第51話 短慮の結果
「失礼します!急ぎ、報告したいことがございます」
慌てて転がり込んできた兵士を、一番近くにいたお貴族様が叱責する。
「貴様!ここがどれだけ大事な場かわかっておるのか?」
「よい。報告せよ」
王様の助け舟に、安堵する兵士と、本当に小さく舌打ちをする貴族。
王様には聞こえない距離だと思うけど、大丈夫なの?
「セテラムが陥落しました!わが軍はナウォック小国群に入る前で待機しております」
「なんということだ……」
広がる喧噪。
珍しく王様も動揺している。
スルラとメリアも驚いている。
先ほど陽動だろうと言ったばかりだ。
「セテラムの隣国、パネロミア、ブイニシャ、ニロパップはどうなっている?」
宰相が問うけど兵士は若干歯切れが悪い。
「それが……」
「申してみよ」
王様の催促に応える兵士。
「どうやら、セテラムはほぼ無抵抗だったようです。理由は薬物が蔓延していたため。ラーンク軍はかなりの少数で攻めてきたため、隣国は防備を固め、無事です」
喧噪が怒号に変わる。
う。耳が痛い。
大きな音、苦手なんだよね。
「静まれ」
王様の威厳、相変わらずだ。
「ツキーズ、どう見る?」
「ハッ。あまりにもミカミイ要塞攻めとの時期が合いすぎる点。セテラムに少数しか送り込まなかった点を考えると、間違いなくラーンクの策謀でしょう」
僕でもそう思う。
というかその攻め方、悪辣すぎない?
あーでも日本にいた時に習った世界史だともっとえげつないことやってる国あったしなぁ。
「これは断じて許されることではありません!ちょうどよい機会です。その者を使ってラーンクを滅ぼすべきと進言します」
若い貴族が吠えた。
周りからはそうだそうだと声が上がる。
それに苦い顔をしている貴族は多いけど、同調している者も少しではあるけどいるみたいだ。
なんか、いや、わかってたけどね?
道具として見られてるの、悲しいなぁ。
枕詞に『都合のいい』とつくわけだし。
「私は以前にも言ったぞ。「この者を使って、そのようなことはせぬ」」
王様の視線がすごく冷たくなってる。
しかし、若い貴族はそれに気づかない。
「王は甘いと言わざるを得ません!今叩かねば後悔しますぞ!」
さすがに今回は同調する声は聞こえない。
王様の目がスッと細められる。
こっわ。
「貴族という立場でありながら先のことを考えず、今の恐怖に縛られる。その上自分が正しいと思いあがったうえ、この者を利用しようと言い出す。実に不愉快だ」
僕もうこの場に居たくない。帰りたい。お腹痛い。
僕も無関係じゃないから本当に嫌だ。
王様がかばってくれてるから安全とか、そういうんじゃないんだよ。
この気まずさというか、いたたまれなさ、どう言えば伝わるだろう?
超しんどい。
芽結と隣国にでも逃げ出したい。
「カヌティ卿、退出したまえ」
宰相が退出を促す。
「王よ!私は国のことを考えて言っているのですぞ!」
なおも食い下がる若い貴族。
王様はゴミを見るような目になっていた。
怖すぎ。
「衛兵。連れていけ」
部屋に控えていた衛兵が動き出す。
「なっ!?無礼な!私に触れる不敬は許さぬぞ」
「私が許す」
抵抗する貴族。
王様は淡々と衛兵に許可を出す。
帰りたい。
とうとう脇を固められた若い貴族は、連行されていく。
と、こちらを凄い目で睨んできた。
嫌だなぁ。
逆恨みじゃない?それ。
はぁぁぁぁ。
静かに扉が閉まる。
何回場が荒れれば気が済むのか。
「まったく、戦争以外にもいくらでも方法はあるというのに、愚かなものだ」
小さく呟く宰相の声が、僕の耳に届いたのだった。




