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39 説得します

(ああ、そういうことなのね)


 パトリアは、レジェスの婚約者には選ばれなかった。

 レジェスはリシーラとの結婚を望んでいたから。

 でもその結果、パトリアは他の結婚をすることになった。


(娘を虐待する親だもの。大事な娘を嫁がせる……なんてことは考えなかったのね)


 おそらくは、レジェスの子供に嫁がせられる家への輿入れをまず考えたのだろう。その相手が、パトリアにとって最悪な人々ばかりだった。

 そしてパトリアは絶望した。

 パトリアの側にいた妖精はその影響を受けて黒化し、パトリアの結婚相手に選ばれた男性を次々殺していったのだろう。


 パトリアが望むように。


 でも果てがなかったのだ。両親がいる限り、パトリアをどこかへ嫁がせて片付けようとする。

 そして全ては、自分をレジェスが……ひいては公爵家が選ばなかったせいだと考えたのだ。


(それなら、説得のしようがある)


 リシーラは大広間の中に駆け込んだ。


「待ってパトリア様!」


 声をかけた瞬間、驚いたようにパトリアがリシーラを振り返った。

 レジェスとケインに向けられていた攻撃も止まる。


「リシーラ嬢、早く逃げ……!」


「黙っててください!」


 止めようとしたレジェスを一喝すると、リシーラはパトリアに少し近づく。

 念のため、レジェスよりは遠い。

 それを見て、レジェスはそれ以上リシーラに注意しなかった。リシーラが自分の身を守る気持ちがあるとわかったからだろう。


 リシーラは息を吸って、急いでパトリアに伝える。


「もう大丈夫よ。あなたに無理に結婚させようとした人は、もうあなたの目の前で死んでしまったわ。もう、無理やり結婚させられることはないのよ、パトリア様」


「…………まだ」


 止まっていた巨木になった黒い木達が、長く伸びた枝を持ち上げる。


「まだよ。だって、公爵家がまだあるわ」


 うぞうぞと動く無数の枝にひるみながらも、リシーラは怖がる様子を見せないようにぐっと奥歯をかみしめた。


「私を助けてくれなかった。きっと私のことをどこかとんでもない相手に嫁がせて、ひどい目に合わせようとするわ」


「本家だからってそんなことできないわ。私がさせない」


「できないわ」


 パトリアがその目に、初めて涙をたたえた。


「なんのしがらみもないのに、私のお願いを聞いてくれたのはあなただけだった。だけど、あなたにそんな力は……」


「私があなたの継母になる」


「えっ!?」


 レジェスがぽかーんと口を開けた。


「それは一体どういう……」


 レジェスの戸惑いを無視し、リシーラはパトリアに語った。


「レジェス様が私と結婚したいそうです。それを受けて公爵夫人になれば、パトリア様、あなたを引き取る権利を手に入れられます」


 親族で、本家の嫁になるのなら、それを押し通せるだろう。

 パトリアの願いを聞いた妖精は、これ以上誰かを殺したりもしなくなる。もちろん、こうして館を壊すほど暴れることもなくなる。


「そんな、結婚したてで凶状持ちの娘を持つのか?」


 ケインが呆然とつぶやく。

 気にするのはそこかとリシーラは思ったが、今そこにこだわっているべきではない。

 むしろ心配なのはレジェスの反応だったが。


「リシーラ嬢が、私と結婚してくれる……?」


 レジェスの口元が嬉しそうにゆるんでいた。

 継母うんぬんのことよりも、そっちが最もレジェスにとって重要だったようだ。

 一応、リシーラは確認をとっておく。


「よろしいでしょうか? レジェス様」


「もちろん。君の良いようにしてもらってかまわない」


 即答されて、リシーラは嬉しい一方で困惑する。


(本当に、そんな簡単にいいのかしら?)


 とはいえ了承してくれないと困るので、自分の混乱には封をしておく。


「さあ、今からは私はあなたの新しい母親です。その両親からあなたを引き取りましょう。もし逃げられればそれでよいのなら、どこかの別荘で静かに暮らしていただいてもかまいません」


 ここまで言ったものの、リシーラとしては自分の予想が当たっていて欲しいと願う気持ちだった。


 なにせパトリアは、レジェスが好きで、公爵夫人になりたかったのだ。

 望まない嫌な相手との結婚から逃げられるのはいいけれど、リシーラがレジェスと結婚するのは嫌だと反発するかもしれない。

 それでも、嫌な結婚から現実的な方法で永久に逃がしてくれるという言葉にすがってくれることを祈った。


 しばらくパトリアは黙り込んだ。

 黒化した妖精達も、ゆらゆらと揺れながら、それでも困惑したようにパトリアを見上げている。

 やがて彼女は言った。


「ほんとに……?」


「本当よ。レジェス様も了承してくれた。私は、自分の妖精の友達に誓って嘘をつかない」


「そうよ、リシーラは嘘をつかないわ」


 メギーがそう言ってリシーラの前に進み出た。

 リシーラの左右にはルファとイータがいる。

 その姿は、パトリアにも、レジェス達にも見えるようになっていたらしい。


「え、あれ、妖精?」


 ケインが剣を構えたまま、片腕でごしごしと自分の目元をこすった。


「そうだ。リシーラ嬢の友達だ」


「お前知ってたのか……」


「私をリシーラ嬢と一緒に助けてくれた恩人だ」


 レジェスが幻ではないと保証したものの、逆に存在をしっていて黙っていたらしいレジェスに、ケインは呆れていたようだ。


「助けたのは女の子だけだって聞いていたんだがな」


「妖精だと言ったところで、目にするまで信じないだろう、お前は」


「ごもっともで……」


 ケインが肩をすくめる。

 肝心のパトリアは、姿を現したルファ達クー・シーを見て、考え込んでいた。


「私……」


 何かを言おうとした時だった。


「リシーラ嬢、気をつけて!」


 レジェスの声と同時にルファとイータがリシーラを庇う位置に立つ。

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