第31話
「すいませんでしたっ。ご迷惑おかけしましたっ」
喧嘩騒ぎを起こしたことで俺は警察の厄介になってしまった。
海の家の前で警察官二人に挟まれ事情を聞かれる俺。
だがあとからやってきた桜子さんが警察官に何やら耳打ちすると、なぜか俺は即刻無罪放免になった。
去り際桜子さんに「今さっき、なんて言ったんですか?」と訊いてみると桜子さんはにこりと笑い俺の耳元に顔を寄せ、
「秘密っ」
と甘い声でささやいたのだった。
ガタンガタン……。
ガタンガタン……。
海からの帰り道。
電車に揺られながら俺以外のみんなは全員肩を寄せ合い眠っていた。
夕日がみんなの顔を朱色に染めている。
そんな光景を眺めつつ俺も次第にうとうとし出す。
とそんな時、俺のスマホがズボンのポケットの中で震えた。
誰かからの着信だった。
誰からだろう、俺はスマホを取り出し画面を確認する。
だが知らない番号からだった。
こういう場合、電話には出ない方がいい。
常々そう思っていたのだが、俺は妙な胸騒ぎがして電話に出てしまう。
「……はい、もしもし」
すると。
『もしもし、お兄ちゃん? あたしだよっ』
「クミっ!?」
電話の相手はクミだった。
「な、なんで、本当にクミなのかっ!? い、今どこにいるんだっ?」
『えっとねー、ここはねー……ん? あ、はーい。ごめんお兄ちゃん、場所は話しちゃ駄目だって』
「誰かそこにいるのかっ?」
『いるよ。一緒に脱走した十一人の人たち全員ね。あのあと合流したんだ』
とクミ。
俺は声をひそめて、
「なあ、クミ。これからどうするんだ? ずっと逃げ続けるのか? 前にも言ったけど俺に出来ることならなんでもするぞ」
『ほんとっ? だったらあたしたちと一緒に組織と戦って』
「……え?」
なんだって……?
組織と、戦う……?
『あたしたちねー、もう逃げるのはやめて組織と戦うことにしたんだよ。全面戦争ってやつ。だってあたしたち強いもん。だからお兄ちゃんもあたしたちの仲間になってよ』
「そ、それは……」
『なんでもしてくれるんでしょ。だったら一緒に戦おう、ねっ?』
俺は今まで生きてきてこんなにも悩んだことはなかったかもしれない。
それくらい頭をフル回転させた。
そして出した結論は――
「……ごめん、クミ。それは出来ない」
『……ふーんそっか。やっぱりね』
クミは感情のない声で返す。
『じゃあ、お兄ちゃんはあたしたちの敵だね』
「クミ……」
『今度会った時は容赦なく殺すから』
「なっ……」
『じゃあね、ばいばいお兄ちゃん』
「ま、待てクミっ……!」
プッ、ツーツーツー……。
クミは一方的に電話を切った。
「……クミ……」
この一時間後、俺は、国会議事堂がクミを含む脱走した異能者十二人の襲撃を受けたことを知る。
――俺たちの戦いはまだ始まったばかりだ。