第61話 善意の爆心地
算術が始まるまでの休み時間に芽結が来た。
お供も連れて。
それに合わせて他の女子も何人か来た。
「少し、よろしくて?」
「あ、僕の椅子でよければお使いください。殿下」
「あら、ありがとう」
とっさに座っていた椅子を差し出したけど問題なかったのだろうか?
しかし、うーん。お姫様なんだよなぁ。あの芽結が。
「あの、お二人はどういった関係ですの?」
うわー。
ついにされてしまった。この質問。
どう答えたらいいんだろう?
「婚約者よ」
「「「キャーーーーー!」」」「まあ!」
オイイイイイイイイイイ!!!?!?!!?!
え?何言っちゃってんの?何言っちゃってんのぉ!?
「レイさんはどんな方ですの?」
「困っている人を放っておけない人よ。昔からね」
「以前からお知り合いなのですか?」
「前世からね」
芽結さん、芽結さん。
前世の概念はないからそれは通じないと思います。
というか、その話題、ここでやる必要ってある?
キャッキャキャッキャと僕の席で盛り上がるお姫様たち。
隣からは鋭い視線が飛んできていてとても居心地が悪い。
芽結は何がしたいんだろう?
「あらー。そろそろ時間ですわね」
さっき一人だけ「キャー!」じゃなくて「まあ!」って言ったおっとりタイプの子が10進数の時計を見て言う。
「では、次の授業の準備に戻りましょう。お邪魔しました」
そう言って席を立った芽結は、
「そうそう、次はあまり本気を出さないようにね」
そう、少し砕けた口調で言ってきた。
地球の知識で無双とかすんなって意味か。
僕は無言でうなずく。
「「「キャーーー!」」」「まあ!」
え?今のキャーは何?
僕の疑問を置いて皆各々の席に戻っていく。
芽結に言われずとも、進んで目立つような真似はしないさ。
わざと間違えるようなこともしないけども。
ゴーンゴーンと始業の鐘が鳴る。
てか、始業の鐘まであるのかよ。
いや、何でも芽結の影響って考えるのは早計か。
元々この世界にあったものかもしれないしな。制服も。
始業の鐘からしばし、教師が入室してくる。
「では、今から算術の授業を開始します」
と、言うわけで算数……もとい、算術が始まった。
ありがたいことに、この世界でも10進法が使われている。
12進法とか16進法とかだと混乱してただろうな。
地球でも16進数の計算は16進数用の電卓頼りだったし。
ちなみにほとんどの子が小1くらいの算数力だけど、時計は読める。
貴族の家出身だから、入学までの間に必要になるんだろうね。
しかし、地球の学校形態に慣れてると、15歳で学園生活が始まるのって遅すぎる気がするよね。
時期的に、まだ地球で言うところの6月くらいなので、授業はそこまで進んでる訳じゃなさそう。
とはいえ、もうかけ算をやっているのでかなり進んでるとも言えるか。
みんな必死に計算してる。
少し間を置いてモーリタ先生が「では、この問題わかる人いますか~?」と、お馴染みのやつをやってる。
誰も手を挙げない中、僕の隣の子が挙手する。
例の、僕を睨み付けてる子だ。
「答は12だ」
「せーいかいですー。みなさん、拍手~」
モーリタ先生が拍手を促す。
パラパラとした拍手。
僕は全力で拍手。
いや、実際すごいと思うんだよ。
他の人が躊躇している中、挙手して回答。そのまま正解してるんだから。
たとえこれが間違っていても、彼がチャレンジをしたことに変わりはないし、挑みもせず笑う人間より先に進めるよね。
それに、インプットよりアウトプットの方が大事って聞いたこともあるし、何より彼の勉学に対する意欲の高さがよくわかる。
だから、僕はおべっかとかそういうんじゃなくて全力で拍手をする。
「チッ」
それが気まずかったのか、彼は顔を背けて舌打ちをして席に着いた。
そもそも僕はなんで彼に嫌われているんだろう?
もやもやした気持ちを抱えながら、算術の時間は過ぎて行った。
第1話でスリリース男爵領があると書いてありましたが、レハチワでは伯爵以上の上級貴族でないと領土はもらえないので伯爵領に変更致しました。




