東堂 光 終
「えっ……」
光ちゃんの発言に、俺は思わず固まってしまった。
「実は私、昔から凄く告白されてたんです…でもバスケの事以外興味が無くて、全てお断りしてたんです。でも、高校生になってさらに告白されるようになって……」
当然だ。こんなスタイルのいい美少女、どんな男だって放っておかないだろう。
「それで、恋愛について考えてみたんです。私が付き合いたい人は誰だろう、一緒に居たい人は誰だろう……って。そしたら、関路さんの事しか浮かばなくて……」
純粋な好意は、男として素直に嬉しい。嬉しい、けど…
「でも関路さんは、私の事を妹みたいに扱ってくるから。フラれたらどうしようって考えが消えなくて、自信がなかったんです。だから、自分が納得できる結果を出したタイミングで告白するって、決めてました」
彼女は真っ直ぐに俺の目を見つめた。
「それが今日、この日でした。……なので関路さん、私をお嫁さんにして下さい!!」
――正直、光ちゃんからの好意にはかなり前から気づいていた。けど、女の子特有の年上への憧れだろうと高を括って、見て見ぬふりをしていたのだ。
告白は嬉しい。だが、問題はそこじゃない。普通、告白って「付き合って下さい」とか、百歩譲って「結婚を前提に」だろう。なのに、いきなり「お嫁さん」は重すぎる。
それに……。
(目がヤバいんだよなぁ……)
光ちゃんの、あの黒目がちな瞳。底なし沼のように真っ暗で、光が宿っていない。
過去に二度――18とハタチの頃に、あんな「目」をした女と関係を持ったせいで、とんでもない修羅場を経験している。本能が「逃げろ」と警鐘を鳴らしていた。クソッ、どうやって躱せば……。
「関路さん……?」
「あっ……ごめんごめん! いきなりだったから驚いちゃってさ」
「お返事はもちろん、『はい』ですよね?」
有無を言わさぬ圧。ヤバいヤバい! どうしたらいいんだ。あっ、そうだ、俺の最低な素性を明かせば幻滅してくれるはずだ。
「光ちゃんからの告白……とっても嬉しいよ」
俺の言葉に、光ちゃんの表情がパッと明るくなる。
「本当ですか! じゃあ!!」
「でも、ごめん。俺さ……色んな女の子と関係を持ってて……」
「知ってますよ」
食い気味に返された言葉に、俺は息を呑んだ。
「知ってます。ぜーんぶ知ってますよ」
「えっ……じゃあ、なんで……」
「関路さんが色んな女性と関係を持っているのは、だいぶ前から知ってました。……でも、どうしても諦めきれなくて。なので今は、妥協しようと思います」
「……妥協……?」
「本当は今すぐお嫁さんになって、関路さんを独り占めしたいんです。でも、他に関係を持っている女性達は、関路さんに何かあったら『なんでもする』ような強い方々に感じて……。今の私じゃ勝てない。だから、お願いです」
光ちゃんは俺の手をぎゅっと握りしめた。
「私を、他の女性達と『同じ関係』にして下さい!」
「光ちゃん! それの意味、解って……」
「解ってます!」
俺の制止を遮り、彼女は熱っぽく語り続ける。
「お金は高校を卒業したら働くので、待って下さい! えっちは経験ないですが、関路さんを満足させられるよう一生懸命頑張ります! 他にもしてほしい事があったらなんでもします! だからお願いです、妹じゃなくて、女として見てください!」
光ちゃん……本気なんだ。
本当なら、ここは大人として、きっぱり断るべきだ。彼女の未来のために。
でも…至近距離で見つめてくる光ちゃんの「あの目」が、俺の理性を恐怖と興奮で麻痺させていく。……うぅ、断れるわけがない。
「わっ……解ったよ……。本当に、後悔しないんだね?」
俺が白旗を上げると、光ちゃんは花が咲いたように笑った。
「はい!! もちろんです! いずれ絶対、関路さんの一番になってみせますから!」
そう言うと、光ちゃんは背伸びをして、俺の唇を奪った。不器用だけど、熱いキスだった。
「えへへ。キスってこんな感じなんですねっ……大好きな人とのキスって、とっーても幸せです。……今日は関路さんのお家に泊まりますから、お家ではもっと『凄いこと』、しましょうねっ?」
ーーー
光ちゃんの告白から一週間が経った。
あれから俺たちは大人の関係になり、狂ったように毎日身体を重ねた。最初の頃こそ恥じらっていた彼女だったが、スポーツ特待生クラスの体力と持ち前の負けず嫌いが変な方向に作用したのか、今では恐ろしいほど積極的になっていた。
「関路さん! シたいです!」
「えっ! 今日の朝シたじゃん!」
「もうあれから10時間も経ってるんです! 我慢できません!」
ベッドの上で迫ってくる光ちゃんを、俺は必死に押し留める。
「うっ……でもほら、ゴムがもうないし、個人輸入代行サイトで買ってたピルも切らしちゃったし!」
「大丈夫ですよ! 外に出せば!」
「ダメだよ! 生でして外に出しても妊娠の可能性は……」
「うるさいです」
ピタリ、と光ちゃんの動きが止まった。
同時に、彼女の目からハイライトがスッと消えた。出た、あのヤバい目だ。
「嫌……なんですか? 私はこんなに関路さんの事が好きなのに……。妊娠しちゃうとか、私のためとか言って、本当は私の事捨てて逃げようとしてませんか? そんなの絶対許さない……絶対逃さない……許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない許さない逃さない」
呪詛のように繰り返される言葉…
これはマジでヤバい! 早くご機嫌をとって収めなきゃ殺される!
「ごっ……ごめん! 光ちゃん! 生でシよ? 子供作ろ?」
その言葉を聞いた瞬間、光ちゃんは凄い勢いでこちらを振り向き、無言でベッドに押し倒してきた。
「ハァハァ……! フーー! フー! ……んんっ!」
荒い鼻息と共に、獣のように貪り食うようなキスが降ってくる。完全に発情しきっている。
「光ちゃん! ちょっと待っ……ぁっ」
そこからの記憶は、快感と疲労で曖昧だ……。
ーーー
「あっ……ああ……」
「関路さん? もーへばっちゃったんですかー?」
天井を仰ぎながら荒い息を吐く俺を、光ちゃんが上から覗き込む。
この俺が、つい一週間前まで処女だった小娘にされるがままで、完全に搾り取られているだなんて……悔しい。この娘の性欲、バケモノかよ……。
カシャッ。
不意に、スマホのシャッター音が響いた。
「光ちゃん? 何撮ったの?」
「ハメ撮りです! この写真をイン〇タに上げたら、私に彼氏がいるって事で、しつこい他の男達が寄って来なくなると思うので!」
そこには、姿見越しに撮られた対面座位の男女が写っていた。俺の情けない後ろ姿と、俺に跨りながら笑顔でピースをしている彼女の姿。光ちゃんの身体は手と足しか写っていないとはいえ、誰がどう見ても行為中の生々しい写真だ。
「光ちゃん! ダメだよ! そんな事したら絶対後悔するし、学校にバレたらヤバいし、何より俺のケツの割れ目が見えてるし!」
「えー、後悔しないですよー。あ、じゃあ写真はストーリーの方に上げますね。お尻の割れ目はスタンプで隠しておきますよっ!」
彼女はケラケラと笑いながら、手慣れた様子で画面を操作している。俺のケツに、可愛らしい桃のスタンプが押された。
「ん〜……それなら……いっか。でも、もうこういうのはやめてよねー」
「はーーい!」
俺の適当な注意に、光ちゃんは幸せそうに元気よく返事をした。
「関路さん!」
「ん?」
「絶対……絶対、お嫁さんにして貰いますからねっ」
また一人。
俺というクズ男の沼にハマり、そして俺をズブズブに沈めようとする女が増えてしまった。




