キャッチボールはできないようです。
迷走してる感否めなくて申し訳ないです。
「あの、話って何ですか?」
一刻も早く解放されたくて中庭に着いて早々に口を開く。その場しのぎで嘘だらけの話をしても彼女はきっと納得してくれないだろう。後のトラブルを考えて、ここは話せる部分は素直に話した方がいいと思う。
「大澤さんってB組よね?どうして英司や翔とそんなに仲が良いの?」
「翔は幼馴染みなんで。英司は翔を介して仲良くなった友人です。」
猪みたいに突撃しかねない彼女の状態に思わず敬語になってしまった。いやでも、別に仲良くしたいわけでもないし。
「幼馴染み!?嘘よ!翔に幼馴染みがいるなんて設定なかったわ!」
「そう言われましても事実なんで…。てか、設定って何ですか?」
おーい相澤さん。先生の時も思ったが逆ハールートとか設定とか言っちゃ駄目でしょ。私が本当にこの世界に元からいる存在だったら完全に変な人認定されてるよ。というか既に先生が認定してそうだよ。
とりあえずトリップしてることは出来るだけバレたくないので、頑張って最低限の情報だけで切り抜けよう。
「さては貴女も逆ハー狙いなのね!?アタシと同じで転生の時に神様に頼んで翔の幼馴染みにしてもらうようお願いしたんでしょ!?」
あれ?相澤さんは転生なの?神様に会ったの?
それより、
「あの、さっきから設定とか転生とか神様とか全く分から「五月蝿いわね!しらばっくれても無駄よ!アタシはねぇ、シークレットのスチル解放前にこっちに来ちゃったのよ!アレは絶対逆ハーのルートのよ!解放出来なかったのは残念だったけど、リアルで体験してやるんだから邪魔しないでよね!!」な……。」
駄目だこの人…言葉のキャッチボールが出来ない…。残念すぎる。
私が転生者(違うけど、まぁ似たようなものか)だと信じて疑わない彼女の暴走を止める術はないらしい。
私もゲームをコンプリートしたくらいだ、どのキャラも個性的で大好きだ。勿論それはリアルな人間としての彼等でも変わらない。
だからといって恋愛したいかと言われると正直遠慮したい。
確かにお付き合いできたらいいなぁとも思うけど、そこは精神年齢28歳。一回り近くも年下の男の子となんか罪悪感湧きそうでガツガツいけない。
それを思えば今の環境で満足なのだ。幼馴染みと友人のおかげで適度な距離からイケメン集団を眺めることができる。眼福眼福。感謝しかない。
「えっと、相澤さんが何を言ってるのかさっぱり分からないんですけど。他の人はともかく、もし翔や英司を傷付けるようなことをするなら私は許しません。大事な幼馴染みと友人が傷付くのを見るのは嫌ですから。」
他の攻略対象者達と直接の接触はまだないので扱いは悪くなるのは許してほしい。相澤さんの喧嘩を買うような返しになってしまったのは失敗したかもしれないけど。
「なっ!?…ふんっ、どうなっても知らないからね!」
最後までこちらへ言葉の球が返ってこないまま相澤さんは校舎の方へ消えていった。恐らくまだ補習中の彼等のところへ戻ったのだろう。
「いやぁ、凄い。凄い残念な人だ。シークレット以外終わってるとは思えないよ相澤さん。コンプリートしてる私から言わせてもらうけどさ。」
このゲーム、逆ハールートは存在しないんだよねぇ。