12- 幾千の運命が交わる街
「おおおぉぉ~~~~」
目を輝かせて車窓から外を眺める咲夜歌。
出発してから約一時間半くらい。郊外を抜けて、遂にレベルシティに着いた。近くで見ればより迫力のあるスチームパンク的街並みだ。いくつもの塔。吹き出る紫の靄。いくつもの巨大な街頭テレビ。十数秒おきに色々な広告が流れているようだ。
路上に目をやると、いろいろな種族が右へ左へ行き交うのが見える。中には咲夜歌が見たことのない種族もいる。植物のような種族や、炎の形をした種族までいる。もちろん、咲夜歌が出発前に興奮気味に話していたお目当ての機械族もお目見えだ。
道路は、家々が立ち並ぶのに交通整備がそんなに整ってなさそうな上、車が行き交うのに道が狭くて走りにくそうだ。
「中央の塔、紫の煙が噴き出してるけど……何かをエネルギーにしてる?」
背の高い建物の合間から見える、中央に鎮座している大小さまざまな塔。独り言のように呟いた咲夜歌だが、その疑問をイミラが答えてくれるようだ。塔を一瞥してから口を開いた。
「ああ。確か……マナを使ってマナ鉱石を掘り出してるヤツだ。どんな無尽蔵にエネルギー生み出せるといっても、使うエネルギーがあまりにも多すぎたり一気に消費されたりするとマナは空気中に霧散する。それがあれだ」
「へえ……マナも消えてなくなるのね?」
「いや、厳密には消えるわけじゃない。マナはもともと空気中にほんの微量に存在してる。結局のところ循環してるに過ぎない。ああなっちまうとすぐにエネルギーや魔法に変換はできないが……」
普段が無口でいることが多いイミラが饒舌に語った。グラスも、今説明されたことを知らなかったらしい、運転するイミラを見つめて熱心に聞いていた。マナについての情報が色々耳に届いて、頭がパンクしそうなのをこらえて話を逸らす。
「め、めっちゃ詳しいじゃん。何~~マナの専門家にでもなったらどう~~??」
「常識だ」
魔法を扱うものにとっては常識なのだろう。少し喋りすぎたと自覚したイミラは、それ以降口を噤んで運転を続けた。
*
「じゃ、俺は行ってくる。お昼くらいに終わると思うから、それまで適当にぶらぶらしてて時間つぶしておいてくれ」
「は~い!」
「待ってるわね!」
梱包された絵画を魔法で持ち上げて、グラスと咲夜歌に別れを告げた。その背中を見届けて、イミラの車の横、残された二人はどうしようかと考える。様々な種族が行き交う都会が目の前に。圧倒されつつも咲夜歌はあたりを見渡す。
今の時間、昼食を取るにはまだ早い。少しなら時間があるということだ。咲夜歌が前々から思っていたことをついに実行に移せる。
「ねえグラスちゃん。服屋見に行かない?女物の服も一応欲しいかも~~って……」
「いいよ!でもお金は使いすぎないようにね!」
「もちろん!グラスちゃんも着たいのあったら買っちゃいましょ!どうせならイミラちゃんの分も買っちゃったりして!きっと喜ぶわよ~~」
「うん!いいかも!洋服屋さんならあっちだね〜」
グラスの指さしを辿ると、確かに看板の案内に服屋と記載されているところがあった。よし、とグラスのもふもふな手を引いて、数多の種族の波に二人は入っていった。