レンとレン
「ほぅほぅ、レクサンド共和国が首都を移して逃げの構え――か。我が国が押しているようだな」
「早く決着がつけばいいですね」
「うむ。我が国の軍隊を信じようではないか」
いつもの朝食後、ラーカスター邸では優雅なティータイムの時間であり、当主のスレイン男爵が貴族宛に送られてきた書物に目を通していく。横では長女のアルスがティーカップに口をつけ、のほほんとした表情で父上の言葉に耳を傾けていた。
「だが喜んでばかりもおれん。後方の空白都市では治安の悪化が急激に進んでいるらしいからな」
「…………」ピクッ!
「そうなのですか? こちらまで飛び火しないか心配ですわ」
「…………」
既に飛び火したものを処理したばかり。つい先日もレクサンド領の街でディオスピロスのボスを始末したところだ。しかし……
~~~~~
「お、俺が……ディオスピロスのボスをやってるイガー……だ。あ、ああ、謝るんなら……い、今のうち……だぞ!」
「謝る? 魔力の桁が違う私には貴様のスキルは通用しないのだ、謝る必要がどこにある?」
「く、来るなっ!」
腰が引けている。スキルに頼った結果がこれか。フッ、哀れな奴め。
「貴様が消えれば治安が改善する。おとなしく消えるがいい」
プスッ!
「アガッ! ガ……ア……」
「何だ? 遺言なら聞いてやらんでもないぞ?」
額を貫かれて瀕死になりつつも、ボスは何かを訴えてきた。
「俺……騙され……た。スキルは……誰にでも効く……って……。ゾル……ア……めぇ……」
「ぞるあ? 何だそれは」
「…………」
謎の言葉を残してボスは絶命した。
~~~~~
「神妙な顔してどうしたんだメグミ~? お茶菓子食わないなら貰うゾ~」
ヒョイヒョイと横から摘まんでいくレンを他所に、私は1人で首を捻る。
ボスは倒した。倒したのだが、どうにもスッキリしない。特殊能力である他人を操るスキル、それを誰かから教わった節があったのだ。それにボスとは名ばかりの一般人並の弱さ。やはり……
ガタッ!
「やはり何か見落としている!」
「「「!?」」」
驚く3人を他所に魔力を使ってサッとメイクアップ。フッ、今日もアルティメティックビューティーなメグミの出来上がりだ。(←意味が分からん)
「レクサンド共和国まで出掛けてくる。夜には帰還するので、晩御飯はパスタをプリーズ。では!」
シュバ!
「う、うむ。気をつけてな」
「あら~、せっかくの夏休みなのだからゆっくり過ごせば良いのに」
「そうだな。ゴトーとフェイも街を強化すると言って早朝から出掛けているし。……もしかしたらワシ、あんまり働いておらんのか……」ショボン
「い、いえ、そんなことはありませんわ。ここザルキールはレマイオス帝国の侵略を何度も防いできたと、国王様からの評価も高いではありませんか。ねぇ、レンちゃん?」
「あら? レンちゃん?」
「レンならメグミと一緒に飛んで行ったぞ」
「あらあら~」
★★★★★
シュタ!
周囲に誰もいないのを確認し、街の中央付近へと降り立つ。以前倒したディオスピロスのイガーという男が支配していた街とは別のところだ。
「さて、情報を集めるとするか」
「何の情報を集めるんだ~?」モグモグ
「何をだと? ディオスピロスの情報に決まっているではな――」
「――って、何故にお前がここに居る!?」
茶菓子を頬張りつつもキョトンした顔を向けてくるレン。
「何故って、メグミがボクのお茶菓子を掴んだからだゾ~」ハグハグ
「屋敷を出る前に1つ摘まんでいこうとしたのは覚えている。つまり私に取られまいと手を離さなかった結果、ついて来てしまったと?」
「正解だゾ~」モグモグ
「食い意地の張った奴め、勝手に私の分を横取りしよってからに」
だがついて来たものは仕方がない。
「ほれ、私の分もやるからお前も手伝え」
「アハッ♪ 話が分かる~! ア~ン……」
放った茶菓子に食い付こうとレンが大口を開けたその時……
シュバ! ――ダダダダダダダダッ!
「ああ~! お茶菓子が取られたゾ~!?」
獣人の子供が割って入り、宙に舞う茶菓子を口でキャッチ! そのまま逃走していく。
「このボクから盗みを働くとはいい度胸だゾ~、身ぐるみ剥いだ上に一滴残らず血を吸い上げてやるからナ~!」
もちろんレンも黙ってはいない。すぐさま子供の後を追いかけ始める。
一方の私もヤレヤレと思いつつ付近の家屋を屋根づたいに渡り、見失わないよう上からの監視に移った。
「そこの獣人待て~! 捕まえたらギッタギタだゾ~!」
「ジャ○アンかお前は。ギッタギタと言われて待つ輩など居らんわ」
「そうなのか~? じゃあ……コホン。お~い、そこの獣人~! 待ってくれたらちょっとだけサービスしちゃうゾ~!」
「やめろ、如何わしいサービスを連想させるだろうが!」
しかしあの獣人、幼少でありながらも洗練された動きだ。体格差をいかして狭いところを通り抜けていくために、スピードで上回っていてもなかなか追い付けん。恐らくは盗みをすることで飢えを凌いでいるのだろう。
「フッフッフ~、どうやら袋のネズミってやつのようだナ~?」
「…………」
10分ほど追いかけてようやく行き止まりに追い込んだ。しかし自分たちより更に年下に見える男児を追い詰めているこの構図、レンの台詞も相まってこちらが悪党に見えてしまう。
「もう逃げ場はないゾ~、おとなしく掴まれ~!」
「っ!」
バッ!
「う、うわ~~~!」
ドガッシャ~~~ン!
ダイビングしたレンの両手が空振り、奥に積んであった材木に頭から突っ込んでいく。いやそれ、捕まえたとしても材木に突っ込むのは変わらんような……。
が、そんなレンを嘲笑うかのように、壁を蹴って屋根へと上がる獣人の少年。
「へん、お前らみたいなノロマに捕まるかよ。オイラにとっちゃここら辺は庭みたいなものなんだ、恨むんなら弱かった自分を恨みな!」
ザッ!
再び逃走を開始する獣人少年。しかしこれで諦めるレンではない。弱かったというフレーズがレンを刺激してしまい……
「ムッカ~~~! もう怒ったゾ~、泣いたって許さないからナ~!」
「お前、見事に挑発に乗ってしまったな」
「そもそもメグミ、お前がもっと協力的にならないから逃げられるんだゾ~! アイツが壁を上ってる間に捕まえられただろ~!」
「それもそうだが奴の動きに感心してな、あの年頃でここまで出来るのかと」
「いいからさっさと追いかけるんだゾ~!」
子供の挑発に乗ってしまうレンもどうかと思うのだが(←お前も子供だろ)、盗人を放置するつもりもない。屋根へ上がった私を見て再び地上から逃走し始めた獣人少年だったが、目の前にレンが立ち塞がり私も後方から駆けつけて前後から挟み撃ちの形が出来上がった。
「どうした、ようやく諦めたのか~?」
「チッ…………」
確かに聴こえた追い詰められた者の台詞。脇道もあるが、そちらには行きたくないらしい。
「チェックメイトだゾ~、おとなしく――」
「……クソォ!」
「あ、コラ~!」
考えた末に脇道へと逃走。この先に何かあるのかと思いつつ追跡すると、その答えは案外すぐに見つかることに。
「おいガキィ、ここは俺たちのシマだって前にも言ったよなぁ? 口で言っても分かんねぇなら……」
「ちち、違うんだ、オイラは追われてて――」
「ルセェ!」
ガッ!
「ギャァ!」
「ちょうど仲間がパクられてイラついてたところだ。テメェにはサンドバッグになってもらうぜ!」
「ハッ、そりゃいい! まずは俺からだぁ!」
ドガッ!
「ゲフッ!」
蹴られた獣人少年が足元に転がってくる。なるほどな、コイツらと出会したくないから入り込むのを躊躇ったのか。
「あん? 何だテメェら、見ねぇ顔だが……」
「何だっていいじゃねぇか。洒落た服着てやがるし、よく見りゃ上玉だ。コイツぁ高く売れるぜぇ!」
「いや、売る前に味見だ、取っ捕まえろ!」
その台詞を聞いて安心した。
「それは助かる」
「あ?」
「手加減をせずに済みそうだからな」
ズッ!
「ゴブッ!? ウ……ウゥ……」
「「「なっ!?」」」
私よりもレンが先に反応し、自身の腕を剣へと変化。男の心臓を貫いた剣が背中から飛び出たのを見て、後ろにいた連中は動きを止める。
「この獣人はボクのだゾ~、邪魔をするなら――」
ズバズバズバズバッ!
「――アハッ♪ 許さないからナ~!」
「「「ヒッ……」」」
男たちの前に首無なしの死体が転がった。更には返り血を浴びたレンの笑顔が恐怖を吊り上げ、剣撃を逃れた男たちは腰を抜かして言葉を失う。
「気持ちは分かるがやり過ぎだ。情報を得る前に殺してはダメだろう」
「どっちにしろ言葉が出ないみたいだし、殺ってもいいんじゃないカ~?」
「そうもいかん。この街がディオスピロスに支配されいるのなら、ボスから情報を引き出さねばな」
自然と出たディオスピロスという単語。その言葉に色濃く反応した者が1人。
「お、お前ら、ディオスピロスを探してるのか!?」
「その通りだが……、少年よ、まさかお前、ディオスピロスの構成員とか言わないだろうな?」
「ちちち違うよ! オイラをあんな連中と一緒にしないでくれ!」
「でもお前、ボクのお茶菓子を盗んだだろ。早く返せすんだゾ~!」
「ゴ、ゴメン、逃げながら食べちゃって……」
「何だと~? アレが最後の1つだったんだゾ~、吐いて戻せ~!」(←やめろ描写させるな)
「アホか、アレはもともと私のだろうが」
というか茶菓子などどうでもいい。今知りたいのはディオスピロスに関してであり、荒ぶるレンを宥めて少年の話を聞くことにした。
「ここから東の方に行くと大きな街があるんだ。そこを根城にしている連中がディオスピロスと名乗っていたよ。確かゾルーアって奴がボスで、「俺のスキルがあれば誰も逆らえねぇ、例え軍隊でもなぁ」みたいなことを自慢気に話してたはず」
ゾルーアか。以前倒したボスが【ぞるあ】という言葉を残していたな。奴を唆した本人が少年の言う街に居るのだろう。
「ふむ、有益な情報だ。して何という街だ?」
「ゴメン、名前までは分かんないや。オイラその街から逃げるのに必死だったし」
「そうか、分からんのか」チラ……
話を聞きつつ腰を抜かしたままの連中に視線を向けた。
「ヒィッ! し、知ってまさぁ! ボルスグラードって街でさぁ!」
「歩いて3日の距離です、はい!」
「へへ、あそこは規模がデカイ街なんで、あの街を足掛かりに勢力を伸ばしてるところでして、へへ」
ボルスグラードという大きな街か。そこがディオスピロスの本拠地なのだな。そしてコイツらもディオスピロスの構成員と。
「よし、お前たちは行っていいぞ。貴重な情報をくれた礼だ」
「マジッスか!? ラッキー♪」
「女神かよあんた~」
「へへ、逃げるべ逃げるべ」
男たちは脱兎のごとく走り去――
「フレイムボム」
チュド~~~ン!
「んん~? お礼するんじゃなかったのか~?」
「苦しまずに消し去ってやる。悪人に対してこれ以上の礼などあるまい」
「メグミのやることは魔剣のボクでもドン引きだゾ~」
「首を斬り落として首無し地蔵を並べる奴に言われたくないぞ」
「首無し地蔵って何ダ~?」
そうか、この世界には存在しないか。そもそも首無し地蔵のことを詳しく知らんな。確かあんまり良ろしくない物だったような?
「まぁいい。少年よ、情報提供に感謝する」
「お茶菓子のことは水に流してやるゾ~」
「では――」
「待ってよ2人とも!」
飛び立とうとした私の足に少年がしがみつく。
「何だ? 窃盗のことならもういいぞ。それよりもディオスピロスを壊滅させるのが重要なのでな」
「分かってる。その事なんだけれど、オイラも連れてって欲しいんだ。ボルスグラードにオイラの姉ちゃんが捕まってるんだよ、だから――」
「だから連れてけと? さっきも言ったがディオスピロスを潰すのが最優先項目だ。広い街を探し回る余裕は我々にはない」
「そうだゾ~。窃盗を見逃すだけでも譲歩してやってるんだからナ~」
可哀想だが仕方あるまい。所詮全てを救うことなど出来ないのだからな。それに私は魔王ルシフェル。たまに忘れそうになるが魔王なのだ。
「そういうわけだ、行くぞレン」
「お~」
「はい!」
「「ん?」」
「え?」
「……ではな、少年。行くぞレン」
「お~」
「はい!」
「ちょっと待て。少年よ、お前の名前は何という?」
「オイラはレンだよ。宜しくね、お姉ちゃんたち!」
まさかの名前被りか。
「お前がレンだと~? 今度はボクの名前まで盗むのか~!?」
「違う違う、オイラは本当にレンなんだってば! あ~痛い痛い、腕を引っ張らないで!」
魔剣のレンに獣人のレンか。
「落ち着くのだレンよ」
「それ、どっちに言ってるんダ~?」
「両方! とにかくな、この少年も連れて行こうじゃないか」
これも何かの縁と思えば悪い気はしない。
キャラクター紹介
スレイン・ラーカスター
:ペルニクス王国はザルキールの街の領主にして男爵。
一人娘のアルスをメグミに救出されたのが縁で、メグミを養子として迎えることに。メグミに加えてフェイやゴトー、おまけにレンまで一家に加わり、邸が賑やかになったことに本人は喜んでいる。
アルス・ラーカスター
:スレインの一人娘。母親を亡くしているため少々寂しい思いをしていたが、メグミを養子として迎えてから徐々に笑顔が増えてきた。
メグミのことを実の妹のように可愛がっており、使い魔として召喚されたフェイのことも気遣っている一方で、ゴトーのことはよく分からない不思議少年として見ている。
護衛を外して外出する際は、レンを装備して出掛けているらしい。
レン
:魔剣アゴレントという血に飢えし呪われた剣……のはずが、人化して人の生活に馴染んで生活している。偶然出会ったメグミに興味を持ち、魔力対決で敗れたのもあってメグミと行動を共にするようになった。普段はラーカスター家の棚に飾られている。
ちなみに人化した姿は女子小中学生くらいの見た目で、赤やピンク、オレンジといった毒々しい髪色をショートカットにしている。
レン
:レクサンド共和国のとある街で出会った獣人少年。無一文で街にやって来たため、生きるために他人から食料を盗んで日々を凌いでいた。
ある日メグミたちに出会ってその力を見せつけられると、自身の姉を助けて欲しいとメグミたちに申し出た。




