第六章 死に臨む蟷螂 (5)
夕餉を終えてしばらくすると、普段より静まり返っていた邸内が、ふいに息を吹き返したようにざわめき始めた。侍女たちの足音が回廊を鳴らし、声がいくつも重なって聞こえてくる。その場にいなくとも、リィリィアーナが戻ったのだと分かった。
庭の方からは、帰還の気配に乗じるように、微かに笛の音が鳴り始めていた。軽やかに跳ねる旋律が、夜の湿りを含んだ風に乗って、高く低く揺れながら流れ込んでくる。
ラーギニールは、従姉妹の帰りを出迎えることをせず、今夜も、遅くまで作業小屋に籠もるつもりなのだろう。
音楽をやっているわけではないと言いながらも、彼は、発明の片手間に、よく何かの旋律を奏でている。その曲の名を尋ねる機会は、これから先、訪れることがあるのだろうか。そんなことを思うと、胸のあたりがぎゅっと締め付けられるような気がした。
(出立に気付かれなければいいけれど……)
ルチーフェロは、庭の森の中に一角獣で降り立つ予定だ。珍しいことではない。彼はいつも、そうやって忍んできているのだから。
エプィヌは、侍女が運んできた湯桶の前にしゃがみ込み、揺らめく蒸気をじっと見つめていた。
薄く立ちのぼる白は、すぐにほどけて形を失い、また次の層が重なる。それは、うるさく跳ねる鼓動を覆い隠すようで、視界をわずかに曇らせた。
窓辺には衝立を立て、脱いだ衣を掛けてある。こうしておけば、湯を使っているように見えるはずだ。万が一、誰かが──ラーギニールやリィリィアーナが訪ねてきても、応じずに済むように。そんな、わずかな猶予を自分に与えるための、浅い策だった。
(リィリィアーナさまは……)
まずユディトのもとへ向かうはずだ。それから、気を揉んでいる両親を安心させ、エポナに捕まって、あれこれと問い詰められるに違いない。笑い、語らって、今日という一日を丁寧にほどきながら、夜を過ごすのだろう。
そう思えば、心配せずとも、ここへ来る暇など、ないのかもしれなかった。
(それに……)
エプィヌは、膝頭をぎゅっと握った。
(わたしが何をするか、ラーギニールさまも、リィリィアーナさまも、もう分かっているもの)
引き留めることも、問いただすこともせず、行かせてくれるはずだった。
(いずれにせよ……)
いくら落ち着けと念じても、指先が震える。
(わたしは、リィリィアーナさまに、おめでとうと言うことはないんだわ)
その思いだけが、妙にくっきりと形を持って、胸の底に打ち付けられた。
窓の外に広がる月のない空は、ただひたすらに黒く、庭木は、形ばかりがかろうじて分かるだけで、奥行きはすべて闇に沈んでいる。
(──もう、行かなければ)
そう思った瞬間、辺りの物音が、急に遠のいたように感じられた。
湯気も、灯りも、すべてがひどく頼りなく、震える手の先で、かき消えてしまいそうだった。
エプィヌは、胸元を手繰り寄せ、僅かな荷を小脇に抱えると、露台に出た。外気が肌に触れた途端、生ぬるい風が一層強く吹きつけた。
ローブの裾が絡みつき、呼吸がわずかに乱れる。踏み出そうとした足が、わずかに止まった。
(──けど、もう、全部動き出しているのに)
王子やエーフロシュネは、自分がやると言ったことを放棄する可能性など、考えているのだろうか。怖いなら辞めてしまえばいい。逃げてしまえばいい。それができないのは、なぜだろう。
(博士のため? 殿下のため? ──それとも……)
思いつくことは、どれもこれも真実に思えた。けれど、ここで引く方が、よっぽど、自分の中で大切にしていたものを失う選択なのだ。
エプィヌは意を決し、欄干に手をかけ、身体を持ち上げた。風に煽られたローブが視界を遮り、その瞬間だけ、世界が閉じて抱かれたような感覚がして、なぜか落ち着きを取り戻す気がした。
片足ずつ、ゆっくりと地面に落とし、そのまま、つま先で草の柔らかさを確かめるようにして、静かに着地する。
それからエプィヌは、なるべく窓や回廊から死角になる陰を選び、庭の奥の森に続く小道まで駆け始めた。
最後にふり返ると、窓辺に枝を差しかける大きな木が目についた。
ふと、ミミズクのように、こちらを窺っていたラーギニールの姿を思い出した。──舞踏会の翌朝のことだ。あの時は、朝露が朝の光を受けて、きらきらと輝いていた。美しい光景……二度とは戻らない日のことだ。エプィヌは思わず顔を伏せた。
生い茂った夏草は、ふくらはぎの辺りまで奔放に伸びており、ブリオーの裾をさらさらと撫でながら、夜風と一緒になって、エプィヌの足音をかき消してくれた。それはありがたいのだが、草むらのあちこちから、無数の蛙の鳴き声が、高く低く重なって、追い立ててくるようなのは、少しいただけなかった。ヨークのような高地には、こういう生き物はいなかったのだ。小さくて身体が柔らかく、どこにいるのか一目で見て取れないか弱い生き物は、もしかすると、オオカミには及ばないまでも、別の意味では、同等くらいに恐ろしいかもしれない。
足の裏の感覚に必要以上に敏感になりながら、エプィヌはそれでも、休みなく駆け続けた。
頭上を木々が覆い始める。姿を暴こうとする明かりなどどこにもないし、幾層にも塗り重ねた濃密な暗がりは、この計画の決行をかき抱き、守ってくれているはずなのに、どうしてか、そこらじゅうに、密告者が目を光らせているように思えてならなかった。視線を感じて振り返っても、何もいない。そんなことを何度か繰り返しながら、懸命に足を動かし続けた。
無我夢中で、だいぶ長い間を潜り抜けたような気がするが、おそらく、それほど時は経っていないのだろうと思われた。林の中、張り詰めた夜気を渡ってくるひたひたという水音。──人知れず、この邸宅を満たす時の流れが、そう告げていた。
『民の支配は、時間の支配……数多の人を管理する。国を統べるということは、そういう、目に見えない感覚を刻み付けるところから発生したものではないかしら』
そんな考えを、ふと、ラーギニールに漏らしたことを思い出した。
『舞踏会の間……ずっと聴こえていたの。楽士の奏でる曲の向こうに、ずっと、拍を刻む、水路の水の音が』
夜明けの馬車の中、泥のようにぐったりしている少年の隣で、彼が聞いているのかいないのか、そんなことは構わなかった。沈黙に耐えかねたわけでもなくて、ただ、走って迎えに来てくれた彼が、以前よりも近しい人になったように感じられて、思い付きをとりとめもなく話したいような気がしたのだ。
『……知ってた?』
気だるそうに窓枠にもたれかかりながら、少年は、朝日に目を細めた。
『ぼくの滝は、一定の調子を刻んでる。かなり注意深く、耳を澄ませていないと聴こえないくらいのね』
エプィヌが目を丸くするのを、彼は、面白がるように見返した。
作業小屋にまで引き込んだ流れは、最後に庭先の水瓶に辿り着き、木筒を通った時に重さに従って傾いで、最後に乾いた音を立てるのだそうだ。その間隔は必ず一定で、数を数えることで時を把握することができると。
『気付かなかったでしょ』
『ええ……』
それを聞くと、ラーギニールは満足そうに瞼を閉じ、寝息にも似た吐息を漏らした。
『──いずれ、全部が一つになるよ。水風琴が完成した時、その拍は音色を伴う。皆の耳に届くようになる』
それから、彼は、何やら可笑しそうに頬を緩めた。
『今、これを知っているのは、ぼくら二人きりだよ。気付いてしまったら……もしかして、ぼくに縛られるというの?』
『──極論過ぎるわ』
エプィヌは、突如、脳天を刺したとある気付きに足を止めた。冷水を浴びた時のように、一瞬、呼吸が詰まり、自然と目が見開く。──聴こえないのだ。いつの間にか、水の拍を辿っていた笛の音が消えていたのだ。
(ラーギニールさま……)
彼が作業の手を止めるには、まだ、いくらか早い刻限のはずだ。
庭園には、造られた当初から設計に組み込まれた小径があり、他にもいくつか、獣道が存在する。それらは幼少のルチーフェロやラーギニールが作ったものであり、彼らはなんとなく、自分が付けた道筋を好むようだったが、エプィヌは、王子が”秘密の抜け道”と呼び、決まって一角獣を隠す茂みに通ずる一筋を選んでいた。だから、ラーギニールが自室に戻るとしても、すれ違うことはないはずで、もし姿を見られたとしても、やるべきことは変わらない。
(──けれど、それなら)
考え過ぎだと思う。しかし、いつもの彼ならば、笛を吹き続けるような気がした。そういう少年だ。王子が訪ねてくる夜は、その時が去るまで、笛の音が絶えなかった。ルチーフェロはきっと、あえてラーギニールの気が付くように行動しただろうし、それを受けた少年も、王子が去っていくまでの時間──きっと、水時計が一度、二度、三度……と時を告げる間、耳を塞ぐ代わりに、笛を吹き続けていた。その音に、行動に、エプィヌは、助けられていたのだ。この夜は、二人だけのものじゃない……まだ、囚われていない、自分の軸はここにあるのだと、繋ぎとめてくれている気がしていたのだ。脈と熱に閉じられた不規則な時空に、小さな風穴を開けてくれるような、静かで穏やかな支配力……。
(何も言わないけれど)
ラーギニールが、そこまで深く考えている確証はない。それでも、エプィヌは、気付かされた瞬間から、知らず知らず、縛られていたのだろう。
彼は、耳を澄ませていると告げている。その時が来て、エプィヌがこの家を発つ瞬間を、その事実を、誰よりも早く、確実に把握する者は誰なのか──そういう意思表示に思えてならなかった。
震える息を吐き、つい身を抱きすくめるように絡めていた両腕を解くと、エプィヌは再び、意を決して足を踏み出した。靴の下で砂利が小さく鳴き、その音が、歩を進めるに従って、自分の中の律を鎮めてくれるのが分かった。しだいに急流が飛沫を上げ、拍を刻む力が大きくなる。ようやく、滝の側まで至ったのだ。
その気配に重なるようにして、頭上に濃い影がさっと過った。それから、突風と共に、一角獣の尾が、目と鼻の先を掠る。一頭ではなく二頭。金銀にも見える艶やかな白い毛並みを光らせながら、その影は、重なったかと思えば弾かれたように左右に分かれ、自在に影形を変えながら上空を旋回し、少し先の暗がりへと吸い込まれていった。
チリチリチリ……という羽虫鈴を介した交信が、水濡れた岩肌に反響し、辺りに満ち満ちていた。
やはり、異様とも言うべき景色だと思った。新月の──光源の何一つない暗がりの中で、幻のような獣は、その両翼の内に光を含み、浮かび上がって見える。周囲に佇む二つの人影もまた、その輝きを受けて、ぼんやりと白んでいた。
鎖鎧の軋む音がして、一角獣の手綱を取った乙女が、さっと膝を付いた。
「──来たか」
王子はゆっくり振り返ると、低く語りかけた。
「あんたは、腹が据わってるな」
緊迫した状況とは裏腹に、予想外に優しい声だった。そして、最初に告げられる言葉がそのようなものだとは思ってもみなかったので、エプィヌは、挨拶も忘れたまま、ただ見つめ返すしかできなかった。
「普通の女なら来ないさ。恐れをなして逃げ隠れするか、誰かに守ってもらおうとするはずだ」
王子の、闇と同じ色の薄衣は、足元を流れる風をはらんで柔らかくたなびく。彼が一歩こちらへと近付くたびに、闇が姿を変え、迎えにくるような気がした。
「──あなたさまの命に、誰が背きましょう。この計画を知る者など他にないというのに、誰がわたしを守ってくれましょうか」
エプィヌはいつしか、じんわりと汗を含んだ固い胸に抱かれていた。
「言ったではありませんか。わたしは、全て、殿下の仰せのままにと……」
「そうだったな」
ルチーフェロはくぐもった声でそう言い、少女の髪をそっと撫でた。
「あんたには怖い思いをさせるが、それでも、恐れる必要はない」
頭に添えられていた手がゆっくり背を撫でたかと思うと、次の瞬間、呼吸か近付き、エプィヌは、相手と同じ湿度の夜気を吸った。
「殿下……」
ようやく声を出す隙を見つけたエプィヌは、小さく身をよじった。いかにも王子らしく、彼はサロメがすぐ側に控えていることに全く気を留めないのだ。
少女の抵抗に恥じらいを見とめると、ルチーフェロはようやく顔を離した。
「これから、サロメの力を借りる」
見上げると、王子は、なぜか眉尻を下げた。
「今夜、初めてちゃんとおれを見たな」
なぜだか、首を縦にも横にも振れなかった。押し黙ったままのエプィヌの頬を撫で、彼は続けた。
「おれは羽虫鈴が使えない。一角獣と正確な意思疎通を図らなくては、この計画は成り立たないからな」
王子の一角獣での外遊びについては、王が咎めないので、近衛も国軍も目を瞑っているところだ。それならば、わざわざ関与する人数を増やさずとも……と疑問が過ったが、同時に、これは革命の始まりなのだと、エプィヌは、改めて認識した。
目の前の王子を、そしてサロメを順に見遣る。ルチーフェロは、普段と変わらず飄々としている。これからしでかすことも、水溜りの中に小石を投げ入れる程度にしか思っていないようだった。サロメもまた、静かで穏やかな表情を浮かべている。闘士として命のやりとりを生業にしてきた彼女にしてみれば、任務で心を乱す理由などないのだろう。──しかし、エプィヌには理解が及ばなかった。今日から、確実に何かが変わってしまう。それが決定していながらも、命令をこなすだけ、役目を果たすだけと、淡々としていられるとは……。
(まるで……身体と心を、すっかり切り離してしまったかのよう)
「東の守護は、殿下の指示で赤土通りの夜警を行います」
彼女の話し方には、端的で整然としているにも関わらず、何か伝承でも物語っているかのような、静かで厳かな雰囲気があった。
「王城から城壁の間を、三部隊に分かれて飛行しますが、その中の一隊に伴って南西門の上空を通過する際、国軍の目を盗んで列を離れ、学舎に降り立つ計画です」
その言葉の後を引き取り、王子は、エプィヌの背をゆっくりと撫でながらささやいた。
「学舎の見回りの刻限は過ぎた。宿直の番兵は所定の配置についているし、エーフロシュネの手引きに倣えば、その目を搔い潜るのは容易いことだ」
心配するな、と繰り返す彼の眼差しは、その優しさとは裏腹に、目を逸らす自由を一切認めなかった。
「──はい」
エプィヌは、両手を胸の前で組み合わせ、震えを堪えながら、言葉を押し出した。
「殿下がそう仰せなら、わたしは、信じて役目を果たすだけです」
「ならば、行こう」
目くばせを受けたサロメは、一つ頷くと、身を翻してヨーカナの背に跨った。羽虫鈴の紐を引き、巻き戻っていく帯がチリチリと発する音の拍子を器用に操って、何らかの指示を伝える。ヨーカナはそれに瞬きで答え、もう一頭の方を振り返った。
王子の一角獣は、立ち尽くすエプィヌの前まで歩を進めると、前脚を折って身を低くした。
「さあ、エプィヌ」
ルチーフェロの手は、なおも、そっと背を支えている。エプィヌは胸で息を吸うと、意を決して手を伸ばした。いくら身を屈めても、一角獣の背は馬よりも高い。その白銀の毛並みは、近寄ると、眩しすぎて輪郭が滲むようだった。
その刹那、水音の向こうから、下草を踏み分ける足拍子が立ち上がった。
「……エプィヌさん!」
心ノ臓が、ひゅっと凍り付く気がした。鐙にかけた足がすくみ、手が一瞬、鞍から離れかけた。
──振り返るまでもない。その声の主は、今、一番呼び止められたくない相手だったのだ。
「……ラーギニール、さま」
言い淀みながら振り返ると、いつかのように、唇を引き結んだ少年が立っていた。肩で息を吐き、王子や大きな一角獣の存在に目をくれる様子もなく、ずんずんと近付いてくる。
「──どこへ行くか、聞かないでください。来ないで……!」
(お願い……止まって。これ以上、揺らさないで)
絞り出されたのは、半ば懇願するような声色だった。性急に、大胆に行動しなければ掴めないと言ったのは誰だったか。博士の研究が、もし、王城の設計図だとしたら、迷いなくやると言ったのは、一体、誰だっただろうか……。
(わたしが何をするか、これからラウル家が何に巻き込まれるか、分かって、その上で、リィリィアーナさまに理解を求めたんじゃなかったの)
何も言わず、行かせてくれるはずだと思い込んでいた、自分が浅はかだったのだろうか。それとも、この少年が他人に寄せる心配の度合いを、軽視していたのだろうか。色々な思いが胸の内で渦巻いた。
風が渡り、少年が立ち止まった暗がりから、エプィヌのいる茂みの切れ間まで、二人の間を埋めるように、大気がさざめいた。
「聞かなくても、分かってるよ」
彼は抗議するような調子でそう言う。
「でも、聞いてない」
「何を」
予想外の指摘を受け、エプィヌは、ほとんど語尾に言葉を被せるようにして問うた。
「──エプィヌさんが、いつ帰るかだよ」
(えっ……)
思わず、彼を凝視した。
(分かっていないの? そんなの、そんなの……)
答えようがないではないか。返答を得られないことなど、いくら彼でも分かっているはずなのに、このような無意味な問答をするためだけに、やってきたとでも言うのだろうか。
「──ラーギニールさまに、お願いがあります」
エプィヌは、噛みしめるように言った。
「どうか……友人に、なってほしいのです」
こちらが続きを言う前に、少年はそれだけの聞くと、きょとんとしたように目を見開いた。
「……は?」
その反応は、どこまでも彼らしかった。
「ぼくたちは、だって、家族でしょう?」
エプィヌは、つい、ふっと笑いそうになったが、同時に胸がつきと痛み、顔を伏せた。戸惑いと優しさと、そして少しの困惑の混じった声だ。そんな声をこの少年から聞くなんて、とても信じられなかったのだ。
「違うのよ、わたしが言っているのは……ラズワルドと、ルオネルと──」
そう続けようとした言葉は、おそらく、彼の耳には届いていなかった。ルチーフェロの腕が背後から伸び、背を支え、エプィヌはあっという間に鞍の上で抱え込まれてしまったからだ。
蹄が鳴り、大地を蹴る衝撃がして、視界がぐんと上がる。旋回しながら高度を上げていく間、身をよじって、さっきまでいた場所を振り返った。
(ラーギニールさま……)
少年の姿は、木々に覆いつくされて、見えるわけもなかった。最後の表情を目に焼き付ける暇もなく、二人の間には今や、絶対的な濁流が流れているのだと思った。




