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雰囲気だけで生き残れ  作者: 雰囲気
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二十三話

試合は一対一ではなく、多人数が同時に戦う方式。

試合は通常8人ずつで行われます。人数の関係で7名のグループもあります。

新入生は807人いますので、101試合行われる事になります。

今日一日で終わらない場合は明日に持ち越されますので、そのつもりで。


どんな魔法を使っても相手は死なないので、全力を出して構いません。

ただし、相手が降参をしているにも関わらず過度な攻撃をした場合は、攻撃を加えた者も失格とします。


死にはしませんが怪我はするので、充分心構えをしておく事。



最後に、これは貴方達新入生の実力を測るための試合です。

この試合では、あまり勝敗は関係ありません。如何にして戦うかを見るのが目的です。

最後まで諦めず、自分の存在を示しなさい。


では、名前を呼ばれた者は試合場に来てください。

最初はーーー・・・・





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶


試合場と繋がっている、巨大な聖堂のような場所にセント達新入生はいた。

教師がそこで軽い試合説明を行い、そして試合が始まった。

どうやら新入生は試合を見ることは出来ないらしい。その事に異議を唱える生徒もいたが、全く相手にされなかった。



相変わらず新入生達の動揺は収まっていない。

泣いたり、怒ったり、悲しんだり。

誰かが啜り泣いている音も聞こえてくる。



(うるせぇ)


セントはそう思ったが、勿論口には出さない。

他人の事より、優先して考えなければならない事が山ほどある。


ここに案内されてから、セントは再び勝つための考えを探していた。

最後のあがき、と言ってもいい。



相手は英雄の子供。もしそうでなくとも、魔法の才ある少年少女。

いや、自分が普通の子供と同じグループに入る可能性は低い。

英雄の子供が相手では、実力を見る以前に倒されてしまう可能性が高い。

英雄の子供は、同じ英雄の子供を戦わせて、実力を見る。

その考えが妥当だろう。

つまり、相手は高確率で自分より上。


しかもーー


(俺の魔力量は極少、節約術を使っても人の半分程度。攻撃魔法は初期の初期しか覚えていない)


セントも、この五年の修行で魔法を使う事の難しさを実感している。

いきなり初期以上の魔法は望めない。


魔法コントロールには自信があるが、それだけでこの()は埋まらない可能性が高い。


(つまり、手詰まりじゃないか)


セントの額に脂汗が浮きはじめる。


ここで負ければ、セント・ユーラスの名は簡単に落ちるだろう。

いや自分だけでない、あの溢れる程の愛をくれた、両親の名までもが。


心臓が高鳴っている。その心臓から出される血液が猛スピードで身体中を巡っていくのが、肌身で感じられるような気がする。



と、


ふと近くにいた新入生の声が、耳に入ってきた。



「あぁ……怖い……どうして僕がこんな……嘘だろ……」


「有り得ないわ!昨日魔法学園についたのにどうして大怪我するかもしれない戦いをしなきゃいけないの!?私達を騙しているんでしょう!?」


「棄権!ぼくは棄権するよぉ!!!」



まだ10歳の少年少女が、突然突き付けられた戦いに怯えている。


ただ、その少年少女が言っている言葉が、どうしてか耳に残った。



嘘、騙している、棄権。























(……………だよな)


鼓動はまだ速い。が、何故かこの言葉を聞いた瞬間、セントの頭に空洞ができたみたいに、すうと今までのマイナスな考えすべてが取り払われる思いがした。


そしていったん真っ白になった頭の中、あれこれと映像の欠片が浮かび上がってきた。



この世界に生まれてからの記憶。


『あなたはこのララ様の息子なんだから!』

そう言って笑う、美しい白髪の母。


『セント、悩みがあればいつでも僕に言うんだよ?』

大きな手で頭を撫でてくれた、凛々しくて、頼りになる父。



前世ではずっと嘘をついてきた。

本心を隠し、くだらない見栄を張って、そうして死んだ。


だから、2回目の人生はーー真っ当に生きようと決めた。

嘘から離れて、素直に、セント・ユーラスとして。









だがーーそれは()という人格が残っていた時点で、不可能だったのかもしれない。

一度、人生を嘘で汚して生きた。そんな俺が、器が変わっただけで、本質が変われるわけがない。


ならば、ならばせめてーーー








ややあって、


「英雄として、ユーラスの名を知らない人間はいない」

と誰にも聞こえない声で言った。


セントは真っ直ぐと前を見つめながら続ける。


「俺の魔力量が少ない事を知っている人間はいない」


「それだけじゃない、初期の魔法しか使えない事を知っている人間もいない」


「試合は一対一じゃない、複数人が同時に戦う」


「そして、試合場に呼ばれる時にーー名前が解る。セント・ユーラスと、呼ばれるだろう。他の英雄の子供は、どう思う?」



口角が釣り上がる。

知らず知らずのうちに口もとが微笑んでいる。

その笑みは、セント・ユーラスとしてのものだろうか。

それともーー






(そうだ、簡単な話じゃないか。いままでやってきた事をそのままやればいいんだ)


それは、


(『騙す』んだ。セント・ユーラスの名の武器を最大限利用して。それで済む話じゃないか、恐れる事なんて何もない)









さぁ一度人生を嘘で汚した男、その男の2度目の大茶番が幕を開ける。

2度目の大嘘が導く結末はーー果たしてハッピーエンドか。

それともーーーーー





▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶



「では次を呼び上げます。一日目はこれで最終試合となります。名を呼ばれた者はすぐに試合場へ」


そうして、名前が呼ばれる。


「ロイル・アーガスト」


「ウォーク・トール」


「ユリサール・エンジ」


「カナリア・クルトール」


「バン・アスト」


「ルイ・サン」


「セント・ユーラス」


「以上の七名は、試合場へ移動してください」































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