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ナロト奇譚  作者: 木山碧人
第十二章 ナロト攻略

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第1話 唯一絶対の条件

挿絵(By みてみん)





 巨大生物ナロトの体内、臓器でいう肺に位置する場所には、帝政ロシア時代の白軍の残党によって都市が建築されていた。正式名称は永遠王国ネバーキングダム、覚醒都市バイカルヴェイ。ここに至るまでの背景やドラマは非常に込み入っていて複雑。一から十まで説明すれば、歴史の教科書ができてしまうほどのボリュームある出来事が満載だ。誰かに物語を読み聞かせるなら、前提知識を共有し、足並みを揃えた状態で続きを進めるのがフェアというものだろう。ただ、黒髪短髪の褐色肌の少年……ジェノ・アンダーソンにとって大事なのは今だった。


「――超原子拳アトミックインパクト!!!!」


 放つのは渾身の右ストレート。学ランめいた青の隊員服の袖を目一杯に伸ばし、渾身の必殺技を相手へと打ち付ける。拳には銀色の光……センスが纏われており、肉体に加算して攻撃の威力を高める単純な意思が込められていた。


 伸ばした腕の先にいるのは、銀髪ロングで尖った耳が特徴的な大人びた魔女ベアト・リーチェ。黒いローブに黒い杖を装備しており、地面がひび割れたビルの屋上に立っている。拳が直撃すれば数メートル規模の大穴ができるほどの威力なのに、冷や汗一つかいていない。


「…………」


 とはいえ、生身の肉体で受ける愚行には及ばず、杖先に銀色のセンスを集中させ、軽くスイング。放たれたジェノの拳を迎撃し、眩い閃光を散らした。押し引きはなく、センスを加味した力は完全に拮抗しており、衝突は相殺に終わる。


 たぶん、リーチェが本気を出していれば押し負けていた。模擬戦だからこそ、あえて加減をし、同じぐらいの力量で勝負してくれているのだろう。使い古された表現だけど、赤子をひねるような感覚で手合わせされているのが今の攻防だけで伝わってくる。この人にどうにかして追いつかなければいけない。約3か月後の12月25日までに真剣勝負ができるぐらいまで成長しなければならない。


 拳に焦りが募り、幾度も空振りを重ねる。その隙を見逃すリーチェではなく、空ぶる度に杖先を叩き込み、ジェノにダメージを蓄積させていた。本気なら一撃で倒されてもおかしくない精度だったけど、力加減をされたおかげで立っていられるし、おかげで課題が見えてくる。


 大雑把なセンスコントロールは、繊細なセンスコントロールの前には歯が立たない。仮に肉体とセンスを加算した攻防力が限りなく五分に近くても、どの部位に集中させるかで結果が異なる。


 ジェノの場合、拳に8割ほどのセンスを集中させ、残り2割を身体に纏うのがデフォルトの出力になっている。超原子拳アトミックインパクトなどの必殺技を用いる場合は拳に10割の力を集中させ、突き抜けた攻撃力と引き換えに、防御力は犠牲にする特攻スタイルを貫いていた。


 一方のリーチェは、センスに偏りがない。基本は満遍なく全身に張り巡らせた状態をデフォルトとし、敵のセンスに薄い箇所が出れば強気なセンス配分に変える反撃スタイル。自分から隙を作らないためってのもあるだろうけど、力まないようにセンスを調整しているように思えた。


 個人的な感覚の話になるけど、センスを一部分に集中した状態から、別の部位に移動させるのは滅茶苦茶しんどい。その回数が多ければ多いほど脳の回路が焼き切れるような疲労感に襲われる。そのスイッチングコストを避けるために、極力はデフォルト状態で処理するように徹底しているんだろう。そうすれば、疲れない。毎回毎回8割のセンスを右拳、左拳、右足、左足と移動させていれば、いくらセンスの総量がズバ抜けて多かったとしても脳みその方が先に参ってしまう。


 ようは、スタミナ切れだ。長距離マラソンを走り切る体力があったとしても、短距離走のペース配分に変えれば、すぐに力尽きてしまう。それと似たような現象が目の前で起きており、攻防を繰り返す度にセンスの乗りが悪くなるのを感じる。


 部位から部位へ移る伝達速度が遅くなり、肉体とセンスに齟齬が生じる。拳がインパクトを迎えた瞬間に、センスが追いついてこなかった。リーチェのように身体を満遍なく覆うことも考えたけど、今すぐに修正するのは難しい。あれこれと闘い方を変えるのは、フィードバックを受けた後だと判断していた。


 ともかく今は、これまでの経験と技術に頼るまで。

 

「――――」

 

 ジェノは左手を握った状態から人差し指と中指を突き立て、目の前にセンスで形作った縦長の結界を展開する。リーチェを閉じ込めるものではなく、彼女との間に一枚の壁を作るような形状を意識していた。付与した特殊効果はなし。長期戦を考慮して、省エネ気味に戦うにはどうすればいいかを考えた結果の手法だった。


「……」


 リーチェは何もせずに身構えている。反撃を好むなら当然というべきか、策があるなら早くやってみろと言わんばかりに、挑発的な目線をこちらに向けている。


「――!」


 お望み通り、ジェノは右拳を打ち出し、自分で形作った結界を破壊する。それに伴い飛び散った破片はリーチェに襲い掛かり、迎撃を余儀なくさせる状況を作り出した。目論見通り、彼女は杖をグルリと円を描くように回し、破片を弾いている。その間にジェノはリーチェの背後に回り込み、右拳を振りかぶっていた。


「――超貫通拳バンカーインパクト!!!!」


 放つのは貫通効果を付与した右ストレート。単純な攻撃力なら超原子拳アトミックインパクトに劣るけど、狙いは別にあった。武器を破壊することに重きを置いており、先ほどのように杖で受けるなら戦況は一変する。


「……」


 しかし、リーチェは一枚上手だった。センスを集中させた杖をスイングして、拳の迎撃を試みたのはさっきと変わらないけど、当てた角度が違う。さっきは右から左に振る形だったけど、今度は下から上だった。


 ガゴンと音を立て、ジェノの拳に込められた意味は暴発する。斜め上方向に向けて貫通効果のあるセンスが飛び、屋上にある室外機を軽く焼き払い、やがて散乱していった。コースも計算済みだったんだろう。特に目立った被害が出ることはなく、必要最小限のセンス配分で受け切っていた。


 駄目だな。通常形態じゃ、ここらが限界だ。別の観測結果を望むなら、次の領域に足を踏み入れる必要がある。


「目には目を、歯には歯を、まつろわぬものには――」


「そこまで。今のあなたの実力はよく分かった。それ以上無茶をするならアドバイスは割愛することになるけど、どうする?」


 ここからというところでリーチェは模擬戦の終わりを提案する。無理を言えばこの続きをできるんだろうけど、フィードバックが得らなければ模擬戦を申し込んだ意味が半分ほど薄れてしまう。


「完敗です。参りました。どこが駄目だったか教えてもらえますか?」


 ジェノは素直に負けを認め、隊員服の内ポケットからメモとペンを取り出し、聞き入る姿勢になった。これまで色々とあったけど、今の彼女とは師弟の絆で結ばれている。過去はどうあれ、提案を無視してまで戦いを強行するのはよそうと思えるぐらいの関係性は構築できていた。


「結論から言えば、あなたに足りていないのはライバルね」


「……というのは?」


「目上の人や格上の相手との戦闘経験を重ねすぎたせいで、トリッキーな戦法が身体に馴染んでしまっている。格上と10回対戦したら1回ぐらいは勝てるかもしれないけど、それだと勝率は安定しない。同程度の相手や格下にも上振れを引かれたら簡単に負けてしまうぐらいには不安定に見える。センスのコントロールや、新しい必殺技……なんて小手先の方法で解決できるものじゃなく、根っこを改善しなければ、0か100かのピーキーな結果しか出せない残念な使い手になるわ」


「うわぁ……心当たりしかないや……。身の丈に合わないことに挑戦しすぎた弊害……かもしれませんね」


「まぁ、強い相手と戦うこと自体は悪いことじゃないし、流れと状況によっては相手を選べないことも多いから自分を責めることでもない。ただ、あなたの人生経験が目上と格上に偏っただけ。今から調整すれば十分間に合う」


「その解決策がライバルってわけですか」


「ええ。実力が近ければ近いほど、互いに刺激を与えあって相乗効果を望める。それに、背伸びをしてる状態ってのはライバルがいた方が可視化されやすいのよね。私は格上だからあなたと同じぐらいの実力まで落とすことはできるけど、無理して実力を上げる辛さはあなたにしか分からない。さすがに鎧化まで踏み切ろうとすれば一目で駄目だと分かるけど、それ以下の細かい塩梅は自分で見つけるか、同程度のライバルを見て学ぶしかないのよね」


「人の振り見て我が振り直せってやつですか」


「そういうこと。戦闘スタイルは慣れ親しんだ今のままでいいから、ライバルを見つけてきなさい。それがナロト攻略を再開する唯一にして絶対の条件よ」


 リーチェはもっともな正論を言い放ち、ジェノはビルの屋上から見える覚醒都市の摩天楼を遠い目で見つめていた。

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