第七十四章 帰省早々 6.強者vs強者~沿岸警邏命令~
~Side 水産ギルド・ギルド長~
「俺じゃなくて三ギルドとは取引の無い水産ギルドが、一回こっきり取引するだけなら、向こうも文句も付けにくいでしょう。
「けどまぁ一回でも取引したら、それを耳にした連中が、やいのやいのと集まって来そうですしね。各方面には一応根回ししておくのをお勧めしますよ」
……なんて事をしれっと言いやがる。……しゃあねぇ。忌々しいが、ここはネモの坊主の策を採るっきゃ無ぇか。
にしても、その商人……
「魔素酔いの方は大丈夫なのか? 仕留めて直ぐの大水蛇なんざ、ウチの連中もそうそう持ち込めるたぁ言い切れねぇんだが」
仕留めて時間の経った大水蛇は、下手に捌くと魔素酔いをするからな。大水蛇の肉が評判良くねぇ理由の一つなんだが。
「確かめました。何でもラティメリアには魔素抜きの技術があるとかで、大丈夫だそうですよ」
「んだと? そんな便利な技術があんのかよ」
できたらこっちにもご伝授戴きてぇもんだが……無理だろうなぁ。
いや……そこは〝ものは考えよう〟ってやつで、魔素抜きの技術を持ってねぇ事を盾にとって、お偉方の追及を躱せねぇか?
やってやれねぇ事も無さそうだが……魔素抜きの技術獲得を狙って、隣国の商人か何かと交渉しようってやつらが出て来そうだな。ネモの言う外務閥ってやつに、一言断っておくべきかもしれんが……こちとら田舎の一介のギルド長なんだ。そんな知り合いはいねぇんだよなぁ。ネモの伝手を頼るって手もあるが……駄目だな。大事になりそうな予感しかしねぇわ。
……いっそレンフォール公爵家に話を持って行くか?
あの商人――ハラディンとか言ってたが、そもそも奴さん自身が公爵家の招きでこの国に来たとか言ってたからな。公爵家に話を持ってった方が、角は立たんだろう。そうしよう。
まぁとにかく、これに関しちゃここらで〆って事にして、ネモの坊主にゃ――
「もう一つ相談があるんだがな」
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~Side ネモ~
ギルド長の相談ってのは、ちょっと意外な話だった。
「……蟹籠が壊されてる? 妨害行為か何かですか?」
「いや。どうも何か動物の仕業らしい」
「動物? ……蟹籠を壊してるのが?」
ギルド長の話に拠ると、壊された蟹籠は一つや二つじゃなく、広い範囲で複数人に被害が生じているそうだ。犯人(?)の動物も正体は疎か、一匹なのか複数いるのか、それすらはっきりしないんだと。
「足跡とかは……無理ですか」
「無理だな。荒らされたなぁ岩蟹獲りの罠だ。あいつらがいるなぁ荒磯だから、そもそも足跡なんざ残りゃしねぇ」
正体不明なのはともかくとして、その動物も何でそんな妙な真似をするんだと思ってたが……どうやら蟹を誘き寄せるための餌が目当てらしい。そりゃまあ、罠には漏れ無く餌が入ってるわけだからな。多少餌がショボかろうと、高確率で手に入るってんなら、目を付けるやつがいてもおかしかねぇか。
「で、な。荒らされた籠が浅瀬にあるやつばかりなら、テキだって歩いて近付けるだろうから問題は無ぇ。けどな、荒らされた中にゃかなり深い場所に仕掛けられたやつもあったんだ」
……そうすると、水に潜りでもしなきゃ、蟹籠に近づくのは難しいか。熊や山犬は潜水しない筈だから、下手人と考えるには無理がある。……川獺か何かか?
どっちにしても、こりゃ現場を見張ってなきゃ判らんな。
「で――だな。動物相手って事で、猟師の連中が見廻りをしてくれるそうだが、水産ギルドとしても知らん顔はできねぇ。かと言って、山径を歩くのに慣れた者は多くねぇ。そこで――」
「俺が水産ギルドの代表って事で同行する……ってわけですか?」
「頼めるか?」
……まぁなぁ。ハラディンの件で譲歩してもらったところだし、こっちは俺が譲るのが正解だろう。
しかし……そうだな。
「あ? お前んとこのチビどもを連れてく? ……大丈夫なのか?」
「あいつらの面倒は俺が見ますよ。これでも長男なんでね」
猟師さんたちとも話を詰めなきゃならんだろうから、今日明日って話じゃなさそうだが……あいつらもそろそろ、山野の歩き方ってのを見といていい頃合いだからな。好い機会だと思って利用させてもらう事にしよう。




