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駆除という夏休み

「くそぅ、どこにも居ねぇ」

「ったくどこ行きやがったクソガキどもが」

「まだ遠くには行ってないはずだ、徹底的に探せ!」

「「「おぅ!」」」


 よし、今のうち……


「マユラ姉ちゃん」

「分かってる。今のうちに街から出よう。レン、走れる?」

「うん!」


 男たちが居ないのを確認して物陰から飛び出ると、一目散に街の外を目指して走る。

 どうしてこうなったかと言えば、この国がペルニクス王国の領土を掠め取ったから。そのせいでペルニクス王国が怒っちゃって、逆に攻め込まれてる状態だって聞いた。そして両方の軍隊が去った後、街の治安が最悪なまでに悪化した。


「あ、あんなとこに居やがった!」

「逃がすかクソガキィ!」


 マズイ、見つかった!


「レン、こっち!」

「うん!」


 レンの手をギュッと握りしめ、男たちから逃げ回る。

 迂闊(うかつ)だった。最初この街を見つけた時はラッキーだったとパパやママと喜んだ。門番が居ないからギルドカードが無くても入れる。そう思った。

 けど現実は違った。ここの領主は死んだか逃げたかで、街を支配しているのはディオスピロスとかいう妙な組織。そうとは知らずに入った私たちの目の前で両親は殺された。もう私には弟しか残っていない。レンだけは絶対に護らないと!


「姉ちゃん、前!」

「クッ、門のところに先回りされてる!?」


 このままだと二人とも助からない。だったらレンだけでも!


「レン、これを持って行きなさい」

「え? でもこれって最後の食料じゃ……」

「よく聞いてレン、貴方が助かるにはこれしかないの。高いところは平気でしょ?」

「うん。けどマユラ姉ちゃんは!?」

「私はいいから、貴方だけでも逃げ延びて。じゃあ行くよ!」

「ね、姉ちゃん!」



 バッ!


 力の限りレンを上空へと放り投げた。悠々と外壁に達したレンはチラリと私の方を見る。けれど私は追い付かれてしまい、男たちによって取り押さえられている最中。そんな光景を直視できなかったのか、唇を噛み締めたレンは外壁の外へと飛び降りていった。


「このガキ、手こずらせやがって」

「けど一匹逃げちまったぜ?」

「一匹くらい放っておけ。獣人は売値が安い」


 やっぱり! コイツら、非力な子供を捕まえて売り飛ばす気だ。



 ガブッ!



「っっっでぇぇぇぇぇぇ!?」

「バカ、お前何やって!」


 一瞬の隙をついて腕におもいっきり噛みつく。激痛を味わった男に放り投げられた私は、空中でバランスを整えキレイに着地。別ルートで逃走するため街中へと引き返す――が!

 


「お~い、俺のテリトリーから逃げようとしてんのはテメェかぁ?」

「!?」


 この男、気配を感じさせずに目の前に!? それに匂いもしなかった。他の連中より気味が悪い。


「お~い、そんなに怖がんなって。抵抗しなきゃ殴ったりしねぇからよ」

「……でも私の両親は殴られた上に殺された」

「そりゃ殺すだろ、居ても邪魔なんだからよ。それとも一緒に殺して欲しいってか? まぁそう焦んなって。獣人でもガキなら需要はあるんだ、長い人生いっぺん奴隷やってみるのも悪かねぇだろ? キッシシシシシシ!」


 最低だコイツら。せめて一撃くらいは!




「!? か、体が……動かない!」

「キッシシシシシシ! 俺様の目を見ちまった奴は体の自由を奪われるのさ。今のテメェは俺様の命令なしじゃ動くこともできねぇってわけよ」

「クッ……」


 ダメ、やっぱり動かない。悔しいけどコイツの言ってることは事実なんだ。


「買い手がつくまでしばらく掛かるだろうが、それまではこのゾルーア様が大事に飼ってやんよ! キッシシシシシシ!」


 呆気なく拘束された私は、男たちに担がれながらも願う。レン、どうか無事に生き延びて。



★★★★★



「というわけでだ。もうすぐ夏休みなわけだが、どこか行きたい場所でもあるかな?」

「……メグちゃん、どうしてそんなに元気なの……」

「ホンマや。この暑さでよく声を張り上げる気になれるなぁ……」


 グレシーとサトルは机に突っ伏したまま動かないという固い意志を貫いていた。とは言えだ、教室の中は外より涼しい。1日中外で過ごして干物になるより100倍ましだ。


「フン、ならいい。3Dの3人を誘うことにしよう」

「あの3人ならダンジョンに向かったよ。あ、正確には2人かな? 夏休み中も籠るって話してたし、無理じゃないかなぁ」

「相変わらず生真面目だな」

「何言うとんのや、あの3人は今年で最後やで? 最終試験に向けて調整中やと意気込んどったし、邪魔したらアカン」


 言うなれば受験生か。そういえばゴリスキーは故郷のゴルモン王国に帰国したと聞いたな。何でもレマイオス帝国との小競り合いで、自分の村が心配になったとか。まったく、あの国はどこでも問題を起こしているな。


「ほほ~ぅ、そうかそうか、メグミの夏休みは暇だらけか。なら取って置きの仕事があるぞ~ぅ?」


 ニカッとした不適な笑みを浮かべて担任のマキシマムが教室に現れた。


「教え子に仕事を斡旋するとはとんだ不良教師だな。だいたい暑すぎるから自習にすると言っときながら教室に戻ってくるのは怪しいぞ」

「おいおい、俺みたいな真人間をつかまえて怪しいはないだろ。どう見ても爽やか好青年じゃないか、ハッハッハッハッ!」

「「「…………」」」



「好青年は自ら好青年と自称しないが」

「笑い飛ばせば誤魔化せるとか思ってそう」

「坊主頭は爽やかやけどな」

「そんなだからリーリスに相手をされないのだ」

「モテなさそうだもんね~」

「汗臭いでホンマ」


「お、お前ら……」


 さて、暴発すると後始末が大変だ。からかうのはこのくらいにして置こうか。


「それで、仕事とはなんだ?」

「よく聞いてくれた! 実はな、今現在ペルニクス王国は外部から入り込んだ組織に脅かされている――というのは知っているか? 何でもレマイオス帝国の工作員が手引きをしたらしいんだが、その残党が幾つかの街で抗争を起こしてて住民の生活に支障が出ているんだ」


 恐らくはフォルシオンが手引きをしたディオスピロとかいう闇ギルドだろう。王都での駆除は終わったのだが地方に逃れていたとは。あの工作員め、面倒な置土産を残してくれたな。

 

「特にレクサンド共和国に近いところが荒らされているようでな、戦争状態をチャンスとばかりに略奪の限りを尽くしているらしい。自国が荒れているのだからレクサンドの方は想像を絶する有り様だろう。どうだメグミ、一汗かいてみないか?」

「嫌だよ。せっかくなら海に行きたい。そして程よく日焼けした姿にルシフェル様バンザーイと周囲に言わせるのだ。皆が望むなら出血大サービスで私の水着姿も見せてやろう」


 金髪美少女の水着姿だ、両手(もろて)を上げてバンザイは確実だろう。

 ……誰だ、どうせスクール水着だろうとか言った輩は! さては貴様ら、マイクロビキニの存在を知らんな?(←知らんでいい)


「お前の水着姿を見てもなぁ。どうせならリーリス先生が……」

「あ"?」

「い、いや、何でもない。それよりこの仕事はロザリー様から直々に指名されたものだ。城では随分と活躍したそうじゃないか? ギルドを通さず名指しされるなんざ、ベテラン冒険者ですら滅多にないぞ」


 あの場でフォルシオンを倒せるやつは居なかったからな。仕方なく実力の片鱗は見せたが。しかしまぁ信用を得たと思えば結果的にプラスか。この調子で王族を口説き落として国の裏側から支配し、ルシフェル様バンザ~イ計画を進めるのだ。


「良いだろう。賊退治に協力しようではないか」

「ハッハッハッ! メグミなら引き受けると思ってたぞ~。そんじゃ地図を渡しとくからよろしくな!」

「地図? ――っておぃぃぃ、北の殆どが対象ではないか! ふざけるなこのクソハゲェェェ!」



★★★★★



 そんな感じに面倒事を押し付けられたあの日から1ヶ月が経過した。世の学生たちは少し前から夏休みがスタートしている反面、私だけは害虫駆除に追われていた。そう、国内に入り込んだディオスピロスとかいう闇ギルドだ。


「へっへっへっ、こんな場所に1人で来るとは無用心だなお嬢ちゃん」

「この辺りは治安が悪いんだ、俺たちが護ってやるぜぇ?」

「ああ、安心しな、俺たちゃ女の味方さ」


 さっそく来たよ。路地裏を抜けた途端にこれだ。レクサンド共和国は目と鼻の先で多くの難民が入り込んだらしく、その中にディオスピロス(コイツら)も混ざっていたのだろう。

 あ"~ウザい、ウザすぎる! 夏と言えば海だろう? トロピカルジュースを飲みながらの昼寝、浮き輪を使っての水遊び(←この人泳げないんです)、そしてスイカ割り。

 なのに何が楽しくてむさい男連中と(たわむ)れねばならん! あ~もうダメ、イライラが止まらん!



「ファイヤーストーム!」

「「「ギャア!!!」」」



 おっといかん、情報を得る前に火葬してしまったではないか。生き残りは……


「あ……ああ……」


 お~いたいた。


「さぁ、ボスのところへ案内するのだ。お前も他の連中の後を追いたくはないだろう?」

「…………」コクコク!



 それから30分後。



「待て待て、待ってくれ、俺たちゃディオスピロスじゃない! アーケラという別の組織だ!」

「闇ギルドには変わりないだろう? それに一般人を狙った時点で同罪だ。おとなしく――」

「違うんだって、話を聞いてくれ!」

「仕方ない、遺言くらいは聞いてやる」

「い、いいか? たた、頼むから、おおお、落ち着いて聞いてくれ」(←お前が落ち着け)


 ビビりまくりのアーケラのボスによると、ここ最近勝手に一般人を襲う下っ端連中が現れ、対応に苦慮しているらしい。


「部下が言うことを聞かないと? 貴様の人望がないんだろ」

「そうかもしれんがそうじゃない。実際に行動に移した輩を尋問したんだが、体が勝手に動くのであって自分の意志ではないと言い張るのさ。でもやっちまったもんは仕方ないと開き直った結果、今日に限っちゃお前さんに燃やされちまったのさ」


 信じがたい話だ。やはりコイツも……


「だから待てって! あ、そうだ、こういう話もあるんだ! レクサンド共和国の方にはディオスピロスって厄介な闇ギルドがあってな、そこのリーダーの目をた奴は逆らう気力を一切持たなくなるんだとよ」

「つまりそいつが関わっていると?」

「多分……いや、絶対にそうだ!」


 王国内のディオスピロスは粗方始末した。コイツの言ってる事が真実ならレクサンド共和国に出向くしかないかもな。


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