第七十四章 帰省早々 4.強者vs強(したた)か者(その2)
~Side ネモ~
そっちから情報が漏れたのかと思ったが、ラティメリアじゃ蛇の肉に強壮効果があるってのは、一部じゃ知られた話なんだと。そう言やオルラント王国でも、マムシの血や肉は、薬膳料理の材料として一級品だそうだしな。
ハラディンはそこから考えて、大水蛇のどデカい図体なら、肉もそれなりにたくさん採れるんじゃないかと思い付いたらしい。
「新鮮な肉さえ提供してもらえれば、それを加工するのはラティメリアでやる。保存食作りにはそれなりに一家言ある者も多いのでね」
あー……遊牧民ならそういう事もあるか。
【収納】に仕舞ってある分を渡す事はできるが、ハラディンの口振りだと、今後も継続しての取引を言い出しかねんな。……水産ギルドを巻き込むか。
面倒な話を俺に振ってきたのはギルドの方なんだし、相応の責任ってやつは負ってもらわなくちゃな。
ま、それはいいんだが……ハラディンのやつ、エルとの関係についちゃ何も口にしないな。エルとの血縁関係を明かすと、済し崩しにアスランとの関係まで突っ込まれそうだから、纏めて知らんぷりを決め込もうってか?
まぁそりゃ解らないでもないが……それってつまり、交渉に際して何の忖度も不要だって事だよな?
********
~Side ハラディン~
アスラン様の事もあるし、甥との関係は伏せて話をしたんだが……失策だったかもしれない。
どれだけ存在感を発していようが所詮は子供、積み重ねてきた年季の違いでどうにでもできると思っていたのだが……今にして思えば、見かけだけで相手を侮るという、商人としては一番やってはならぬ禁を犯していた事に気付く。
――この少年は見かけどおりの相手じゃない。
見かけの凶相に惑わされて、威圧だけの相手と思い込んでいたが……想像以上に強かで隙を見せない交渉者だった。
口許には微かな笑みを浮かべているが、肝心の眼が笑っていない。
いや……目付きは確かに鋭いんだが威嚇する風ではなく、寧ろ目許は柔和にすら見える。見えるんだが……その視線に籠められたものは、乗り気とか迎合とか、そういったものとはほど遠い。
不快や不信の色は窺えないのは幸いだが、何と言うか……自分よりも一段二段の高みから、慈愛と言うか憐憫と言うか隔意と言うか……そういったものを籠めて見られているような気がする。
……やりにくい相手だ。
こちらの申し出は一応興味深げに聞いてはくれるし、否定的な台詞も発しはしないんだが、その一方で明確な返事は寄越さず、言葉尻すら掴ませようとはしない。……本当に甥っ子のやつと同い年なのか疑いたくなるんだが……
いっそ最初からエルとの関係を明かし、腹を割って話すべきだったのかもしれない。しかし、今更エルの事を明かしても、なぜ用心していたのかを説明できん。ズルズルと追及を重ねられ、済し崩しにアスラン様の事まで白状させられそうな気がする。
……と言うか寧ろ、既にアスラン様の正体に気付いていて、それを明かさなかった事でこちらを見限ったようにすら思える。
……今更臍を噬んでもどうにもならんな。このまま一介の商人として、取引の話に徹するしか無いだろう。せめてこの少年との伝手だけは、絶やさんようにしなくてはな。
********
~Side ネモ~
ハラディンのやつ、何が何でも大水蛇の肉を持って帰ろうってのか、鬼気人を襲うような勢いで迫って来るんだが……俺もここに常駐してるわけじゃないしなぁ。そう言って断ろうにも、それなら王都にやって来ると言いかねない勢いなんだよなぁ。こりゃ、どうにかして矛先を逸らさんと拙いわ。
前世仕込みのアルカイック・スマイルで誤魔化すのも限界があるな。前世は目付きのせいで誤解される事も多くて苦労したから、外面を繕うスキルはそれなりに磨いたんだが、こうもグイグイ来られちゃあな。
……しゃあねぇ。ここはやっぱり水産ギルドを巻き込む一手だな。尻拭いはギルド長に押し付けよう。




