第71話 憎悪の種
「くそっ!」
暗い部屋。
枕を殴る音が聞こえる。
「僕をばかにしやがって!」
実際には彼が思ってる様なことにはなっていないが、彼の中ではバカにされていた。
「父様もあいつは危険だって言ってた!」
彼は枕を殴り続ける。
「くそっ!くそっ!僕があんな目に合うのも全部あいつのせいだ!あの転入生、絶対に後悔させてやる!」
彼は他罰をし続ける。
彼の学園内での立場は悪い。
それもこれも全て転入生のせいだ。
実際はそんなことないのだが、彼にとってはむしろその方が都合がよかった。
やがて殴るだけでは足りなくなった彼はサイドテーブルからナイフを取り出すと、枕に突き刺しだした。
「死ね!死ね!死ね!死ね!」
こうして、勘違いを抱えたまま彼は憎悪を増幅させていった。
視点は別の人物に移動する。
彼は王の前で粗相をしたため、ひときわ王の怒りを強く買った。
「くっ、この私がこのようなことになるとは……」
貴族として、これからを期待されていた彼が、よもやこんなところで襤褸をまとっていようとは、誰も思わないだろう。
まさに彼の人生は転がり落ちて行ったところだ。
もはや再起は見込めない。
「くそっ!なぜ私がこんな目に合わねばならぬのだ!」
彼もまた、憎悪を燃え上がらせる。
しかし彼には金があった。
王も領地は没収したが、金までは奪わなかった。
その金を元手に何かしら事業をする道もあったのだろうが、彼にはその選択は初めからなかった。
嫁と子も逃げ出した今、彼を縛るものは何もない。
彼は入り組んだ路地を進んだ先の、人があまり立ち寄らなそうな店に入った。
そして、店内を物色する。
お目当ての物を見つけた。
「これを、在庫を含め全部もらおう」
「いえ、しかし身元不明な方にこちらの品をお売りするわけには……。数も数ですし……」
すると彼は家紋が刻印された手鏡を出した。
「こっ、これは」
店主はすぐに謝罪をした。
「しっ、失礼しました!まさかお貴族様とは露知らず……」
「売れるな?」
「はっはい!もちろんでございます」
店主は商人としてあるまじき情報の疎さだった。
彼が失脚して、その家紋ももはや意味をなさないことを知らなかったのだ。
そうして商人は売ってしまった。
それも大量に。
「あんなに大量に買い込んで、戦争でも始めるのか?」
彼の去る後ろ姿を眺めつつ、ぽつりとつぶやく。
彼が何のためにそれを買い込んだのかは、少し後に知ることになった。
一方、買った貴族。
借りた台車を引き、これまた借りた倉庫にひた走る。
「ふはは……これだけ、これだけあれば」
他の店では自身の傷ついたブランドが邪魔をして買えなかったのだ。
おかげで服も揃えられず、原型がなくなりそうなローブを被っているのだ。
先ほど、再起は見込めないと言ったが、そのチャンスがないという意味ではない。
彼にその気がないのだ。
彼が求めているのは破滅のみ。
自身も、他者も燃やし尽くす破滅のみだった。




