物に行った。
今から思えば、それが失敗だったのかもしれない。
友人と桜を肴に宴会なのも悪くないが…折角だから、恋人と二人限りで夜桜見物というのも悪くないと思って行く事にしたのだ。
そして、なんとか僕と楓の日程と開花している時期が合った。
予定していた日の当日は、楓を迎えに行ってふたりで談笑しながらゆっくり歩いて行った。
その時には、あまり人に知られていないような場所を見つけておいて良かった…などと思っていたというのも暢気な話だ。
そもそも桜は、人を惑わす事がある。
時には、人の死体が埋まっている事もある。
だから…何かが起きても、可怪しくはない。
その当時の僕は、それを失念していた。
油断していた、とも言える。
だからこそ、幻惑されたのだろう。
目的の場所に着いた後、二人で夜桜を眺めた時。
桜の木の傍まで行って眺めている楓と、その桜を見た時に…それを視た。
篝火と、篝火に照らされた桜…横山大観の『夜桜』の世界に迷い込んだのではないかという様な情景と、その世界に映る最愛の人の姿。
不覚にも、雰囲気に呑まれたと言える。
楓が、桜か夜の闇に同化して消えてしまうんじゃあないか…と錯覚してしまった。
夜の闇も、桜の妖しい雰囲気も、怖くなど無いと思っていた。
でも、楓がそれらに解けて消えるのは、恐ろしいと思った。
だから…堪らなくなった僕は思わず、
「……楓……っ!」
と、最愛の人の名を呼んで…抱きしめた。
「ど、如何したの、真尋?!」
とても驚いた声音で楓が言った。
頭では、そのまま消えたりしないと判っていても、不安が拭えなくてちゃんと此処に楓が居るのだと確認したくて抱きしめたのだ。
「楓……頼むから、僕の前から消えたりしないでくれ……」
楓…君の存在が消滅しまったら、僕は―――駄目になるかもしれない。
それは余程…楓が死んでしまう事よりも恐ろしく―――それが僕にとっての、最悪の事態だった。
「そんな事しないよ、私は此処に居るでしょ?声が震えているけど、本当に…急に如何したの?」
僕が不安がって居る事に困惑しながらも、宥める様に優しい声音で語りかける楓。
ちゃんと此処に楓が居るのだという実感と共に、折角の夜桜見物なのに楓を困惑させてしまった事に申し訳のなさも感じた。
「御免、楓…急に取り乱したりなんてして。でも…君が居てくれて、良かった」
改めて楓が僕にとってどれ程存在が大きくなっていたのかを、思い知った。
大切な存在を得た事の心強さと、反面、失う事の恐ろしさを僕は知った。
自分自身がどうとかこうとか何か起こるよりも、余程恐ろしい事。
ちゃんと居てくれる事が解って、やっと僕は落ち着く事が出来た。
その後は楓の気の済むまで、夜桜見物をしてから帰った。
そして、僕は思った。
もう二人だけで夜桜見物に行くまい、と……。
この当時は真尋相手のネタのムーブメントでした……。




