表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/108

シンクロ

「クソッ、どうして上手くいかねぇ!?」

「…………」

「あ"~~~、クソがよぉぉぉ!」



 ドガッ!



 この街……ボルスグラードに居座っているディオスピロスのボス……ゾルーアが、虚ろな表情をした部下を蹴り倒した。

 この男には他人の体を操るスキルがあり、奴の目を見てしまうと体の自由が奪われてしまうの。

 だけど精神までは操れなくて、操れるのは肉体だけ。それが気に入らないのかゾルーアは部下の1人を薬漬けにして、完璧な操り人形を作ろうとしたみたい。結果は失敗だったけれどね。


「「「…………」」」

「あ"? 何を見てやがんだ、見せもんじゃねぇぞクソが!」


 ゾルーアの暴力が自分たちに向くのを恐れ、捕まっている()()()は身を寄せあって顔を背ける。そう、この部屋には私と同じく捕まった子たちが集められていて、全員が軟禁状態に置かれている。

 軟禁と言っても逃げ出せる隙はない。ゾルーアがその気になれば、即座に動きが封じられるから。ううん、それどころか殺される可能性だってある。以前に血気盛んな男の子がゾルーアに歯向かったら、自分を殴り続けるよう命じられた。その後はどうなったか思い出したくもない。だから皆と会話をする時は息を殺すように行っている。


「大丈夫みんな?」

「大丈夫だよマユラ」

「あたしも」

「ボクも平気」

「…………」


 無言で震えてる子もいるけれど、何とか平常心を保ててるみたい。この中だと私が一番歳上だから、私がしっかりしなくちゃいけない。


「おい、奴隷商の方はどうなってる?」

「へ、へぃ、まだ連絡がとれねぇみてぇで……」

「んだとぉ!?」

「ヒッ!?」


 ゾルーアに睨まれた手下が直立不動になり、顔だけを奴に向けた。言うまでもなくスキルの影響だ。


「し、仕方ないんでさぁ! 戦争ともなりゃ巻き添えを嫌がる商人が大半で、殆どが辺境か国外に逃げちまってるみてぇで」

「んなこたぁ分かってんだよぉ! 居なきゃ探し出せって言ってんだ! 俺たちゃ素人の集まりか? 違ぇだろうが! 今じゃ複数の国を股にかける巨大勢力の闇ギルドだ。女の股追いかけるだけのチンピラとは訳が違う。腰を振るだけの猿真似しかできねぇ奴は奴隷に落としてやんよぉ!」

「ヒィィィ! す、すんません、スカウト連中に伝えてきまさぁ!」

「…………チッ」


 走り去る手下。ゾルーアは面白くなさそうに部屋を出て行ったのを確認し、その場の緊張が一気に薄れていく。


「マユラ、アイツあたしたちを売り飛ばすのを諦めてないみたいだよ」

「みたいだね。この街に有ったのは食料くらいで、金品は殆ど残されてなかった。だから意地でも私たちを売らなきゃ行き詰まるんだ」

「な、何とか脱出できないの? アイツの機嫌が悪いままなら、いずれボクたちも……」

「「「…………」」」


 再び重苦しい空気が流れる。最悪は殺処分されてしまうから。

 そういえばレンは無事だろうか? あれから1ヶ月くらいは経つけれど、どうかレンだけでも……。



 バァン!



「「「ひっ!?」」」


 部屋の扉が荒々しく開けられた。ゾルーアが戻って来たんだ。また機嫌を伺いながらビクビクしなければならないのかと身構えていたら、意外な言葉を口にした。


「全員外に出ろ」

「え……」

「グズグスすんな、死にてぇのかぁ!」

「「「…………」」」ビクッ!


 訳も分からず部屋の外に出される私たち。いったい何をさせるつもりなの……。



★★★★★



 ビュゥゥゥゥゥゥ!


「うっく……。お、お姉ちゃんたちって凄いんだね、普通に空を飛べるなんて。しかもこんなに高いところまで……」

「何をビビっておる? ただの飛行ではないか」

「普通は出来ないんだって! 雲がこんな近くに見えるなんて異常だよ!」

「そうだナ~、落ちたら一巻の終わりだゾ~。そ~ら高い高~い♪」

「ヒィィィィィィ!」


 うむうむ、同じ名前で仲睦まじいことだ。(←そうは見えない)


「お~い、怖がってないでちゃんと案内しろよナ~。街の場所は知ってるんだロ~?」

「せ、せめてもう少し低く飛んで……」

「だってさメグミ~」

「ふむ、良いだろう」


 一本杉の天辺くらいまでに高度を落とした。


「ここ、前にも通って来た」

「ん?」

「逃げてきたんだ、ボルスグラードから。故郷が戦場になっちゃって、両親と姉ちゃんとやっとの思いで逃げ出して。でも逃げた先のボルスグラードはディオスピロスに占拠されてて、オイラたちの目の前で両親は殺されて……」


 辛い過去があったようだ。いざ戦で真っ先に犠牲になる者はいつの時代も変わらぬという事だな。


「しかしレンよ、レクサンド共和国は東の方に首都を移したと聞いている。お前たち家族にもそちらへ避難するよう指示が出たのではないか?」

「ううん、避難指示が出たのは共和国の大半を占める人間に対してだけだよ。行き場を失ったオイラたちは西に逃げるしかなかったんだ」

「ロクでもない国だな」

「元は多種族国家だったらしいんだけどね、国のトップが代わればそんなものだよ」


 そんなやり取りをしていると、ザルキールより遥かに大きな街が見えてきた。


「見えたよ、あの街だ。あそこにマユラ姉ちゃんが捕まってるんだ、早く助けてあげなきゃ!」

「落ち着けレン、お前じゃ返り討ちに合うだけだ」

「分かってる。けど一刻も早く助けたいんだ、オイラが逃げ切れたのはマユラ姉ちゃんのお陰だから。ねぇ、頼むよ2人とも。何でもするからオイラに力を貸して!」


 今、何でもって……いやいや、純粋無垢な少年を(けが)れた世界に引き込んではならん。


「まぁ手は貸さんでもない。お前はゾルーアの顔を知っておるしな。何ならディオスピロスの討伐もさせてやろう」

「ホントに!?」

「ああ。但し――」


 私はレン――魔剣の方に目配せした。意図を理解したレンは、魔剣の姿へと早変わりする。



 シュイン!



「ええ!? す、凄い、剣になっちゃった!」

「只の剣ではないぞ? 魔剣アゴレントという強力な武器だ。お前はこれを手にするだけでいい。後は魔剣がやってくれるだろう」

「ありがとう、じゃあ行ってくる!」

「っておい、まだ話は――やれやれ、行ってしまったか」


 しかしまぁレンが付いてるのだ、安心して見ていられ――



 ――いや、やはり心配だ。欲望に忠実なあのレンだぞ? 敵味方関係なく斬り捨てるところを容易に想像できてしまう。


「ええぃ、待つがよい!」


 一抹の不安に駆られつつ、私はレンたちを追うことにした。






「アハハハハ! 凄い、凄いよ、体の底から力が湧き出てくるみたいだ!」


 どんなに走っても疲れないし、剣を振るのだって凄く軽い。


「お、こんなところにガキの侵入者かよ。おとなしく捕まれや!」

「フン、お断りだね」



 ズバン!



「ア"? ――――ガ…………ブフェ!」


 すれ違い様に男の体を上下に分断。男は振り向くことすら出来ずに血を吹き出して倒れた。


「フッ――ハハハハハハ! なぁんだ、全然弱いじゃないか」


 今までこの程度の奴らに怯えてたと思うと自分が情けなくなる。

 よぉし、この調子で街中の連中を倒しに行くぞ!


『お前、倒すのはいいけど性格変わり過ぎだろ~。見てて怖いゾ~』

「仕方ないよ、今までがおかしかったんだ。オイラには分かる、これが本当の姿なんだって」

『おっかしいなぁ、洗脳はしてないはずなのに……』

「何だっていいよ。この力があればオイラは無敵。どんな強敵だって倒してやる!」

 

 それから賊を求めて駆け回った。わざと物音を立てれば寄ってくるから、探すのは容易だったよ。以前より数が少ないのが気になるけれど、そんなことはどうでもいい。1人でも多くの賊を倒して回るのがオイラのすべき事なんだ。


『そういえばお前、姉ちゃん捜すとか言ってなかったか~?』

「え? ……ああ、そんな事も言ってたっけ。賊を倒すのが楽しくてすっかり忘れてたよ。でもどうやって捜せばいい? こんなに広い街だと容易に見つからないよ」

『そんなの簡単だゾ~。その辺の賊を捕まえて尋問すればいいんだゾ~』

「その手があったか」


 オイラは再び賊を求めて徘徊する。目立つ場所は粗方探したんだけど……


「……お酒の匂いだ」

『あそこの角からだゾ~。酒場じゃないか?』

「きっと昼間から飲んでる奴がいるんだ」



 バタン!



「んぁ~? 誰か来たかぁ?」

「新入りかぁ? 酌しろ酌!」


 酔っ払いか、情報を聞き出すのは難しそうだ。


「ばっきゃろう! 彷徨って来たガキだ、捕まえてボスのところへ連れてこうぜ!」

「「「おぅよ!」」」


 酔ってない奴もいたか。しかも案内してくれるらしい。


「じゃあ頼むよ。あ~そうだ、案内役は1人でいいよね」



 ズバズバズバッ!



「さぁ、案内してもらうよ」


 酔っ払いを含む何人かが血溜まりに沈む。残った1人は顔を引き吊らせて絶叫した。


「コ、コイツ化け物かよぉ!」

「ん? キミも死にたい?」

「とと、とんでもねぇ、喜んで案内しますぜ!」

「じゃあ頼むよ、駆け足でね」

「へぃ!」


 ボスのところなら賊も多く集まってそうだ。フフ、殺し甲斐があるなぁ。

 あ、こんなところに地下に続くルートがあったんだ。ってことはボスの居る場所は空気が悪そうだなぁ。


「ん? なんだお前、今日は1日酒場で過ごすって言ってなかったか?」

「んなこたぁいい、ボスに会わせてくれ!」

「おいお前、何だか様子が変だぞ? ガキ1人捕まえたくらいで――」

「うるさいなぁ」



 ズバッ!



「オブェ……」

「余計な口出ししなければ長生きできたのに。ほら、ボヤッとしてないで案内してよ」

「あ、ああ……」


 そこから先も手下に出会してたら斬るの繰り返しで、全然手応えを感じない。

 つまらない、本当につまらない連中だ。ああ、早くボスに会いたいよ。ボスっていうくらいだから一太刀くらいは耐えてくれるはず。楽しみだなぁ。


「着いたぜ。その扉の奥にボスがいる」

「そう。ご苦労だったね、キミはもういいよ」

「あ、ああ。じゃあ俺はこのまま消えるぜ」

「そうだね、()()()()()()よ」

「え――――」



 ズブッ!



「お……が……は、話が……ちが……」



 ドサッ!



 話が違うとでも言いたかったのかな? おかしいね、見逃すなんて一言も言ってないのに。

 いやそんなザコよりボスだ。数ヶ月ぶりかな? 名前だけは覚えてる。ゾルーアだ、ゾルーアならオイラを満足させてくれるはず。



 バァァァン!



「死ねぇぇぇ」

「くたばりやがれぇ!」


 蹴破った瞬間、中にいた男たちが一斉に斬りかかって来た。



 ガキガキィィィン!



「な、何っ!?」

「不意打ちを――それどころか2人がかりの剣を止めやがった!」


 今のはちょっとだけ面白かった。けどそれだけだ。


「つまんないなぁ、つまんないよキミたち。もっと血が踊る殺し合いをしようよ、ねぇ!」

「ヒッ!? な、何なんだコイツ、(ヤク)でもきめてやがんのか!」

「かもしんねぇ、目が普通じゃねぇ!」


 薬だって? そんなものに頼るほど落ちちゃいない。


「不愉快だよキミたち」



 ザシュザシュ!



「「ギャハッ!?」」


 不意打ちを凌げばこんなものか。


「さぁてと……」


 奥のソファーでふんぞり返っていた男に向き直った。手下2人が無惨に殺されたっていうのに何故か余裕を感じる。これは期待できるかもしれない。


「キミがボスでいいのかな?」

「ああ。それより面白ぇもんを見せてくれるじゃねぇか。そこらのザコより余程強ぇ。どうだお前、俺様の片腕にならねぇか?」

「ハッ、冗談。今からお前は殺されるんだよ。オイラの手によってな」

「へへ、血の気が多くて何よりだ。でもな、世の中にゃ絶対に逆らえない存在ってのがいるんだよ。さぁ、俺の目をよく見ろぉ!」


 オイラを凝視してくるボス。だが……


「それがどうした?」

「――なっ!? テ、テメェ、まさか効いてないってのか!?」


 尚も必死に凝視してくるボスだが結果は変わらず。


「フン、もういいよ。キミに期待したオイラがバカだった」



 ズバン!



「ギャァァァァァァ! グ、グゾォ……ゾルーアめ、騙し……やが……て……」


 起死回生の手があるかもと期待したけど、やっぱり何もなかった。ああ、貴重な時間が無駄になった。

 クソクソクソッ! ボスならもっと強いと思ったのに、オイラを楽しませてくれると思ったのに!

 あれ? そういえばオイラ、どうしてボスを捜してたんだっけ? まぁいいか、他の街で暴れながら考えるとしよう。


「ふむ、ここにはお前の姉は居らんようだな。奴隷商に売られたかもしれん」


 いつの間にかメグミがいた。ホントいつの間に。

 待てよ? そうだ、メグミならオイラと渡り合えるかもしれない。


「そうなんだ。そんなことよりメグミ、オイラと楽しいことしようよ」



 ガシッ!



 決まると思ってた不意打ち。けれど振り下ろした剣はメグミの手によりガッチリと掴まれてにた。


「フッ、ハハ――ハハハハハハッ! 面白いよメグミ、オイラの剣を脇見しながら掴むなんて」

「斬り殺されたくないのでな。それよりレン、貴様やはり魔剣と()()()()しとるようだな? さっさと剣を捨てなければ危険だぞ」

「……嫌だと言ったら?」

「決まってる。こうするのだ!」



 ドスッ!



「グッ!?」



 カランカラン!



 利き腕に手刀を叩き込まれ、魔剣を手離してしまった。やっぱりメグミは強いなぁ。

 あ、あれ? なんだか妙にスッキリした感覚だ。それにオイラ、どうしてメグミを襲ってるんだろ? なんだか訳が分からなくなって……



 ドサッ!



 気を失ったか。


「やれやれ、どうにか収まったようだな」

『お陰で助かったゾ~。まさか名前のせいでシンクロするとは思わなかったナ~』

「うむ、今回は悪乗りし過ぎたな。これは反省しよう」


 しかしボスはゾルーアではなかった。捕まっていたマユラという少女も居らん。

 仕方ない、一度レンを連れて邸に戻ろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ