二十五話
「おまえがセント・ユーラスね」
沈みかけの夕陽の様な、鮮やかな紅の髪を持った少女がそう問い掛けてくる。
今は試合場へ向かう通路の中。
そこでセントは二人の少女に呼び止められていた。
他の四人は既に会場へと歩いていってしまっている。
「………………」
セントは何も答えない。ただ空虚な瞳で問いかけてきた少女を見返すだけだ。
「なにも言えないの?もしかしていまからわたし達に負けるところを想像してこわくなったのかしら?ねぇユリ」
「うん……もっとつよそうなのを思い浮かべてたけど………なんだか弱そうでがっかり………」
そう答えた、ユリと呼ばれた少女。
淡い緑の髪は腰元まで伸びている。窓から入る光に照らされてまるで宝石のように輝いている。
まだ幼くも凛々しい顔立ちと、セントに向けられた鋭い眼差しは相当に美しい。
だが、その表情は完全な無表情だ。セントを見る表情は若干の侮蔑を含んでいるが、それもよく見つめなければ解らないだろう。
しかしーー
弱そうとまで言われたセントの反応は、相変わらずの無反応。
足は止まっているので、話は聞こえているのだろうが。
セントが何も言い返さない事を怖がっていると思った紅い髪の少女は、気を良くして続ける。
「わたしの名前はカナリア・クルトール。おまえなんかに名乗りたくはないけど、一応おしえといてあげるわ」
「わたしはユリサール・エンジ………あなたを敗北させる名前………覚えてね………」
「あ、そうね。そうだったわ。おまえはこれからわたし達に敗北するの。名前くらいは知りたいでしょうね」
「うん………カナリア………」
会話する少女達の視線はセントに向けられている。明らかな嘲笑を含んだ声だった。
「ではさきにいきますわ。言っておくけど、にげたりしないことね。おまえは絶対にわたし達が倒すわ」
「そう………逃げてもぜったいおいかけて倒す………」
明確な敵意。
親の敵を見るような目でセントを突き刺した少女二人は、そう言って試合場の方へと歩いていった。
さて、全く声を出さなかったセント・ユーラス。
見栄とプライドを何より大事にするこの男があれだけ言われて無反応とはどういう事か。
それはーー
(正真正銘のガキだな)
内心で口汚く罵っていた為である。




