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記憶喪失の生存者達  作者: ピタピタ子


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事故

飛行機は荷物を運んで行く。生活必需品や時には違法なものも運ぶ。飛行機は旅行する人達、出張する人達の移動の要。他の都市、他の国に移動させてくれる。飛行機に乗るのは旅行か仕事の2つの手段しかない。

「何を飲まれますか?」

「赤ワインで。」

「かしこまりました。」

ある一人の男が乗っている飛行機は目的地に向かって行く。行き先は乗っている乗客とパイロットとCAにしか分からない。

コックピットでは業務以外の会話はない。会話をする相手は空だ。パイロットは人の命を握っている。乗客が多かろうが少なかろうが彼らは命と向き合うのが使命だ。

「トロポだから揺れるな。分かってるんだ。」

「乗客の命を守れるなら守ってみろ。空はそんなに甘くない。ここに来ると言うことは命の危険と対峙することを承知してるだろうな?」

「分かってる。命の地位を守るのが俺の使命だ。」

「空のせいで訴えられたくないだろ。自分の地位を守りたいってさっき言ったよな?」

「この操縦が乗客だけじゃなくて家族の人生を左右する。俺が自分の名誉や地位だけしか考えないゲス野郎に見えるか?残念ながら映画に出てくるようなクズじゃない。」

「そうか。だけどお前のその姿を見るのも悪くないな。」

空とパイロットが会話するならこんな感じだろうか?

空は全ての人を運んでくれない。空を渡るのが許されるのは羽が生えてるものかお金があるものだけだ。どんなに逃げたくてもお金がなければ空を行き来することは難しい。羽根がない人間を空の行き来を許可したのが飛行機や飛行船、ヘリコプターだ。だけどそれはお金がなければないほど空を行き来する自由は少なくなる。

「羽があるって素晴らしいな。」

「空から不法侵入してるものがいるぞ。」

「そこの君、今すぐ止まりなさい。」

「俺は鳥だ。」

「不法入国する言い訳か?大したもんだな。無駄な抵抗はやめて止まりなさい。なるべく武力行使はしたくない。最後の警告だ。止まりなさい。」

「今すぐ止まるんだ。」

羽が生えて自由に飛べる人間がいるとしたらこんな感じだろう。人間は食物連鎖の最頂点にいるのに自由でもない。羽が生えた所で人間は定義や教義に背くことは他の動物と比べても難しい。

来る日も来る日も人間は定義するのには難しい自由を探しに空を駆け回る。野生の鳥や虫のように自由に生きれる保障もない。

「シャンパンありますか?」

「はい。」

生きてる感じのないCAに一人の男は飲み物を頼む。彼女は茶髪に軽いメイクをしていた。髪は整ってるし制服もしっかり着ているが人間味がない。輝かしいCAの姿とは程遠い存在だ。むしろ彼女がCAが元気でなくてはいけない価値観に終止符を打っているのかもしれない。

「どうしてそんなに苦痛そうな表情なんだ。」

「ここの飛行機に乗ってるあなたならよく分かることでしょ。そんなに笑顔を見たいわけ?申し訳ありませんが、そんなメニューは動機では取り扱いがありません。」

「そうか。それなら笑顔で対価を払うことも出来ないな。」

CAも乗客の男性も一切笑うことはなかった。

「他に注文は御座いますか?」

「いえ特にありません。」

彼女は機械のように去って行く。

機内はとても綺麗だった。綺麗だけど人間が乗っている感じがあまり感じない所だった。人の匂いも、人が身につける香水の匂いも全然漂わない。匂いは機械と空の匂いだけだった。機内全体は白かった。窓も床も天井も白かった。乗客に用意された椅子も白かった。CAの服も白だった。目がチカチカするような白さだった。飛行機で用意されたものはほとんどが白だった。まるで雲の中に入ったような感じだった。外は快晴でも雲の中に抜け出せないような感じだった。二酸化炭素濃度が高いわけでもなく、有毒物質が空気中に放たれてるわけでもないのにのどが詰まるような空気だった。雲で出来た手が乗客の首を絞めるような感じだった。締め付ける時間が経てば経つほど同じように空気になってしまうような感じだった。乗客は飛行機と一体化してるようだった。乗客は恐ろしいほど少なかった。20人もいなかった。一人一人の席はゆとりがあったがどこか殺風景な感じだった。贅沢さがあるのにどこか不自由がある客席だった。白なのに明るさを感じられない白だった。むしろ外の青い空のほうが明るく感じるくらいだった。

客席はファーストクラスで広々としていた。空なのに疲れを感じさせないベッドの作りになっていた。満足感の高い席に違いない。誰にも干渉されない空間のように感じる。最高な席と言っても良いだろう。自分の席に座ってる乗客はそれぞれ他の乗客と話すことはなかった。彼らにとってはお互い一時的な隣人でしかなかった。どうでも良い存在だった。赤の他人で連絡先の交換とかも行われなかった。人と人がいるのに恋愛に発展はしなかった。恋愛どころか人と人との友情関係を形成することもなかった。全員、旅や仕事をする同じ目的を持ってるのに乗客としての思い出が出来なかった。乗っている乗客は全員一人で仕事や旅をするのに違いない。他にも乗客は良い席にいるからって権威を象徴するブランド物を身に着けているわけではなかった。だからと言って全員似たようなものを身に着けているわけではなかった。一人一人着ている服はもちろん違った。違う服を着た彼らが同じサービスを受けている。誰一人サービスに対して声を荒げて文句を言うものはいなかった。誰かよりサービスを良くして欲しいなどと言う声はなかった。乗客はCAに期待もしなければ、不満を漏らすことはなかった。彼らの中では自分達とCAはこれから関わることもない赤の他人と言うところだ。その時体験してるフライト以外は関わることがないと考えている。CAに対して満足感を伝えることもなければ、不平不満などのネガティブな感情を向けることはなかった。見ているのは目の前にあるタブレットだけだった。タブレットには色んな映画が配信されていた。さらにゲームで遊ぶことも出来る。映画はコメディ、ミュージカル、推理ものなど色んなジャンルの映画が配信されていた。ゲームは色んなゲームがあった。日本のゲームや韓国のゲームも豊富に揃っていた。時にスマホやタブレットは現実逃避の機器になる。タブレットを見ない時は彼らはスマホでニュースを見たりSNSで誰か分からない相手に対して書き込みをしていた。時には論破合戦と言うくだらないことに時間を費やすこともあった。

「つまらない。」

CAは特にやることがなくなるとずっとスマホを見ていた。乗客と同じようにSNSを見ていた。彼女は他のCAが輝かしい生活を送っている写真や動画をまじまじと見ていた。彼女はその様子を見て言葉を出さなかった。見れば見るほど彼女は無気力になって人間味を失うくらいだった。見ていくうちに自分と言う人間から乖離するような感じになっていた。

「すみません。シャンパンお願いします。」

「またシャンパンですか?」

「ここのサービスですよね?」

「そうですけど。」

「それならお願いします。」

「他のものを頼まれたらどうですか?」

「同じものを求めたくなるんだよ。君だってそうだろ?音楽だって同じ音楽聞くだろ?新しい音楽を聞こうと思うか?」

「新しいとは?」

「まだ君自身体験したことないことだよ。最近出来た音楽とかではない。つまり君が今まで聞いたことない音楽とか見たこともない絵とか行ったこともない観光地とかだよ。」

「より満足な体験を得ると言うことですか。そんなことは考えません。」

「現代人は何もかも満たされてるように見えるか?」

「物質では満たされてるでしょうね。またシャンパンをおかわりされるなら言ってください。」

「君も飲みな。」

「勤務中ですので。」

「接客も最高の接客を意識してるのか?」

「そんなこと意識してません。」

「君がお酒を飲んで気にする乗客がここに一人でもいるか?それなら飲んでしまえ。」

「遠慮します。それとあなたとシャンパンを飲むことも一生ありませんので。」

「そうだな。僕も君とシャンパンを飲むことは一生ないし、お茶やコーヒーを飲むこともないな。」

「それでは失礼します。」

彼女は去って行った。去る時も笑顔も怒った顔もいっさい見せることはなかった。

「そうだ。あの女性とは一生シャンパンを飲むこともない。飲むとしたら?池の水か?それとも川の水か?彼女と僕じゃ目的が違うから祝杯することもない。彼女は空にとどまって僕は陸地に移動するから。」

飛行機は何事もなく乗客を運んで進んで行く。休むこともなくずっと進み続ける。たくさんの国をまたいで行く。海もまたいで行く。鳥や虫よりも高く寒い環境を乗り越えて行く。鋼の身体は氷も乗り越えて行く。寒さはそこまで天敵ではない。

「何だあれは!」

飛行機の操縦には予期せぬ事態と遭遇することもある。雷や嵐などの天敵との遭遇だ。未然に確認出来なかった事態に彼らは遭遇してる。一人の乗客の男とCAは事態を把握してるが特に何もするわけでもなかった。CAは特に乗客を安心させる言葉をかけることもなかったし、現在の状況を説明することもなかった。ずっとスマホを触り続ける。食事と飲み物を提供することだけが自分の仕事だと思っているようだった。男性は彼女のことを気に留めなかった。彼には関係なかった。

「不味い。視界がぼやけてる。」

予期せぬ乱気流と機体の視界不良が起きて悪戦苦闘していた。パイロットは必死に解決策を探した。

「シンクレート!!プルアップ!!」

風向きが機体を下に押し下げる方向だった。機体は徐々に傾き出した。

「機首を上げろ!」

急降下して行く。

「機首を上げないか!」

「分かってる。」

「その腕で乗客の命を左右するんだぞ。」

「緊急時でもコックピットで騒ぐな。仕事はしっかりこなす。」

感情をぶつける人と恐ろしいくらい冷静な人がぶつかり合った。風も機体に激しくぶつかって行く。

「不味い。おしまいだ。」

「そうか。おしまいなのか。」

飛行機は呆気なく落下した。落下すると激しく地面にぶつかり爆発した。煙が出て空に舞って行く。失うものが多い事故だった。これで全てが終わりのように思われた。しかしこれは新しいはじまりだった。

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