第二十五話 決意のぬくもり
「僕はもう君から離れないよ!もう君を一人にはさせない。もう二度と」
そう叫ぶ愛しい弟の声はひどくしゃがれていた。
コリーンは自分の熱い涙が弟の体につたりおちるのを感じたが、どうしても涙をとめることができなかった。彼は自分に泣いてほしくないと願っているのに……!
「コリーン。君を愛してる。家族愛でも兄弟愛でもない!もっと深い愛なんだ。君が笑ってくれるのなら僕はなんだってするから…!だから、もう苦しまないで!」
コリーンは弟の愛を聞きながら、濡れた瞳を閉じた。
ああ…これはもっとも私が求めていたもの…。心の裏でひた隠ししていた思い…!
「…レクシアス。どうかここにいてね。片時もはなれないで…」
そう彼女が告げたとき、コリーンの体中から力が抜けた。
レクシアスは彼女の額にキスをする。
コリーンは安心とぬくもりに抱かれて眠っていた。
*
「陛下。エレーナ皇女が陛下をお呼びです」フルツスーシ大臣がそう告げると、コリーンはにこやかな笑みをうかべてレクシアスの手をとり、エレーナの部屋へ向かった。
明日、いよいよエレーナはコルニース大公国へ旅立つ。
コリーンとレクシアスは幸せだった。レクシアスが訪れた日から、コリーンの人生には希望という光がさしたようだった。あれから二年。エレーナとも話をし、今では世界で最も仲の良い姉妹といわれるようにもなったのだ。エレーナは13歳で、嫁ぎ先のコルニース大公の子息と恋に落ちていた。そしてコリーンとレクシアスも、決して不自然でないように愛し合っていた。
完璧なレクシアスと、優美できらびやかなコリーンの姿はギリシャ神話の神々のようだと湛えられ、さまざまな国から賞賛を浴びていた。
「コリーン!!レクシアス!明日このドレスを着ようと思うの。どうかしら?」
エレーナが無邪気に笑いながら二人を迎え、バラ色のドレスをキラキラさせながらくるりと一回転してみせた。レクシアスは微笑んだ。「似合ってるよ。でも花嫁衣裳をきたらもっときれいだろうな」
エレーナは恥ずかしそうに小さく笑い、それから探るような目つきでコリーンを見た。
コリーンは黙ったままエレーナを優しく抱いた。
「きれいよ。エレーナ。まるで天使のようだわ」
「ほんとう?」エレーナは目を輝かせた。
そのとき、部屋の扉が開いて召使のアンナが二歳になったクリスティーナを抱いて現れた。
エレーナは歓喜の声を上げた。「あ!きたのね。クリスティーナ!」
アンナはコリーンに向かって微笑を投げ、それからゆっくりとお辞儀した。
「エレーナ皇女様がドレスをぜひクリスティーナ様にお見せしたいと言っておりましたので」
「いい考えだわ!ほら、クリスティーナはあなたを見て目を見張ってる」
コリーンは明るい笑い声を上げ、それからクリスティーナのカールした金髪を指にからめた。クリスティーナは美しくなったエレーナにじっと見入っており、母親さえも気付かないようだった。レクシアスが笑った。
「どうだい!僕の妹は誇らしいよ!!」